【姫と不審者Ⅰ】
会場に戻ったサアラを待っていたのは、宰相のビショップだった。
彼はサアラに近付くと、他の人に聞こえないような小声で耳打ちする。
「ミス・アムロード、摂政殿下があなたにお会いになります。」
「分かりました。それではオリソン卿と共に参ります。」
「いえ、それには及びません。摂政殿下はまずあなたと話したいと申しております。オリソン卿には後で我々から声をかけさせて頂きます。さあ、どうぞこちらへ・・・」
ビショップに導かれたサアラは再び会場を後にする。
サアラが連れて来られたのは、二日前にも来た謁見所だった。
『いよいよだわ、万が一にも失礼が無いようにしなくては・・・』
デール公国を率いる事実上の最高権力者との対面を前に、サアラの緊張はいやが上にも高まる。
ビショップは謁見所の扉をノックすると用件を告げる。
「ミス・アムロードをお連れしました。」
「入れ。」
その言葉を受けたビショップが扉を開けて、サアラに入室を促す。
「どうぞお入りください。」
『一人で行けという意味か・・・』
対面が余人を交えずに行われる事を理解したサアラは、覚悟を決めて部屋に入ると、摂政の前まで歩みを進めた。
「面を上げよ。」
摂政の許しを得て顔を上げたサアラは、相手の顔を確認する。
『あれ? この人どこかで見たような・・・』
強い既視感を覚えたサアラは無意識のうちに相手の顔を注視する。
確かめるようなサアラの視線を感じ取ったクリストファーは、ニヤニヤしながら彼女の疑問にヒントを与える。
「また会えたな。」
その瞬間、中庭での出来事がフラッシュバックしたサアラは、今が謁見中である事も忘れ、思わず相手を指差しながら大声で叫んでしまう。
「アーッ!! さっきの不審者!」
次回「姫と不審者Ⅱ」は、11月21日(火)20時頃に公開予定です。




