【宿所防衛戦Ⅱ】
「ところでクリストファー殿下」
「何だ?」
「もうすっかり夜も更けております。いつまで私の部屋に入り浸っているおつもりですか?」
「入り浸るなどと人聞きの悪い・・・第一ここは摂政公邸なのだから私の部屋でもある。」
「殿下の屁理屈はともかく、淑女の部屋を訪れて良い時間はとっくに過ぎております。」
「固い事を言うな。まだ良いではないか。そんなに私が邪魔なのか?」
「そうは申しておりません。ただ私も明日に備えてもう休みたいのです。」
告白の日以来、クリストファーは頻繁に、正確に言えば毎日サアラの部屋を訪れていた。
連日訪れるクリストファーに対して最初の内は遠慮していたのだが、サアラの方から言わない限りいつまでたっても帰らないので、仕方なく彼に注意するようになっていた。
しかも帰らないだけではなく、クリストファーは自分の私物をサアラの宿所にどんどん持ち込み始めた。
「クリストファー殿下、ここは私の宿所として殿下より提供して頂いたお部屋ですよね。」
「そうだよ。」
何を今更という顔で返答するクリストファーに対して、サアラの不満が爆発する。
「だったら何でその部屋に殿下の私物がこんなに沢山あるのですか!?」
実際、サアラの宿所はクリストファーの私物だらけになっており、今や同棲カップルの部屋のような様相を呈していた。
『この有様をお父様がご覧になったら、きっと卒倒してしまうわね。』
この時ばかりはここが他国である事にサアラは感謝する。
さらに翌日
『何だこれ・・・?』
用件を済ませて自室に戻ったサアラは、部屋の様子の変化にギョッとなる。
目の前には巨大な机が鎮座していた。
木製のそれは、広い部屋の中でも強烈な存在感を放っている。
『これ絶対殿下のものだよね・・・』
「お、あるな。予定通りだ。」
サアラは部屋に入ってきたクリストファーに対して説明を求める。
「殿下、これは何ですか?」
「机だけど。」
「それは見れば分かります。私がお聞きしているのは、これが何のための机ですかという事です。」
「そんなの決まっているじゃないか。仕事用の机だよ。やっぱり仕事をするのに机が無いと不便だろ?」
大威張りで説明するクリストファーを見て頭痛がしてきたサアラは、ため息を抑えつつ質問を続ける。
「・・・そもそも私の部屋で仕事をしようとする時点でおかしいとは思われないのですか?」
「そうかな? 普通だろ。」
「大体、部屋なら山ほどあるではないですか!? お仕事ならご自分の部屋でされて下さい!」
「ここだと何故か仕事が捗るんだよ。」
「そんなに仕事が捗るんであれば、停戦協定の方もさっさと進めて下さい! どうして話が全く進まないのですか!?」
「それとこれとは別なんだよねー、ハハハ。」
サアラは無言でクリストファーに枕を思いきり投げつけた。
次回「予期せぬ命令Ⅰ」は、11月30日(木)20時頃に公開予定です。




