Ⅰ*09 ダンジョン入口付近でサバイバル~発明!スライムバルーン
……ダンジョン入口付近でサバイバル、2日…いや正直にいこう多分3日目。
「あ゛あ~……頭が痛い。この感じだと、また朝か? 昨日は単に寝て過ごしちまったなあ~」
HP:8/8
AV:4/4
MP:2/2
ほっ…良かった。また朝起きたら、餓死し掛けてるかと思ったぜ。
俺はこの部屋に設置された、俺の足元にある催眠ガスのトラップを起動させるブロックに触れないようそっと後ろに下がると部屋の壁にもたれ掛かるように座った。
「ん?」
腰の道具袋がモゾモゾと動き回っている。
「道具袋に入れといたスライムボールには2回目のガスは効かなかったみたいだな? 袋の中で平気ってことは…ガス自体の効果は絶大だが、ガス自体は直ぐに効果を失って消えるのか? はははっ…元気に動いてんなあ。……待てよ? コイツらは恐らく半日は袋に入れっぱなしだが、随分と元気そうだ。なら、プニ太郎は何で死んだんだ? てっきり袋に入れたままだから窒息したか餓死したか…その辺の理由だと思ったけど、プニ太郎を入れていた時間はコイツらより遥かに短かったはず。……謎だ。まさか、触り過ぎてストレス死? だったら俺も罪悪感が半端じゃないんだが…もうちょっと検証してみるか? なら、朝のルーティーンでコイツらを消費するのはやめとこっと」
俺はのっそりと起き上がると通路を戻って第二の部屋と向かう。
…………
「(ずずずずずず~っ)」
(ぶぎゅぎゅぎゅぎゅ)
早速取り放題のスライムボールを捕まえてストローを刺し、美味しく頂く。だが、2匹目を平らげた辺りで俺はまた異変に気付く。
「…おかしい。今日は更に視界が明るい…!まるで間接照明のある空間くらいものがハッキリ見えるようになってるぞ? 俺の眼は一体どうしちまったんだ? コレは流石に目が慣れた、とか言って済むレベルじゃない」
ダンジョンが明るくなっている。とても頭の悪い言い方をすればこうだろう。だが、実際は灯りが無ければ真っ暗な空間のはずなんだぞ?
う~ん…まあ、現状コレはコレで助かっているし。そう悩む事でもない、か?
だけどこの明るさ…ダンジョンって言うよりラブホの廊下って感じだ。
勿論、行った事なんてないから勝手なイメージで話してるからね?
あ。むしろカラオケの個室だ。だが、下手な場所よりも明るいと思うぞ?
少しだけ、明日が怖くなったな…。
「さて、先ずはあの鳥共の様子を見るか…いなくなってりゃ万々歳なんだがなあ~」
今の手に持ってるスライボールの皮を利用する方法を思いついたのだが、先ずはそれを使う相手の様子を確認するべきだ。
※
「グァー、グァッ」
「(……居た。だが、チャンスだ。なんでか知らんが一匹しかいない。最悪ガチバトルになっても戦えるかもしれん。もう尻に穴が開くのだけは勘弁だが…)」
第二の部屋、その中央通路の先の小部屋にやはりあの☠飛べない鳥が居た。が、何故か前は二匹だったのが今は単独行動している。
だが、そうとなればチャンスだ!急がなければ!
モタモタしてると別の鳥が戻ってくるやもだ。
俺は急いで壁画の部屋に戻った。
※
「とうっ」
(ぶにゅん)
俺は正面の壁画に描かれた変な動物の口にスライムボールの抜け殻を張り付ける。この場所からあの催眠ガスが噴き出す針が出て来るはずだ。
…上手くいってくれよ!
「南無三ッ!」
俺はブロックを勢いよく踏んだと同時に通路へと飛び込む。
痛ぇ!肘を擦りむいたかも…。
(ボシュウゥ~)
「あッ!」
壁画の変な動物がまるで風前ガムを膨らませたかのように、壁から丸い風船がプク~っと膨れあがった。良し! 成功だ!! 多分…?
(ガチンッ! ぽいんっ)
「おお!? 取れた! ガスを噴射する針が引っ込んだのか…」
俺は部屋の中に踊り出た風船を優しくキャッチする。興奮の余り、また、あのブロックを踏み掛けたが華麗なバレエステップで見事回避する。非常に浮くほど軽いが、風船の大きさはバスケットボールほどはあるな…。
☞スライムバルーン(催眠ガス)
分類:アイテム
スライムボールの抜け殻に催眠ガスが充填された風船。いくら時間が経過しても萎まないが、刺突に対して脆弱なので尖ったものには注意が必要。
特殊効果:1グループに昏睡の状態異常
「スライムバルーン!? スライム風船!まんまじゃないか、でもそれが良い!! てか、なんだこの効果は。1グループって何だよ!もっと具体的で立体的に範囲を説明してくれ!」
だが、これで狙ったものを得られたぞ! これさえ使えばあの鳥を眠らせられる。
…………
「問題はどうやってこの風船をあの鳥の近くで割るか、だな」
冷静になって考えると問題は未だあったのだよ。
例えば接近して俺が確実に風船を割ったとしよう。鳥も眠るだろうが、俺も寝る。
そして、鳥の方が俺より早く起きてしまった場合。俺が鳥のゴハンとなるだろう。
「ん~…あ、石! 石があるじゃんか。でも…石で割れるか? 出来ればもっと尖ったもの…ストローを投げつける。俺はアサシンじゃあねっつーの…割り箸に名刺投げて斬るとか超人だろ! 上手くいくビジョンが浮かばない。仕方ない、こうなったら取り敢えず部屋に投げ込んでアイツ自身が嘴で突いて…おう? なんだコレは」
俺は第二の部屋の中央通路の前で悩み、手の平でスライムバルーンをポンポンと跳ね上げていたのだが…ふと足元にキラリと光るものを見つけたのだ。
*レベル1の鏃(2)を手に入れました。
☞レベル1の鏃
分類:アイテム・パーツ
このアイテムは単体では使用できない。他のアイテムと組み合わせることで他のアイテム等を製作可能。石でできた原始的な鏃。単なる石の欠片とも呼ぶ。
「鏃? なんでそんなもんが? こんなの落ちてたっけ? ドロップアイテムか…だけど、スライムボールは今のところ、最初のヤツが石コロを落としただけなんだよなあ。もう何匹も召してるけど、ドロップアイテムは出てない。…倒すと食べるとの違いなのか?」
そういや、鳥から逃げる時…なんかメッセージが出てたかも?
さらによく地面を観察すると他にも何か落ちていた。
*レベル1の羽根(7)を手に入れました。
というか、今更だけどこの世界じゃバラけたアイテムを拾うと、当たり前のようにある程度は勝手に手元に集まってくるからビビるわ。
☞レベル1の羽根
分類:アイテム・パーツ
このアイテムは単体では使用できない。他のアイテムと組み合わせることで他のアイテムを製作可能。綺麗だが特殊な効果を持たない普通の羽根。
「こりゃあ、あの鳥が俺を追いかけ回した時に落としていったものか…?」
……コレはもう答えが出たな?
神は言っている! ここで終わる運命では…!
(ぽいん)
鏃と羽根を握りしめる俺の頭にスライムバルーンが落ちてきて空中へとバウンドする。
……レッツ、クラフティング…っ!
※
「ああッ…!? 失敗したぁ!」
*アイテムの作製に失敗しました。
俺が作り出した最高傑作がこの世界に認められることなく、木屑や塵にと変わって地面に飛び散る。 悲しい…ッ!
「おっかしいなあ~? 松明の時は失敗しなかったのに…ってうわあ!?」
座り込んだ俺の前に急にスライムボール数匹が飛び出すと地面に飛び散ったその残骸をムシャムシャと食べ始めたのでかなり驚いた。
「そいで喰い終わったら即解散か。おっと、俺の脚によじ登ろうとすんなよ? 森へお帰り…しかしだ。コイツらが何を喰ってるか疑問だったが、意外とダンジョンにとっては異物であるものを喰って片付ける役目があるのかもしれないな? そういや…第一の部屋で熾した焚火の跡、灰ひとつ無く綺麗サッパリ無くなってたもんなあ…コイツらの仕業か。うっかり床に何か置いとけんかもだ」
しかし、このアイテムの作成もしくは合成は確率で失敗するようだ。
俺が何を作っているかというとだな…。
◎レベル1のダーツ(1)
○レベル1以上の鏃(1)
○レベル1以上の羽根(3)
○小さな棒(金属・非金属1)
○紐(2)
というレシピでアイテムを作製しているわけだ。
まあ、コレもある意味ゲームらしいシステムなのだが、製作したいと思うアイテムをイメージするとこういったレシピが目の前に現れるんだとしか言いようがないんだよなあ~。
恐らく考えたものが何でも表示されるわけじゃないと思う。だって俺、これに気付いたのは松明を作ろうとした時だったけど。その後にずっと水、食い物、武器、食い物って想像し続けたけどレシピは表示されなかったもん。
あとは…恐らくレベルの問題かな。他にも作れるものはあったけど、全部レベル1だったからな。
「だがヤバイ。鏃と羽根があと一回分しか在庫がない…棒はストローを短くしたのと、紐は枯草を編んだヤツがあるからまだ余裕があるんだけどなあ~…ええい!俺はやるぞッ!!」
アイテムを作製し出すと俺の身体は自動的に動く。
なるべく水平なストローを厳選し、加工。その後、石の鏃を慎重にストローの切れ込みねじ込んでいき、紐で縛って固定する。そして矢羽根となる部分にあの鳥の羽根をあしらい紐を巻き付けていく…!
どうだ…?
*レベル1のダーツ(1)を作製しました。
☞レベル1のダーツ
分類:アイテム
使用レベル1の投擲矢。簡易的な造りだが、毒などを塗ると強力な武器となる。
特殊効果:投擲時、対象に1~3ポイントの刺突ダメージを与える
出来たッ!
…だが、頑張った割には石コロと余り性能差は無さげだな。けど、一番大事なダメージが刺突属性になってるぞ。
「やった! これで勝つるッ! 今日は●ンタッキーにしようッ!!」
俺は中央通路の前でスライムバルーンを抱えて出来立てホヤホヤのダーツを天に掲げる謎のアフロダンサーのようなポーズを取る。
少し、テンションが上がり過ぎて恥ずかしくなった…。
もう鳥の所に行こう。