Ⅰ*07 ダンジョン入口付近でサバイバル~プニ太郎を食べよう!
「チチチッ…」
…………。
……お? 何やら小鳥の囀りが聞こえる。
あ~そいや、天井に孔が開いてるんだから聞こえもするか。
もにゅん。
アラ? なんだ、この右手の幸せな感触は?
プニ太郎か?
いや、俺はプニ太郎を抱きしめてひとしきり泣いた後、明日埋めてあげようと腰の袋に大事にしまったはずだ。
じゃなんだ? ま、まさかオッ……そんな訳ないか。
ここがどこぞのホテルか自室だったらまだしも、ダンジョンだぞ?
…いいや!冷静になって考えろよ? あんな中途半端なゲームのような異世界に突然飛ばされてしまう方がよほど荒唐無稽ではないか!
なれば、酔った勢いで深夜のアバンチュぅール…奇跡が起こったのもやれしない。俺にもやっと春が…!?
もう、7年後に魔法使いになってしまうのを恐れなくても良い人生が送れる!!
むにゅむにゅ。
左手は添えるだけ…いや、揉んでるのは右手だが。
生暖か…くはないなあ~むしろ温い? ん~ひんやり?
俺はもう嫌な予感しかせず薄く目を開く。
「……おはようございます?」
(びよんっ)
俺の右手に包まれていたスライムボールが解放されたと同時に俺の顔にベシャリとへばりついてきた。
あ~やっぱり、夢オチじゃななかったか。ドンマイ!
「うおおおおっ!? なんでこんなに俺に張っ付いてんだコイツら! 俺が好きなの!?」
何故か目を覚ました俺の身体にスライムボールが五匹ほど張り付いていたもんだから堪らない。
「なんでこんなに数が湧いてるんだ? まさか奥の部屋からやって来た……」
(ぐぎゅるううううううううううう~)
俺は凄まじすぎる腹の音に「おふぅ」と呻きながら壁にもたれ掛かる、と言うよりも倒れ込んだに近い。
「な、なにが起きて…」
HP:3/3(残り6時間)
AV:4/4
MP:2/2
「ふっ!?」
なんと俺のHPの最大値が減っていた! 確かに昨日はダメージをあの鳥から喰らって鎧に穴まで開けられたが…それでも最大値は8のままだった。 ま、まさか…?
「こ、コイツら。俺が寝てる間に生命力的なサムシングを吸い上げてやがったのかあ? てか、なんだこの残り6時間とかいう具体的な数字は!? なんだ死ぬのか? 餓死か!?」
俺は思わず叫ぶ。だが俺の視界がぐわんと歪む…。
「ぐっ…! 駄目だ。腹ペコ過ぎて目が回る…って満腹度の末期症状だ。何か口に入れねば…!」
しかし、俺のお腰の道具袋の中にはプニ太郎と小石しか入っていない。
「何とか外に出よう…このままじゃあ、マジでスライムボールの餌になりかねないぞ」
俺はのそりのそりと身体を引きずって地上を目指した。
※
「あ~…もう無理、もう動けない」
地上に出たものの、もう身体が上手く動かない。脱水症状もあるのかもしれない。滅茶苦茶身体が怠いのに汗が出ないし、指先が微かに震える。
俺はドスンと入り口の近くの平岩に腰を落とした。
なんとか正気を保とうと道具袋からプニ太郎を取り出す。
「はは…なんだか本当にボールみたくなってきたなあ~。水分が抜けてきたのかな?」
プニ太郎は昨夜の時点ではまだ柔らかく楕円形だったが、今の状態はほぼ真球でデッカイスーパーボールのような硬さまで出てきている。
「………こうして見てると、昔実家に親戚の叔父さんが残暑見舞いで送ってきた水羊羹みたいだな」
と、そんな事を無意識に何故か口走った俺だった。
気付けば、俺はプニ太郎に噛みついていた。何故か俺はその光景を俯瞰的に見て驚いているのだが、当にモガモガと噛み付いている俺は冷静だった。
「……硬ったぁ。このままじゃ無理だ、何か尖ったものでこの硬くなった膜を破らないと…お?」
俺は近くの草むらで変な形をした草を偶然にも発見する。それは一見、オシャレなOL(偏見そのものだな)とかが育てているチャイブという植物に似ていた。
先端は鋭利で尖っていた。
俺はまるでオート操作でもされているかのようにその草を数本掴み採った。
*ストローリーフ(5)を手に入れました。
☞ストローリーフ
分類:アイテム
非食用。珍しい植物ではないが、茎葉が管状になっており、火で焙ることで硬質化する性質と高い抗菌作用から広く飲食の場で提供されている。
特殊効果:特に無し
「チッ…食えないのか。だが、ここでまさかのベストアイテム……ティンダー!」
俺は尻のポケットからティンダーロッドを取り出すと無造作に案山子先輩の頭部に火を点けた。その上にそのストローリーフを放り投げた。
「お。イイ感じに割れたヘルメットが鍋代わりになってくれてるな…ハハハ」
ストローリーフはみるみるうちに褐色に変色した。俺は案山子先輩のヘッドをキックしてストローリーフを回収する。
極限状態において善悪などとという概念なぞ屁のツッパリに過ぎん。少なくとも俺は今だけはそう思うね。
「おお、マジで固い…」
パキンと節目でストローリーフを割ると綺麗にちょっと太めのストローが完成した。
「そいで…とうっ! 意外とすんなり刺さったな。刺突には弱い性質でもあるのかもな…さて」
思えば衝動的にやってしまったが…本当にスライムなんて口にして良いんだろうか?
だが、こうストローさえ刺してしまえば、プニ太郎も最早近未来的なボール型容器に入った抹茶ラテにしか見えない訳で。
俺はどこか冷静な部分で自身のサイコパスさを見たような気がして戦慄したが、もうこれ以上、衝動には抗えない。
「(ずぞぞぞぞぞぞぞぞっ)」
……薄い青汁のような味、だと思う。やけに内容物がドロドロして上手く嚥下できないが俺は咽ずにコレを全て吸い上げる。
「ぶはっ! げほっげほっ! ……ごちそうさま、プニ太郎。美味…くはなかったが、お前のお陰で俺は助かったよ…ありがとうな」
☞スライムボールの抜け殻
分類:アイテム
内容物を取り除いたスライボールの外皮。刺突に対して脆弱性を持つものの、優れた気密性を持った汎用カプセルとして有用である。
特殊効果:充填
「なんだか、別のアイテムになっちまったな…だが、この抜け殻もストローも役に立ちそうだ。もうちょっと作っておこう」
余裕の出来た俺はその辺の草むらを探して採取できたストローリーフを未だ熱血な案山子先輩に協力を仰ぎ、数十本ほど作って枯草で縛って道具袋にしまった。
「よし、こんだけ作れば十分だ。…復讐の時は来たれり!」
俺は再度ダンジョンへと降りていく。
※
「キミタチ サッキハ ヨクモ ヤッテ クレ タ ネ?」
俺は人としての心を捨て去り、完全に復讐に徹するマシーンと化した。第一の部屋でまったりとしていたスライムボール共に仁王立ちになりながら死を宣告する。
「俺から奪ったものを返してもらおう…先ずはお前だっ! オラァ!!(ずぼぼぼぼぼおっ!!)」
(ぶぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ…)
俺は恐らく俺に一晩集っていたスライムボールを一匹捕まえては速攻で必殺●事人のようにストローをぶっ刺し、抵抗される前に中身を吸い出した。生きたスライムボールはプニ太郎と違って内容物はそこまでドロドロしてなかったので飲みやすかった。味は微妙だ…今のところ、当たりは未だ無い。
「げふっ! フン…他愛もない。所詮、貴様らはタピオカスライムだったな。……そう、タピオカだ。なんか粒々したヤツやコリコリしたヤツが時折口に入ってきたが…全部タピオカに決まっている。無論、そうだと俺は最初から確信している!信じているっ!!」
こうして、俺は追加のスライムボールの抜け殻を五個。
そしてスライムボールを食べる技法と精神力を手に入れた!
次は鳥共ぉ! 貴様らの番だぜっ!! 人間を舐めるなっ!!
そう! たとえスライムを美味しく召し上がっちゃう俺も歴とした人間。
種族:無し、でもそこは譲らないよ?




