【もう一つの謁見】
謁見所でビショップ宰相がサアラたち王国代表と顔合わせをする少し前。
謁見所に隣接した小さな控室では摂政クリストファーと面通しの証人として呼ばれた騎士が、サアラの到着を待っていた。
この控室は謁見者が謁見中に何らかの危害を働こうとした場合に備えて、警備の人員を潜ませておくための部屋だ。
そのため謁見所と控室を隔てる扉は隠し扉になっていて、謁見所の構造を知らない者にとっては一見そこに控室があるとは分からない。
逆に控室からは覗き穴を通して謁見所の様子が丸見えなので、今回のような面通しを相手に知られずに行うためには最適の場所だろう。
それから数分後
『来た!』
謁見所の正面扉が開き、オリソン子爵とサアラの二人が中に入ってくる。
彼女は礼法に従ってうつむいたままであるため、まだ顔は分からない。
『・・・何で私は緊張しているのだ?』
摂政として数多くの人間と会ってきたクリストファーは、サアラの姿を見ただけで自分の胸が高鳴っている事に驚きを禁じ得ない。
「面を上げよ」
ビショップの言葉を受けて、ついに彼女は顔を上げた。
『おぉ・・・』
サアラの顔を見た瞬間、デール公国のトップとして彼女を政治的に利用しようとしていた気持ちが吹き飛んでしまう。
クリストファーの目はサアラに釘付けになり、どうしても彼女から目を離す事が出来ない。
結局サアラが謁見所を退出するまで、クリストファーは只々彼女の姿に見とれていた。
「計画は全て白紙だ・・・」
去っていく彼女を最後まで見届けたクリストファーは、独り言のようにそうつぶやいた。
次回「面通し」は、11月17日(金)20時頃に公開予定です。




