【馬術大会Ⅴ】
「殿下!」
大観衆がどよめく中、騎乗したウィルド王太子が勢い良く外周路に踊り出した。
ソフィアの異変をいち早く察知した王太子は、自身が座っていた特別席の直ぐ近くに留めてあった自馬に飛び乗ると、風の様に走り出す。
それはまさに「疾風」と呼ぶべきスピードだった。
王太子はあっという間に暴走する先行馬に追い付いた。
先行馬と並走したまま身を乗り出した王太子は、ソフィアが騎乗する馬の手綱を掴むと、力任せに引っ張った。
暴走していた馬のスピードが次第に落ちてゆき、ようやく馬は停止した。
事の一部始終を見届けた観客席からは自然と拍手が沸き上がり、それは次第に大きなものとなった。
拍手と歓声の中、下馬したウィルド王太子は馬上のヒロインに声をかける。
「ソフィア、無事か!?」
「ウィルド殿下・・・」
「よく耐えたな、もう大丈夫だ。」
王太子の手を借りて下馬したソフィアは気丈に振る舞おうとするが、明らかに足元がふらついている。
「無理をするな」
ウィルド王太子は緊張の解けたソフィアが崩れ落ちそうになるのをそっと支える。
その様子は観客席から見ると、まるで二人が公衆の面前で抱き合っているように見えていた。
観客席からは女性を中心に悲鳴まじりの歓声があがる。
暴走事故の影響で表彰式とトロフィーの授与は急遽中止となり、サアラは結局、二年連続の準優勝に終わった。
サアラとしては優勝を逃したのは残念だが、アムロード家の人間として、家の名誉を傷付けるような結果にはならなかったため、責任は果たしたとも言える。
ゲームのストーリーでは、ヒロインと王太子は馬術大会の時点で既に二人だけの時はお互いを名前で呼び合う関係になっている。
馬術大会での暴走事故は、サアラの追放の伏線となるだけでなく、今まで秘密にされていた二人の関係が公になる非常に重要なシーンだ。
ゲーム内のサアラはヒロインと王太子の関係が予想以上に進んでいる事を知り、大変なショックを受けるのだが、今の彼女は別の意味でショックを受けていた。
「分からない・・・どうしてゲーム通りの展開になってしまったの?」




