【隣国の招待Ⅱ】
「お前はまた一体何をやらかしたんだ!?」
エドルからそう問われたところで、サアラにしてみれば全く身に覚えのない話だ。
とは言えこの状況で登城しないという選択肢は存在しないため、彼女はエドルの許可を得て王宮に向かった。
王宮に到着したサアラを待っていたのは、筆頭秘書官のアランである。
「急にお呼び立てして申し訳ありません、ミス・アムロード」
「いいえ、それよりも私に御用とは何でしょうか?」
「本日の朝にデール公国より我が国宛に公式書簡が届きました。差出人はデール公国宰相のビショップ・フォード伯爵です。」
「公式書簡」については説明が必要だろう。
この世界での親書というのは国王のような国のトップメンバー同士の私信という意味合いが強く、差出人や受取人は王族や大公といったメンバーに限られる。
一方、公式書簡とは国家間の連絡に使用する公文書であり、差出人や受取人は王族とは限らない。
今回の公式書簡はデール公国宰相であるビショップから、クロスリート王国筆頭秘書官のアランに対して送られたものだ。
前回の衝撃的な親書の記憶が冷めやらない中で送り付けられた公式書簡であるため、王国側はまたしても戦争かと身構えた。
しかし実際は戦争とは程遠い、それどころかむしろ真逆と言える内容であった。
「デール公国は我が国に対して、10年間の停戦協定を打診してきました。公国側から両国の領土問題を10年間棚上げにするというのですから、こちらとしては願っても無い話です。」
「そうですか・・・」
サアラとしては、めでたい話だとは思うが、それは国同士で話し合うべきものであり、なぜ自分が呼び出されたのかが理解できない。
彼女はそれが自分に何の関係があるのかと思っていた。
「ただし、この申し出には二つの条件が含まれます。」
「二つの条件?」
「はい。まず最初の条件は、停戦協定の話し合いはデール公国の公都で行う事。そして二番目の条件こそが、ミス・アムロードをこちらにお呼びした理由になります。」
話が核心に入った事を理解したサアラはごくりと唾を飲み込む。
「公国はその話し合いの代表としてあなたを指名しているのですよ、ミス・アムロード。」
「はい!?」
あまりにも予想外の言葉に、サアラの目は点になった。
次回「隣国の招待Ⅲ」は、11月8日(水)20時頃に公開予定です。




