【サアラの選択】
王国への帰途、一人になったサアラは馬車に揺られながら公国での出来事を整理していた。
彼女が停戦協定の王国側代表として指名された理由は、ウィルド王太子を救出した女騎士を特定するためだった。
これについては当然王宮に報告すべきだろう。
問題は摂政からの求婚の方だ。
相手がデール公国のトップである以上、これをサアラの個人的な問題として片付けるのは明らかに無理がある。
とは言えサアラ自身、この事が王国にどの程度のインパクトを与えるのか、全く見当がつかなかった。
『やっぱりどう考えても隣国の摂政家に嫁ぐだなんて、あまりにも非現実的だわ・・・』
程度の差こそあれ、貴族子女の結婚とは基本的には政略結婚であり、結婚相手を自分では選べないという貴族社会の常識は、たとえ前世の記憶を持つサアラであっても拭い難い。
それどころか以前のサアラは結婚相手だけではなく、王都に縛り付けられた生活さえも自身の運命として受け入れていたのだ。
そのため互いの気持ちを確かめてもなお、全てを投げ捨てて相手の胸に飛び込む勇気は彼女には無かった。
しかしサアラを王都に縛り付けていた制限は今や存在しない。
変える事など不可能と思われた運命が脆くも崩れ去る様を彼女は目にしたのだ。
「運命に従うのではない。運命を従えるのだ。」というクリストファーの言葉が追い打ちをかけるようにサアラの胸に響いてくる。
『最初から諦める事はないのかもしれない・・・』
それは自身の結婚について貴族女性の常識で自らを縛り付け、頑なだったサアラの心に初めて起こった変化だった。
『そうよ、諦める事ならいつでも出来るわ。まずはお父様に相談してみましょう。』
サアラは自分一人で結論を出すのではなく、エドルの知恵を借りる事にした。
父親に相談するという選択からも分かる通り、恋愛に不慣れなサアラの恋愛観はどちらかと言えば保守的であり、クリストファーほど自由奔放な考え方が出来るわけではない。
それでも彼女は無意識の内に常識に抗おうとしていた。
サアラを乗せた馬車はひたすら王都を目指し走り続ける。
そして王都では新たな問題が彼女を待ち受けているのだった。
第7部 了
第7部 デール公国編は今回で終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
お互いの気持ちを確かめ合った直後に離れ離れになった二人ですが、このままでは終りません。
二人はいずれ再会する事になります。
しばらく構想を練る時間を頂き、第八部を書き進めたいと思います。
これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。




