【君去りし後Ⅱ】
その名前を聞いたクリストファーの反応は激烈だった。
「見せろ!」
大声で命令した彼は、書記官が恐る恐る差し出した私信をひったくるように受け取る。
一礼をした書記官が逃げるように執務室を去り、ビショップと二人きりになったクリストファーは震える手で封を開く。
その手紙は見覚えのあるたおやかな筆致で記されていた。
『わざわざ自分で書いたのか・・・相変わらず生真面目な奴だ。』
その事に彼女の気遣いを感じ取ったクリストファーの頬が自然と緩む。
サアラからの私信には、自分が無事に王都に到着した報告と、公都滞在中に世話になった事への感謝が綴られていた。
逆に言えばそれだけの内容である。
その短い文面を何度も読み返したクリストファーの表情が次第に厳しくなる。
「・・・緊急帰国したにもかかわらず、まるで何事も無かったかのような文面だ。これはおかしい。不自然だと思わないか?」
「帰国の理由が他国に話せない内容だという事ではありませんか?」
「私が最初から何も知らされていないなら何も書かないのは当然だが、少なくとも私は王国で何かが起こった事までは知っている。サアラもそれを知っている以上、具体的には書かないとしても『問題は解決しました』程度の連絡がある方が自然だ。それが無いというのは、つまりそうは書けなかったという事だよ。」
「となれば・・・」
「そう、問題は解決していない。むしろ深刻になっているのかもしれない。この何でもない文面の裏には私に心配をかけまいとする配慮と、それでも嘘はつきたくないというサアラの本心が隠されているように思えてならない。」
『ようやくいつもの殿下に戻られたようですね・・・』
落ち込んだままのクリストファーを心配していたビショップは、心の中で安堵する。
「ビショップ、王国で何が起こっているか徹底的に調べるぞ。」
久しぶりに聞いたクリストファーの力強い言葉に対し、ビショップの方も打てば響くように返答する。
「承知しました。まずは王国駐在のオルドリッジ子爵に情報収集を依頼します。それでも分からない様であれば、調査担当の人員を王都に派遣しましょう。」
「そうしてくれ。頼んだぞ。」
サアラとの別離から立ち直るきっかけを掴めずにいたクリストファーは、彼女からの「サイン」を受けて再び活動を開始した。
これが本年最後の更新となります。
今年も多くの方に読んで頂き、ありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。




