【クリストファーの告白Ⅰ】
クリストファーが部屋を追い出されてから30分後、騎乗した二人は朝の散歩に出かけていた。
サアラは隣にいるクリストファーに疑問を投げかける。
「クリストファー殿下、私が公都に来てからもう10日以上になります。その間、歓迎会や夜会といった行事ばかりで肝心のお話合いが全く始まりません。本当に停戦協定をまとめる気はあるのですよね?」
「もちろんだとも。だけど話がまとまるとお前は王国に帰ってしまうのだろう?」
「そうなりますね。元々そのために来ていますから。」
「それは困る。今回の停戦協議を提案したのは、お前を呼び寄せる事が目的だったからね。」
「殿下、そのような手の内を他国の人間である私にお話しになってよろしいのですか?」
「構わないさ、本当の事だ。」
サアラは気を取り直して質問を続ける。
「仮にそうであったとしても、クリストファー殿下にはもう何回もお会いしましたし、私自身の事もお話し申し上げました。もう目的は十分果たされたのではないですか?」
「うん、そのはずだったんだけどね。お前に会って気が変わった。手放したくなくなった。」
「殿下・・・」
「お前は面白い女だ。退屈しない。私に枕を投げ付けるなんて、今まで私の周りにはいなかったタイプだよ。」
「大変申し訳ございません。淑女にあるまじき行為でした。」
「別に責めているわけではないよ。 ただな、お前は一生懸命に普通の淑女のふりをしているが、本当は普通じゃない。そこが興味深い。」
『それは前世の記憶を持つ人間ですから、そうなりますよね。』
クリストファーの評価に対してサアラは内心納得するが、もちろんそれを言葉には出さない。
「どうだ、公都も悪くないだろう。」
「ええ、フォード卿を始め、皆さんとても親切にして下さいます。」
「気に入ったか?」
「そうですね、いずれ帰らなければならないのが残念な気がして参りました。」
「サアラ・・・それならこのままここで私と一緒に暮らさないか?」
次回「クリストファーの告白Ⅱ」は、11月26日(日)20時頃に公開予定です。




