【クリストファーの告白Ⅱ】
「ここで私と一緒に暮らさないか?」
冗談とも本気ともつかないクリストファーの言葉に驚いたサアラは彼の真意を確かめようと、相手の顔をまじまじと見つめる。
サアラに見つめられたクリストファーが何かを言おうとしたその時、予想外の事態が発生する。
クリストファーが乗っていた馬が突然暴れ出したのだ。
彼は慌てて馬を落ち着かせようとするが、馬の方は言う事を聞かないどころか暴走の兆しさえ見せている。
この緊急事態に対して、サアラは迅速に対応した。
彼女は全く慌てる事無く、右手だけで自馬を器用に操りながら、身を乗り出すようにして左手を精一杯に伸ばし、暴れる馬の手綱を掴んだ。
「殿下! 手綱を緩めて下さい。無理に抑えつけようとすればますます暴れます。」
「し、しかし・・・」
「私を信じて下さい! 殿下は馬から振り落とされない事だけに集中願います。」
「分かった。」
次にサアラは馬の目を見て話しかける。
「こっちを見なさい。暴れては駄目よ。」
彼女は馬の動きに合わせて左手一本で手綱を操作しながら馬との会話を続ける。
「ほら、何も怖くないでしょう?」
そうする内に暴れていた馬は徐々に落ち着きを取り戻し、ついに完全に大人しくなった。
「クリストファー殿下、もう下馬されても大丈夫ですよ。」
「そうか。」
サアラの指示に従い、彼は馬から降りる。
万一に備えて、馬の手綱はサアラがしっかりと握ったままだ。
クリストファーの下馬を見届けたサアラは、自らも下馬する。
「サアラ、一体何が起こったんだ?」
駆け寄ってきたクリストファーに対し、サアラは落ち着いた口調で答える。
「殿下、馬とは本来臆病な生き物です。例えば聞きなれない音が耳に入っただけで驚いて、暴れ出す事だってございます。ただし今回はそのような物音は聞こえませんでした。であれば原因は多分・・・」
サアラはクリストファーが乗っていた馬の全身を注意深く観察する。
「あった、これだわ。」
馬の後脚に何かを発見したサアラは、手を伸ばしてそれを取り除く。
クリストファーの前に戻って来たサアラは結果を報告する。
「殿下の馬が暴れ出した原因はこれです。」
次回「クリストファーの告白Ⅲ」は、11月27日(月)20時頃に公開予定です。




