【撤退Ⅲ】
「報告! ウィルド殿下と姫様は無事に砦に到着されました。」
サアラの撤退を支援するため、サアラの護衛部隊に一時的に加わっていたアーサー麾下の騎士たちがその役目を終え、彼の許へと戻って来た。
「そうか、良くやった。」
これで後顧の憂いが無くなったアーサーがいよいよ軍を動かそうとした時、公国側の最前線基地から突然何かが打ち上げられた。
『花火!?』
轟音と共にそれは爆発し、赤い煙が上空に広がった。
それを合図に公国軍の動きに変化が生じる。
「マクミラン卿! 敵が引いていきます。」
引き始めたのは、アーサーと直接対峙する部隊だけではなかった。
押し出す時と同様、公国軍は潮が引くように後退していく。
「・・・見事だな。」
公国軍の整然とした撤退の様子を目にしたアーサーはそう感想を述べた。
そして彼は大声で指示を下す。
「陣形を立て直せ! 深追い無用!」
馬上のアーサーに近付いて来た副長が不思議そうに問いかける。
「あれほど激しく攻めてきたと思ったら、あっという間に引き下がる・・・公国の連中は一体何がしたかったのでしょう?」
「さあな、向こうには向こうの事情があるのだろう。」
その場に留まったアーサーは、公国軍の主力が前線基地に引き上げるのを見届けた後、ゆっくりと砦に戻って行った。
次回「処分」は、11月1日(水)20時頃に公開予定です。




