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Ⅰ*06 異世界初日~初日終了。青年よ、絶望を知れ!



「………ォォ~…!」

「……ンばっ!?」



 俺が飛び起きると既に周囲は暗闇だった。



「しまった!気を失っていたのか…ん?」



 俺は自身の視界の左下の数値に目を留める。



 HP:5/8

 AV:4/4

 MP:2/2



「くそっ…ヘルスポイントは寝ても回復しないか! ……多分。腹、減ってるからか?」



 俺の腹がそうだぞ、と言ったかのように「ぐぎゅう」と返事をした。



「…もう、疲れたよ。パト…ん゛!? アーマーバリューの最大値が変わってるぞ、おい!?」



 俺は急いで装備していた革鎧を外して調べる。



 ☞レベル1のレザー・アーマー-1

 分類:アーマー

 アーマーバリュー:4/4

  装備レベル1の軽装備。極普通の革素材で出来た面白味の無い革鎧。穴が開いている。

 特殊効果:無し



「あなぁ!? ……ぁあッ!! ケツのところにデッカイ穴がぁ~…あの鳥めえええぇ! 必ず、ローストチキンにして喰ってやるぞ!! 覚えてやがれッ!」



 思い出しても腹が立つ…!


 あの鳥からの攻撃で危うく俺の尻の穴が二つになってしまうとこだったからな。



 ……なってないよね? 痛たたっ…大丈夫だ。痛みははあるけど血も多分出てない。今後のトイレ事情にそこまで問題は無さそうだ。



「……オオォ~ン…」

「…………」


 

 …今のは、いわゆるひとつの遠吠えってヤツかな?



『まあ、モンスターってのもそのダンジョンはとっくの昔に廃れてるさ。今じゃ誰も近づきゃあしないよ。まあ、それでもモンスターは湧くだろうけど。それでもこの先の街道辺りに出る山賊共なんかよりよっぽど弱くて可愛いもんさ。ここらだってまだドイルーの近くだが、夜になれば狼くらい(・・・・)は出るからな』



 俺の脳裏にあのイケメン女たらし(奴の自称)のストリートミュージシャンの言葉がよぎる。



「狼か…モンスターじゃあないかもだが、あの鳥なんかよりよっぽど怖いよな?」

「オオォォ~~~~ン…!!」

「「ウォォォ~~ン…!」」

「ひぃ…ヤバイぞ! かなり近い。下手したらこの村の中にまでもう来てるかもしれん…!」



 最悪、ダンジョンから引き揚げてあの竈場のある場所でキャンプしようかと思ったが…無理だ。飛べない鳥に殺され掛ける俺が狼に敵う訳なぞ無い。しかも声の数からして確実に三匹以上は居る。



 三対一で勝てるか! いい加減にしろっ!!



「まだ、ダンジョンの方が安全かもしれん。まだ表層だけど、ダンジョンの中にモンスター以外が生息してる感じはしなかったし。逆に人間とかを除くモンスター以外の生き物は入ってこないのかも。あくまで俺の期待的な予測だけど…」



 俺はダンジョン入り口の傍に散らばった案山子先輩の残骸をいくらか拾い集めると、灯りすら点けずに急いで記憶と手の感触を頼りにダンジョンへと潜って行った。



   ※



「ふう。今夜は此処をキャンプ地とする…!」



 どこぞの深夜旅バラエティ番組の名物のようなセリフを俺は思わず独り言ちてしまう。きっと疲れているのよ、あなた…。



「あらよっと、ティンダー」



 *ムドーは真鍮のティンダーロッドを使った!

 *真鍮のティンダーロッドの残り使用回数は12です。



 さっき二本目の松明を点けるのに使ったからな。意外とこの残り回数じゃ直ぐ無くなるかも…。

 


「アチチ!それにしても、この部屋…天井に孔が開いていて良かったなあ。これで一酸化中毒になることはなかろうよ」



 俺はダンジョン第一の部屋に居た。案山子先輩を熾した焚火の中にくべる。



 燃える炎から立ち昇る煙で白い塗料の燃えカスのようなものが舞い、俺は少し咽て口を塞ぐ。



「ゴホッ…さて、明日からはいよいよどうするか、だな。兎に角、あの鳥をどうにかしたい。この火点け棒と何かを上手く利用すれば丸焼きにしてやれるかもしれん。そうすれば、水が手に入るだけじゃなくて食糧問題も一気に解決できる。ワイルド過ぎる料理法と調味料の有無はこの際、些細な問題だ」



 俺は空腹を少しでも誤魔化そうとして、腰の道具袋から相棒のプニ太郎を取り出して揉み始める。



「はあ~…プニ太郎、明日からどうする~? まあ、鳥をどうにかするのは難しいからやっぱり他の左右の通路の先を確認すべきかもだなあ。今日はもう疲れてやらないけど…」



 プニプニ。



「……なんだかプニ太郎からの反応が薄く無くなったような? もしかして寝た? スライムって寝るのか?」



 プニプニプニプニ。



「お~い、プニ太郎~? なんで何の反応もしないんだ? 指で圧したら圧しただけ、小気味よくキュッキュッっと押し返してくれるの、に…プニ太郎? ………おい、大丈夫か!プニ太郎!? プニ…ッ!」



 ☞スライムボールの死骸(レベル1)

 種族:不定形系・最下級

  ダメージ以外の理由で生命力を失って原形を留めたままのスライムボールの死骸。アンデッド化は不可。

 特殊能力:無し



 神は、この俺の手から、この世界で唯一の友をも残酷に奪い去ったのだった。



「プニ太郎おおおおおおおあおおおぉおおおおおおオオ!!!!」



 ※※閑話※※



 ガタヤ王国の城塞都市ドイルー。広大な土地と豊かな自然、ドイルー周辺には複数のダンジョンと数多くの街や集落が存在する。中には他の国から重税などの理由で逃げ延びた無法者が密かに山林に築いた隠れ里のようなものまである。



 とある日の黄昏時だった。その中の無名の小村から少し離れた木陰に、毛皮のフードコートで身を覆った人物がドスンと腰を降ろした。



「(まだ、今日は一つ目の村だけど…今回も余り期待できそうもないわね)」



 フードの裾からハラりとピンク色の髪が零れる。どうやらその人物は女性のようだ。



「(テュテュリス様からなけなしの御力で頂いたダンジョン鉱石だったけど…殆ど交換できないと言われてしまった。はあ…かと言って、モンスターを目の敵にしているドイルーみたいな人間の城には近づきたくもないしね。…その近くの街じゃきっと鉱石も売れるけど安く買い叩かれるに違いない、だろうし? はあ、仕方ないか…今回は7日も猶予を頂いたから、もうちょっと遠くまで足を運んでみよう)」



 女は溜め息を軽くつきながら隣の背負子から小さな青林檎を一つを取り出して齧る。


 先に立ち寄った集落で自分のような素性の知らない者などに淡い下心を持った若者から一籠渡されたものだ。


 その若く小さな林檎からは瑞々しさを十分に感じられた。



「(シャリシャリ)……ペッ!」



 が、咀嚼したかと思えば女は吐き出してしまった。



「(不味い…やはり、地上の食物はどうにも口に合わない。でも、土の中に3日くらい埋めて置けば少しは光の毒気が抜けて食べられるように、なるかな? それに、他所のダンジョンの低レベルのモンスターが面白がって買ってくれるかもしれない。…最悪、街道を行き来する旅人とかの人間相手に売るか交換しても良いか。どうせ元手はタダの品だ)」



 女は齧った青林檎を忌々し気に見つめた後、口元を拭って懐にしまった。



「(それにしても…驚いたな。まさか、私のホームとしてるダンジョンに人間がやって来るなんて…。私がテュテュリス様達に拾って貰ってから随分経つけど、それでも人間が冷やかしに来ることすらなかったし。前にイートウが言ってたっけ。少し昔だったなら、ダンジョン前の街の元住民の人間族が時折様子を見に来ることくらいはあったって…)」



 女の脳裏にあの人間の男の姿が浮かぶ。



「(この辺じゃあ見掛けない見た目の人間族だったな…遠い国の人間? でも、なんでわざわざ私達のダンジョンなの? あの恰好からしてまず冒険者じゃあないだろう。それに、ダンジョン目当てなら他にもドイルーの近場にグリンビン様の“トロールの森”や“グレイストン遺跡”とかがあるし。…まあ、私だったら少なくともグレイストンには簡単に近づかないけど。あそこの連中、何考えてるかわかんないから)」



 では、何故あの男はあんな場所に居たのか?



「(私も久し振りに井戸への隠し通路を抜けて、地上の食べ物を何とか誤魔化して食べる練習をしてたからな~…。急にアイツが来たもんだから反射的に逃げちゃったけど。今思えば丸腰だったし、ふん縛っちゃえば良かったかな? おっと…いけない。モンスターが意図的に冒険者以外の人間を地上で攻撃するのは御法度(タブー)だったわね。じゃあ、もしかして自殺…?)」



 人間の表情は良く判らないが、確かにまだ若いだろう男の顔には悲壮感が…それなりに漂っていた気もする。



 女は片手を(おとがい)に乗せて薄くなった月をボンヤリと眺める。



「(やはり、一旦戻って報告すべきだったかな? でも、例えばアイツがあのまま悪戯にダンジョンに侵入したとする。……ここ十数年の間は特にテュテュリス様が省エネだから、第一階層はスライムボールとアタックドードーとかの自然発生(ポップ)モンスターくらいしか居ない。でも、第二階層からは皆が居る。決して他のダンジョンと比べればレベルは高くないが、それでも無手の人間族相手に負けるはずもない)」



 女はひとり頷くと、夜の帳が降りつつある森の木の根を枕にゴロンと地面に横になった。



「(大丈夫、大丈夫。フフ…。きっとあんな調子じゃ私が入り口に設置した()を見て、あの男は勝手にビビって人里まで逃げていくに違いない)」



 女はクスリと笑い声を零してから静かに瞼を閉じた。



 

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