【公都到着Ⅱ】
「これはミス・アムロード、遠路はるばるよくぞ来られた。」
公国駐在貴族であるオリソン子爵の公都屋敷に到着したサアラを真っ先に出迎えたのは、オリソン子爵本人だった。
こういうフットワークの軽さはオリソンの真骨頂だ。
「お久しぶりです、オリソン卿。」
「いやはや見違えたぞ。前にお会いした時はまだ少女だったが、すっかり背も伸びて、今や立派な淑女になられた。」
「見た目だけですわ。中身はまだまだ未熟者です。」
「ハハハ、謙遜されるな・・・おっといかん、馬車の長旅でお疲れであろう。奥で休まれるが良い。」
「ありがとうございます。」
屋敷内にある来客用の応接室に通されたサアラはソファーに腰を下ろし、勧められたお茶を頂きながら話を続ける。
「それにしても三侯に属するあなたが追放されたと聞いた時は、王国で一体何が起こったのかと本当に驚いたよ。私も公都暮らしが長いせいで、王国の事情にはどうしても疎くなってしまうからね。」
「ご心配ありがとうございます。おかげさまですぐに追放も許され、今は自由の身です。」
「そうか、それは何よりだ。」
オリソン子爵は人当たりの良い人物であり、外交官の資質が求められる駐在貴族は彼にピッタリの役職だった。
「ミス・アムロード、話は全て筆頭秘書官殿から伺っている。今日はゆっくり休んでもらって、宰相を務めるフォード伯爵への挨拶は明日にしたいと思うのだが、どうかね?」
「はい、それで結構です。オリソン卿にお任せしますわ。」
「そうか、それでは早速その旨を政務府に知らせておこう。」
「ところでオリソン卿、私はフォード伯爵とは面識がございますが、その上にいらっしゃる摂政殿下とはお会いした事がございません。どの様なお方なのでしょうか?」
サアラの質問に対して、それまで饒舌だったオリソンの口が一転して重くなる。
「そうだな・・・もちろん摂政殿下とは面識がある。決して偉ぶったり傲慢な振る舞いをされる方ではないが、だからと言って単なるお人好しでないのは言うまでもない。一筋縄ではいかない、底の知れないお方だよ。だから今度の交渉についても簡単に進むとは思わない方が良い。」
「はい・・・」
「摂政殿下が明日私たちに会って下さるかは分からない。いずれにしても注意する事だ。こちらが予想もしないような事を言われる可能性もあるからね。」
『結局、会って見なければ分からないという事か・・・』
サアラとクリストファー、二人の運命の出会いは近付きつつあった。
次回「良い知らせ」は、11月14日(火)20時頃に公開予定です。




