Ⅰ*39 そして××が仲間になった!(※例のSE)
「ぜぇ~ハァ~…もう無理。足が棒のようだ…」
『なっさけないわねえ。たかが森の中を十時間歩き続けただけで』
「…………」
ダンジョン入り口前で初っ端からしくじってピンキーの機嫌を悪くしてしまった俺は、その辺の素材で適当かつ大胆に、新しい案山子を作ってやってご機嫌を取った。
って、何故に二本足で立っているだけでそこまで感動してくれたのだろうか? まあいいや。放っておこう。
あ…しまった。余計な事をしたせいで革鎧を回収できなくなった。今取ったら滅茶苦茶怒るだろうなあ~。…もういいか? ケツに穴とか開いてるし、片方の肩も無いから見た目●ッドマックスだし…。
その後、俺達はドイルーに向けて(ピンキーが方向音痴とかそういうオチじゃなければ)順調に出発した。
が、今日は終始…森の中の悪路を荷物を抱えて移動しただけだった。
…母さん、お元気ですか? ぼかあもう、ダメそうです…。
『まあ、要塞まで最短距離の街道に出れるのは明後日の昼前ってとこね。そこからドイルーまでせいぜい半刻くらいだけど、あそこはドラゴンの刻までが門限だから…どっちにしても明後日まではドイルーには入れない。もう日が暮れるし…今日はこの辺で休んで、明日のハーピーの刻には発ちましょう』
「………は?」
もうヤダ。何言ってんだコイツ!
ドラゴン? ハーピー? ええいっ!モンスター語を話すな!? 日本語でプリーズっ!!
『……まさか、アンタ。時間の数え方も知らないの? 噓でしょ…ああ…』
「ああ…じゃあねえ! 普通は一時、二時って数えるもんだろ?」
『…え? よく聞こえないんだけど。なんか途中で変な“声”出すのやめてよ!なんかゾワゾワして上手く声が拾えないじゃない…』
「う、う~ん…」
こりゃあ、多分俺の言うことが通じないパターンだな。デフォである俺の自動翻訳機能(相手側に対して)の誤変換という線も大いにあるが…同じく、例えば俺の世界の通貨単位…円とかドルとか伝えても同じく“え、なんて?”と言われてしまう可能性が高い。
…いや、もっとヤバイ。例えばセンチとかメートルの単位とか…ってか、暦ぃ!?
俺はこの世界の時間どころか日付すら知らないじゃんか……前途多難。
「ピンキーちょっと、いや、大分聞きたいんだけど…」
『わかった、わかったわよ。…兎に角、今夜の寝床を確保しないと』
俺も「そうだな」と一旦相槌を打つと腰のマチェットを抜いて周囲の草や枝を切り払う。肩の後ろに背負うように運んでいた各自のベッドロール(毛皮の寝袋みたいなヤツ)を地面に枯草なんなりをクッション代わりになりそうなものを敷いた後に広げて、コレで準備完了。
おっと、いけね。俺とした事が…冒険の醍醐味である火を熾すのを忘れていたとは。
因みにクラフト機能に慣れるまでに俺が大変お世話になっていたティンダーロッドはピンキーと対面時に回収済みである。
(パチパチッ…パキッ…)
「ああ~。焚火の炎って見てるとなんか癒されるよねえ~」
『…………』
俺がクラフトのレシピからパパっと焚火を作ってまったりとしていると、焚火を同じく囲むもうひとりは生憎ムスっとした表情。
「…おい、どぅした?」
『……なんで草と石と木の枝だけでそう簡単に火を熾せるわけ?』
「何でって…できるんだもん?(※二十三歳)」
『普通そんなに簡単に出来る訳ないでしょ!? ズルよ、ズル!』
「ズルってお前ぇ…そんな身も蓋もない。ホラ、焚火で焙った干し肉やるから落ち着けって。な?」
『フン!(ムドーから肉を強奪する)』
全く年頃(多分)のオーク娘は気難しいねえ。
焚火をクラフトして間も無く、森の中は鬱蒼とした闇に包まれた。うん。俺一人じゃ、心細過ぎて泣いてるわコレ…。
『私がやろうと思ったら、コレでも使わないとこんなに上手くいかないし…』
「そりゃあ、俺の能力上の産物ではあるからなあ~? じゃあ、お前さ。普段、一人で地上に行ってる時どうしてたんだよ? 宿泊まりか?」
『そんな余裕なんてあるわけないじゃない。…基本は人里から少し離れた場所で野宿よ』
「野宿、ねえ…火は?」
『…………』
どうやら彼女は寝る時、部屋の灯りを完全に消すタイプらしいな。
『で、何が聞きたいの…』
「ああ、そうだった。さっきのドラゴンの刻ってさあ?」
『やっぱり世の中に疎いとかそういうレベルじゃあなさそうね……いいわ。教えられるだけ教えておかないと、ドイルーで怪しまれるから』
※
結果、この世界は俺の常識…いや、恐らく例えとかが違う、数字の計算は俺の知っているアラビア数字を用いた四則計算だったし。
ただ、時刻だけじゃなく、暦、単価、果ては長さの単位や重さの単位まで違った。だが、単位に限っては元の世界で聞いた覚えのある言葉だったが、全く同じものをさしている確証は無い。恐らく、俺が最も理解できるであろう近い言葉に置き換えられているんだろうな。
『いい? 一日には夜明けのハーピーの刻から始まって、一刻毎に…ワーウルフ、ワーボア、コボルド、ミノタウルス、ワータイガー、ボーパルバニー、ドラゴン、ラミア、セントール、サテュロス、ファーレス(※人間族の意味らしい)で一巡するわけ。今は、完全に日が沈んでるから…ドラゴンの鐘二つってとこかな。わかった?』
「ぜっんぜん解んねっ」
まあ、いわゆる江戸時代とかにある干支のヤツ…え~正式な呼び方なんて知らん、知るかあ!
ほら、“草木も眠る丑三つ時”とかって聞いたことない? ないですかそうですか。
ただ、俺だって丑の刻…あの藁人形を木にカンカンしちゃう時間が夜中の二時くらいだったのは憶えてる。つまり、この世界の二十四時間が干支のように十二に区切られて表現されているということだ。ピンキーとの殴り合い(※一方的にアッチから)に近い擦り合わせで、件のハーピーの刻がおよそ夜明け前の午前四時頃であると断定。そして“ドラゴンの鐘二つ”というのは午後七時を指している!…っぽい。鐘幾つ、というのは村よりも大きな各要塞で時間係みたいな人がその時間に合わせて鐘を鳴らす回数であるらしく、一刻がそのままの意味であるならば、一刻は二時間という計算になる。鐘は一刻の間に、四半刻(三十分)置きに計四回鳴らされる。例えばワーウルフの刻で鐘が一回鳴らされる、鐘一つの時間は午前六時を指す。鐘二つなら午前六時半、鐘三つなら午前七時、鐘四つで午前七時半といったところ。さらに聞けば、鐘を鳴らすのはラミアの刻の次、夜間のセントールの鐘一つ(午後十時)までで、それ以降のセントール、サテュロス、ファーレス、ハーピー(午後十時半~明朝午前五時半の間)は基本的に鐘を鳴らさないという。
『時刻はもうこれで良いでしょ? 次は暦だけど、今は中立神歴2022年の、雨緑の月の三十五日で第五水の日よ』
「……ねえ、何言ってんの?」
ピンキーに叩かれた。痛いよう。
…でも、俺の気持ちもわかっておくれよ。齟齬があるんだよ。
そしてこの世界の暦。驚くべき事に一年間が三百六十五日なのは一緒なんだ…なんだが、なんと月が一月から九月までしかない。しかも一週間は八日で一月五週の四十日。一月は眠り、二月は青葉、三月は花乙女、四月は雨緑、五月は蜃気楼、六月は雷鳴、七月は豊穣、八月は世界竜、九月は祈り…が月の名らしい。十二の月で慣れてる俺にはイマイチ季節感がぼやけるイメージの名前の月があるけど…特に世界竜って何? コッチの世界が元の世界と同じ春夏秋冬がキチンとあるのかどうかすら疑わしいしなあ~。まあ、そこは追々解るだろうさ。
でもって、曜日は光の祝日(日曜日?)・火の日・水の日・雷の日・土の日・風の日・氷の日・闇の安息日(土曜日か?)で一週間だという。
そして、奇数の月…あ~眠りの月、花乙女の月、蜃気楼の月、豊穣の月、祈りの月の四十日目の後には次の月との間に“虚無の祭日”らしきものが一日ずつ差し込まれる為、各月四十日の九月掛けで三百六十に虚無の祭日の五を加えた計三百六十五日となるわけです。はい。
『…ったく、じゃあ次はあ。…長さとか、トワース。解る?』
「●ビルスーツの名前か?」
『は?』
「ごめんなさい」
次に長さとかの単位…トワース。更にこれより小さいものは、このトワースの六分の一であるティルト(ホントはガタヤでは他にもエッピという単位らしいが…通貨単位のエピスと混合しがちなので基本は帝国式でティルトという言葉を用いるらしい)という単位。そもそも、トワースの単位とは…?
(トスン)
「………なに?」
『丁度これくらいなの』
「……なにが?」
ピンキーが俺の頭の上に自分の広げた手の平を指先を上にして垂直に置いた。
……俺の背が大体百八十三センチだから? 約二メートルかな?
となると、ティルトがその六分の一だから……あ~三十三.三三三三三………うん、定規が必要だなっ!(面倒臭いわ!)なんでそこはセンチとメートル法じゃあないんだよ!?
他には重さの主流はガロンという単位だ。ピンキー曰く、小樽一個分らしい。
って、適当過ぎやしないか? …ただ、ピンキーが俺をオークの村でボコった時に外から持ってきたあのエールの樽がそうだってんなら、皆が飲んだ量からして大体四リットルから五リットルないくらいだろうとは思う。まあ、当てずっぽうだけどな。
『わ、私だってそう先生に教わったのよ…』
「へえ~?」
『次で最後ね!次は一番大事だから確実に覚えてよ? (…スッ)…ムドー、コレは?』
ピンキーが手に取ったのは黄金が一粒だった。
「え、黄金一つ…じゃあないの?」
『それでも正解だけど、正確にはこの国の単価じゃ、一エピス。もしくは一万アスピックが正しい言い方。まあ、エピ・アスって基本は省略するけど。……じゃ、今度は全部で幾ら?』
次にピンキーが自身の財布からジャラリと取り出したのは複数の鈍銀だった。
ふむ。黒ずんだ銀板が三枚。ほぼ正方形の小さな銀板が二枚。そして大きさこそ差は無いが綺麗に輝く銀板が一枚。
…インゲンに習っておいて良かったなあ。フフッ…数学5(十段階評価で)の俺の暗算能力を舐めるなよ?
「え~と、全部で千二百十五アスピックだ」
『正解』
その後、何度かピンキーから計算クイズを出されたが危うげなく俺は正解を連発する。まあ足し引き掛け算は我が国の義務教育だからなあ。悪いね?
『うん、これで安心ね…』
「安心?」
『……知ってる通り、私はまだあんまり人間族の言葉が流暢に喋れない。聞き取れはするんだけど』
「う、うん。そうだね…(思わず視線をずらす)」
『だから、テュテュリス様がアンタを私の下につけるって言われたけど…ドイルーじゃ、アンタに主に口を聞いて貰うことになるわ。…ちょっと、悔しいけど。私はアンタの護衛か荷運びってことで表沙汰では通して』
「良いのか…?」
『それが最善。…まあ、アンタがあんまりにも危なっかしかったらブン殴ってダンジョンまで連れて返るから安心なさい? ちょっと残りのテュテュリス様のDPが不安だけど…一回くらいなら蘇らせてくれるから』
「おいおい、人を殺して運ぼうとすんじゃあないよ!」
そんなやり取りをして顔を見合わせた瞬間、俺達は笑いが堪えられなくなって噴き出してしまった。
『アハハ…! 嘘よ。というかね。蘇生の対象は冒険者でもモンスターでもあくまで“ダンジョンで死亡した時のみに限り”なのよ。……だから、この地上で、ドイルーで万が一の事があればそれで御終い。だからこそ、アンタに私の命だって預けるわ。その為に、テュテュリス様は私達二人を地上へと送り出したんだわ。この一度の遠征で全ての目標を達成できなくても、絶対にやり遂げてみせる…!』
「ピンキー…お前」
『……じゃない』
「え? なんて?」
決意を示したと思ったピンキーが突如俯きゴニョゴニョと口ごもる。
『…これから人間族の要塞を渡り歩く事になる訳だけど。アンタは、まあ良いとして…私の名前を地上でそのまま呼ばれるのは都合が悪いの。だから、別の名前で呼んで…』
「そうなのか? でも、なんて…」
ピンキーが俺の眼を見つめて口を開く。
「ルカ。……地上ではそう呼んで」
彼女は真剣な表情で俺に向って手を差し出す。
…わかってるさ? 俺だってそこまでKYじゃあないよ。
「…わかった!改めてよろしくな! …ルカ!」
「……っ!ええ!」
俺達は焚火の火で赤く照らされながら固く握手を交わす。
うん!いい流れだ!きっと俺達は上手くやって…
(テンテンテンテンテンテテンテ~♪ テンテンテンテンテンテテンテ~♪ ※件のSE)
*ルカが仲間になった!
*新たにルカのステータスが更新されました。
▼ルカ
▽レベル5
▽種族:オークプリンセス・ミュータント・ストライカー
▽武器:レベル1のブロンズ・ハンドアックス
▽鎧:レベル4のファー・クロスアーマー+1
装飾品:クロース・アンド・フード
装飾品:橄欖石のタリスマン
▽ヘルスポイント:60/60
▽アーマーバリュー:16/16
▽マインドパワー:不明/15
【特殊能力/スキル】
<変身:ファーレス><変身:突撃形態>
<徒手空拳Ⅱ><隠れ身Ⅱ><威圧Ⅱ>
「んん゛っ!?」
『え!? ちょっといつまで手握ってるの…ねえってば!もういいでしょ!?』
……見なかったことにしよっかな!うん!(焦点の合わない眼で)
さあ、やっとの事で次章からついに地上編のスタートです!お待たせしましたw
また、オークルマール先生のQ&Aは地上では音信不通の為、御休みとなります。
ただし地上でも地下空間に出入りする時は恐らくコーナーが頼まれずとも復活すると思われますw
今回もただ長々と説明回になってしまいましたが…お陰様で毎日、自分の中ではかなりの方が読んで下さっていると大変嬉しく思っております!
ちなみに、ピンキー(ルカ)からの鈍銀クイズの計算方法を知りたい方はⅠ*32を読み返してみて下さいw
今後ともに変わらぬお付き合いを願えればと思う次第でございます!<(_ _)>
ただこんな脱字誤字が未だ正せぬ拙い作品ではありますが…今後のモチベを維持ないし高める為にも卑しくもこの弱筆者めに皆様…何卒、高評価とブクマの方もよろしくです(暗黒微笑) 佐の輔でした。




