【予期せぬ命令Ⅰ】
毎日押しかけてくるクリストファーを相手にサアラが悪戦苦闘する中、別の人物がサアラの許を訪れた。
「こちらです」
摂政公邸のメイドが案内した部屋に入ったサアラを出迎えたのはオリソン子爵だった。
「ミス・アムロード、忙しいところ済まないな。」
「いえ、こちらこそすっかりご無沙汰しております。」
向かい合わせに座った二人は近況を確認する。
「停戦協定の交渉はなかなか進展しないようだね。もっともこうなる事はある程度予想していたが・・・」
「はい。こちらも色々アプローチしているのですが、向こうの動きは鈍いです。」
「まあ焦らない事だね。進むときは一気に進むし、進まない時は何をしたってダメなものさ。」
「ご助言ありがとうございます。おかげで少しだけ気が楽になりました。」
「さて、そろそろ本題に入ろう。昨日の夕方に王国からの早馬が公都の我が屋敷に到着した。早馬の使者が持参したのはあなた宛ての書簡でね、差出人は筆頭秘書官殿だ。」
「アラン様が私に?」
「そうだ。そして使者の口上も、できるだけ早くこの書簡をあなたに渡して欲しいとの事だった。それで私がこうして朝から出向いたというわけだ。」
「そうでしたか。わざわざご足労いただき、本当にありがとうございました。」
「国の大事にかかわる連絡かもしれないからね。当然の事だよ。」
オリソン子爵はサアラにそれを手渡すと、励ましの言葉をかける。
「さてと・・・ミス・アムロードはこれから書簡の内容を確認しなければならないだろうから、私はこれで失礼させてもらうよ。だがもし私の助力が必要になったら、遠慮なく言ってくれ。出来るだけの事はさせてもらうつもりだ。」
「ご配慮くださりありがとうございます。」
オリソン子爵を見送ったサアラは、早速書簡の内容を確認する。
アランからの連絡内容は簡潔なものだった。
書簡を読み終わった彼女は、顔を上げて大きく深呼吸してから呆けたように呟く。
「帰国命令・・・」
次回「予期せぬ命令Ⅱ」は、12月1日(金)20時頃に公開予定です。




