【涙】
「摂政殿下、本当によろしいのですか?」
ビショップの質問に対して、クリストファーは努めて感情的にならないように答える。
「別に諦めた訳ではない。ここで素直にサアラを帰せばまたチャンスは出てくる。一旦引くだけの話だ。」
「そのような手間のかかるやり方ではなく、いっその事ミス・アムロードを強引に妻にしてしまえば良いではありませんか?」
「いつもなら慎重なお前らしくない事を言うものだ・・・私だって本当はそうしたい。しかしそれをすれば王国との関係がこじれるばかりではなく、特にアムロード家の怒りを買う事になる。だが一番の問題はサアラが二度と王国に里帰りできなくなる点だ。あいつはつい最近まで王都に縛り付けられ、自由を奪われていたんだぞ。また同じ目に合わせたくはない。」
「ミス・アムロードの気持ちを考えて、という事ですか・・・やれやれ、彼女も随分と愛されたものですな。」
「・・・・・・」
ビショップの結論をクリストファーは否定しなかった。
緊急命令を受けたサアラの帰国は大変慌ただしいものになった。
クリストファーはサアラが帰国するための馬車だけでなく、道中の警備の人員まで全てを用意してくれた。
そしていよいよ全ての準備が整い、別れの時が訪れた。
普段は摂政が使用する馬車に乗ったサアラはクリストファーに感謝の言葉を述べる。
「本当に何から何までありがとうございました。殿下のご厚情は決して忘れません。」
「別れの言葉は言わないぞ。サアラ、また会おう。」
「はい、きっと・・・」
感極まった彼女は涙を流している。
「泣くなサアラ、永遠の別れではないのだ。」
「殿下だって泣いているではありませんか。」
『何だと!?』
サアラに指摘され、自分の顔に触れたクリストファーはショックを受ける。
『そうか、私は泣いているのか。これが恋というものか・・・』
涙をぬぐったクリストファーは自分の想いを相手に伝える。
「たとえ遠く離れても、お前の事を一日とて思い出さない日は無いだろう。サアラ、お前を愛している。」
「私も同じ気持ちです、クリストファー殿下。」
「出発!」
警備隊長の号令を受け、無情にも馬車は動き出す。
そしてクリストファーは公国を去って行く彼女が見えなくなるまで立ち尽くし、見送った。
次回「サアラの選択」は第7部の最終回です。
12月4日(月)20時頃に公開予定です。




