【馬術大会Ⅲ】
大会当日
その日、サアラが騎乗する馬はアムロード家が所有する数多くの馬の中から選りすぐられたものだ。
馬術大会の結果は貴族家同士の面子にかかわってくるため、三侯の一員であるアムロード家としては手を抜く訳にはいかないのだ。
乗馬学校には付属施設として競技場が隣接しており、そこが大会の会場となる。
馬術大会は広く一般にも公開されるため、貴族だけでなく多くの一般市民が観戦のため会場に詰め掛けていた。
娯楽の少ない一般市民にとって、馬術大会は大きな楽しみの一つだ。
『いつもの事ながら大盛況ね・・・』
サアラが大会開始の一時間前に会場に到着した時、既に一般の観客席は超満員となっていた。
開会式は定刻通りに始まった。
満員の観客を前にして、全員が正装した四十騎の騎馬が整列する様は、実に壮観である。
ウィルド王太子による開会宣言と選手代表による答礼が終わると、いよいよ競技スタートだ。
競技は午前中が二種目、午後が三種目の合計五種目で争われる。
第一種目は障害物競走だ。
出場選手は生垣や砂地、水溜まりといった数々の障害物をクリアしながら、決められたコースを間違いなく踏破する事が求められる。
速さと正確さの両方が必要となる競技だ。
これに対しアムロード家は障害物競走に特化した馬を準備しており、必勝の態勢である。
アムロード家はこの後も各競技に特化した馬を惜しみなく投入する予定だ。
馬術大会において複数の馬を使う貴族家は珍しくないが、全ての競技に別の馬が使える家となると、さすがに数が限られてくる。
つまりアムロード家の経済力を背景とした強者の戦略という訳だ。
サアラ自身も馬術の技量には自信を持っていたが、それに優秀な馬の力が加わり、彼女は第一種目を危なげなく制した。
それよりも注目すべきはランストン家の戦法だった。
ランストン家が馬術大会に参加させた馬は二頭。
これは至って平凡な数と言える。
第一種目でソフィア・ランストンが障害踏破に要したタイムは突出したものではなかったが、その代わり彼女は女子選手の中でただ一人、ノーミスで障害を踏破してのけた。
そのため全く減点が無かったソフィアは、第一種目終了時点で二位につける事になる。
「やはり強敵だったわね。」
この結果を見たサアラは、自分の予想が外れていなかった事を再認識した。
こうして昼食休憩を挟んだ後もプログラムは順調に進み、大会はいよいよ最後の競技を残すのみとなった。
次回「馬術大会Ⅳ」では、戦いがクライマックスを迎えます。
大会優勝をかけて、サアラとソフィアが熱血します。
次回公開は11月24日(木)19時の予定です。
乞うご期待!




