【サアラの帰還】
サアラが2か月ぶりに戻った王都は一見、平和そのものだった。
両国の国境に位置するグリーンヒル砦までは公国の兵士がサアラを警備したが、砦からは王国の兵士が警備を受け継ぎ、彼女は予定通りの日程で王都に帰還した。
『・・・一体どういう事?』
馬車の窓越しから普段通りの王都を見たサアラは安心すると同時に不審にも感じていた。
既に時刻は夕方近くになっていたため、その日は王宮に向かわずに使者のみを立てる事にしたサアラは、真っすぐアムロード家の王都屋敷に向かう。
屋敷でサアラを待ち構えていたのは予想通りエドルだった。
「儂はお前をデール公国との停戦協議に送り出したはずだが、一体、何がどうなるとそういう話になるんだ?」
デール公国との停戦協議について一通りの報告を終えた後に、クリストファーからの求婚についてサアラが詳しく説明したにもかかわらず、エドルはまだ信じられないといった表情のままだ。
「それはこちらが聞きたいくらいです。」
「そもそも男女の恋愛に理屈は通用しないか・・・」
自分に納得させるように呟いたエドルは、気を取り直して話を続ける。
「その問題はひとまず後にしよう。それよりも今は他に話すべき事がある。」
「私が呼び戻された事にかかわるお話ですね。」
「その通り。さて、どこから話すべきか・・・最初に聞くが、お前は自分の母親の死因について、どの程度まで知っているのだ?」
「どの程度と申されましても、お母様は私が生まれてすぐに事故で亡くなられたとしか聞いておりません。そうではないのですか?」
「母親について今までお前にはそう説明してきた。しかしそれは正確ではない。」
「・・・どういう意味でしょうか?」
「あれは単なる事故などではない・・・お前の母は殺されたようなものだ。」




