【覚悟】
『それにしても遅いなぁ・・・何かあったのかしら?』
夜会はとっくに終わり、間もなく日付が変わろうとしていたが、オリソン子爵は姿を現さない。
サアラは通された控室で、彼が戻るのをひたすら待ち続けていた。
サアラが疲労と退屈に耐えながら椅子に座っていると、部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
部屋に入ってきたのはオリソンだった。
彼もサアラと同じく、疲れ切った表情をしている。
「ミス・アムロード、遅くなって済まない。」
「あまり遅いので何かあったかと心配しておりました。」
「・・・あなたの言われる通りだ、ミス・アムロード。これから私がする話に少なからず驚かれるかもしれないが、どうか落ち着いて聞いて欲しい。」
「分かりました。」
サアラは姿勢を正してオリソンの言葉を待つ。
「先程まで行われた摂政との話し合いの結果、あなたの宿所が当家の公都屋敷から摂政公邸に変更される事になった。」
「摂政公邸とは私たちが今いる場所の事ですよね?」
「そうだ。つまりあなたは今日からここで暮らす事になる。」
「今日からですか!?」
「私もあまりに急な話だと抵抗したのだが押し切られてしまった。事後報告になってしまい大変申し訳ない。筆頭秘書官殿から公国側の目的について事前に話を聞いていたが、どうやら本当だったようだ。それにしても摂政殿下がこれほど強引な手を使われるのは流石に予想外だった。」
「オリソン卿のせいではありませんわ。それにこの状況は私としても望む所です。目的を果たすためには、相手の懐に飛び込んだ方が都合が良い事もございます。」
サアラの返答を聞いたオリソンは驚きの表情で彼女を見つめる。
「ミス・アムロード、あなたは強い方だな。このような胆力を持ち合わせた令嬢を私は見た事が無い。ただ今日はっきり分かった事もある。デール公国側はあなたに危害を加えるつもりは100%無い。むしろその逆だ。具体的な内容までは分からないが、彼らには何か別の目的があるようだ。いずれにしても十分に注意されよ。我々の想像を遥かに超える事態になっている事だけは間違いない。」
「ご忠告ありがとうございます。」
去って行くオリソンを見送って一人になったサアラに不思議と不安は無かった。
『よーし、明日から頑張りますわよ!』
サアラは覚悟を決めて虎口に飛び込もうとしていた。
次回「宿所防衛戦Ⅰ」は、11月24日(金)20時頃に公開予定です。




