【断罪の日】
「アムロード侯爵息女サアラ、お前を追放に処する。」
ここはクロスリート王国の王都、その中心にそびえ立つ王宮の「水晶の間」
王家の戴冠式にも使われる、王宮で最も格式の高い大広間の中心に引きずり出された彼女は大理石の床に跪き、うつむいたまま国王の裁定を聞いている。
この「物語」のクライマックスである、悪事を尽くした令嬢の断罪シーンである。
ヒロインにとっては解放の日、そして悪役令嬢であるサアラにとっては悪夢の一日となるはずだ。
だがこの時の彼女は、思わず緩みそうになる頬を抑えるのに必死だった。
『ようやくここまで来た・・・』
そんな彼女の本心を知る者は、この場には誰もいない。
いや、この世界には誰もいないと言った方が正確だろう。
「サアラよ、何か申し開きはあるか?」
裁定を終えた国王の問いかけに対して、彼女は顔を上げ、きっぱりと返答する。
「いいえ、この期に及んで申し開きなどあろうはずもございません。全ては陛下の御心のままに・・・」
サアラはこのセレモニーが予定通りに終わる事だけを願っていた。
「うむ、誠に殊勝なる心掛けである。もはや会う事もあるまいが達者で暮らせ。」
おもむろに玉座から立ち上がった国王は、その場に集っていた諸侯の前で高らかに宣言する。
「追放者サアラ・アムロードを連れて行け!」
国王に対して一礼してからくるりと振り返った彼女は、二人の近衛兵士に左右を挟まれたまま、水晶の間から静々と退場していった。
・・・と、ここまでは全く彼女の予定通りである。
だが、もはや二度と戻らないはずのサアラが、僅か3週間後に同じ場所で国王と再会する事になろうとは、この時誰も知る由は無かった。