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【予期せぬ命令Ⅱ】
それは王国代表であるサアラに対して、デール公国から即時・無条件で帰国せよとの緊急命令だった。
命令文書は必要事項だけが書かれた簡潔なものであり、彼女を帰国させる具体的な理由は一切記されていない。
『王国で何かあったようね・・・』
サアラは現在、王国の力が及ばない異国に滞在している。
それを十分認識しているアランならば、公国側が書簡の中身を検閲した場合に備えて、わざと詳しい内容を省いた可能性が高いと彼女は考えている。
王国での異変を直感した彼女だったが、帰国を実現するためには大きな障害が存在する。
『クリストファー殿下に帰国を報告しなければならないけど・・・』
現在の状況を考えると、クリストファーが帰国をあっさり認めてくれるとはとても思えなかった。
クリストファーの反応を想像すると気が重くなったが、本国の命令が出た以上、避けるわけにはいかない。
いつものようにサアラの部屋を訪ねてきたクリストファーに対して、彼女は真剣な表情で話しかける。
「摂政殿下、折り入ってお話がございます。」
次回「本当の気持ち」は、12月2日(土)20時頃に公開予定です。




