【謁見】
広大な摂政公邸の中にある謁見所では、挨拶に訪れた王国代表とビショップ宰相が面会していた。
「面を上げよ」
公国代表として毅然と振る舞うビショップの言葉を受けて、王国代表であるオリソンとサアラは顔を上げる。
次にオリソンは懐から書状を取り出し、ビショップに向けて差し出す。
「こちらは我が国の国王から託された親書でございます。」
ビショップの隣に控えていた部下が進み出て書状を受け取り、それを改めてビショップに手渡す。
「確かにお預かりした。我が国は両名を歓迎しよう。」
「ありがたき幸せ。」
ここまでは全て礼法に従った公式行事であるため、言葉や所作も細かく定められている。
国家間の公式行事が無事に終わったところで、表情を緩めたビショップは初めてサアラに声をかける。
「ミス・アムロード、ようこそおいで下さいました。私の事を覚えておいでですか?」
「もちろんですわフォード卿。この度は貴国にお招き頂きありがとうございます。」
「お礼を言うのはこちらの方ですよ。あなたが我々の求めに本当に応じて頂けるか分かりませんでしたからね。せっかく来られたのですから、どうかゆっくりと我が国を堪能されて下さい。」
「ご配慮くださりありがとうございます。そうさせて頂きたいのは山々ですが、フォード卿もご存知の通り、今回は目的のある訪問でもありますので、まずはそちらに全力を尽くしたいと考えております。」
「おお、そうでしたな。そちらにつきましても、きっと首尾よく進む事でしょう。」
「ええ、それを心から願っておりますわ。」
停戦協定について、対面早々に両者の駆け引きが始まったが、二人ともまだ本気ではない。
軽い手合わせといったところだ。
手合わせを終えたビショップは話題を変える。
「ところで二日後に貴国代表を歓迎する夜会を開きたいのですが、主役のお二人のご都合はいかがだろうか?」
その質問に返答したのはオリソンだった。
「もちろん出席させていただきます。ミス・アムロードもそれでよろしいな。」
「はい、構いません。」
「そうですか、ではまた二日後にお会いしましょう。我々は国を挙げてあなたを歓迎しますよ。」
「それは光栄に存じます。フォード卿が以前に言われていた『国賓』というのは冗談だとばかり思っていましたわ。」
「冗談などではありませんよ、ミス・アムロード。我々はあなたを歓迎している。これは間違いのない事実です。」
こうして和やかな雰囲気の中で対面は終了した。
だがこの対面の裏でサアラに対する面通しが進められていた事や、ましてや摂政クリストファーがサアラの一挙手一投足をじっと観察していた事など、彼女は知る由もなかった。
次回「もう一つの謁見」は、11月16日(木)20時頃に公開予定です。




