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Ⅰ*04 異世界初日~未知との遭遇、スライムボールとの死闘



 俺は案山子先輩の腕…もとい松明の火の灯りを片手に、もう片方で洞穴の壁を触って確かめながらダンジョンの細道を無言で進んで行く。



 ダンジョンの入り口らしき穴からは大人ひとりが立って進めるほどの幅しかない緩やかな傾斜のある通路が続いていた。



「…入口だけは土壁っぽかったけど。進むにつれて変わって…まるでセメントで固めた壁みたいだな? しかも変な縞模様みたいになってるし、ザラザラ? ツルツルしてるところもある。明らかに人工物だな? …逆に気味が悪ぃなあ」



 入り口から三百メートルは進んだかな? 通路の先に微かに光が見える。



「なんだここは? 一応部屋なのか…」



 俺が辿り着いたのはドーム状の空間だった。広さは円形だから正確には判らないが、八畳くらいかな?


 壁から天井が弧を描いているので思ったよりも狭くて窮屈に感じる。高さは三メートル程度だろう。


 光ってみえたのは天井中央に空いた小さな孔から、地上からの陽の光がスポットライトのように射していたからだ。マジマジと伺えば、光と共に水滴が垂れてろり、光の当たる床にはビッシリとその部分だけ苔が生え茂っている。ほんのりマイナスイオンを感じる。



「ダンジョン第一の部屋、か。…奥に続いてる通路は一本だけ。特に何もなさそうだけど……ん~? なんか壁に描いてあるな。何かの図形? いや、文字かも?」



 その部屋は光こそ射しているが、薄暗い。そもそも森の中なのだ、葉や枝に遮られて光量はだいぶ軽減しているんだろう。



 俺は壁に近付いて松明を近づける。



「なんかこのダンジョンに関することが書いてあるのかな? ってもこんなん読め…ってアララ?」



 なんとその象形文字をジッと眺めてるうちに、その文字が歪んで瞬時に日本語に変換される。だが、今の俺はこんな事にイチイチ動揺する男ではないのだよ。



「コレは助かる。この世界の人とは言葉が通じたんだ が、この世界の文字も読めんとこの先積んでしまうよな、普通。このけったいな異世界VRゲーム(・・・・・・・・)の運営には感謝しなくちゃな。……出来れば最初から日本語だとなお良かったが、まあ、雰囲気って大事だよね」



 “―この迷宮を訪れし者は幸いである。この迷宮は深淵に挑みし者達の資質を計るだろう。恐れを抱きし者は疾くと此処から去るが良いだろう。 だが、この迷宮で得られしものは今後、汝らの大いなる糧となろう。 ようこそ!人間諸君! 我が迷宮、地獄の一丁目へ…。  魔神、テュテュリス  ―”



 …………。



 これは何だ? まさか、ダンジョン側からのアピール文なのか?



「このテュテュリス? って奴がどうにもこのダンジョンのボスっぽいな。文章の内容はイマイチ理解できないが…兎に角、ここから先に進ま」

(ぶにゅっ)

「……ぶにゅ?」



 俺が先へ進もうと壁から離れた時だった。何か弾力性のあるものを軽く踏んづけてしまったようだ。



「…なんぞコレ。こんなもの、さっきはなかったよなあ?」



 足を退かした場所にあったのは、何やらたわんで弾むボールのようなものが転がっていた。



 俺は首を傾げてそれを手に取ろうと屈んだ…その瞬間だった。



(びよんっ)

「ぐへぅ!?」



 俺は至近距離からドッジボールを喰らったくらいの衝撃を腹に受けて思わず尻もちを突いてしまった。危うく片手から松明を落としそうになる。



 *敵からの奇襲だ!

 *ムドーは攻撃を受けた!



「ま、まさかこんなのがモンスターなのか!? こんなん有りかよ! まだここは安全地帯じゃあないの、普通っ!?」



 *戦いだ!


 ☠小さな球状の生き物 (1


 *どうする?


 

 しかも勝手に戦闘が始まった模様。



「相手の正体がわからない!? まさかのW●Z式かッ!? だが、もう殺るしかねえッ!!」



 俺はパニック状態になりつつ、手にしていた松明をやたらめったらに振り回した。



「だっしゃあああああ!!」

(びよんっ!ぷよんっ!)



 *ムドーは小さな球状の生き物を狙って半狂乱になりながら松明を振り回した。

  しかし、外れた。

 *ムドーは小さな球状の生き物を狙って半泣きになりながら松明を振り回した。

  しかし、外れた。

 


「でええい!当たらんッ!?」



 ある意味モンスターボールのソイツは俺の松明に反応してるのか、びょんびょん飛び跳ねて俺の攻撃を華麗に躱す。しかも、俺の攻撃が当たらないのは的が小さかったのもあるとここで言い訳しとくぞ。



 あと、俺は泣いてない。ビビっただけだ。



(びよんっ)

「Oh!?」



 *小さな球状の生き物はムドーに体当たりした。

  当たった!しかし、ムドーは攻撃を跳ね返した!

 *ムドーは怯んだ。



 今度は奴の攻撃が俺のケツにクリーンヒットする。そこで俺は気付いた。俺の視界の左下にいつの間にか三行の数字が出ており、攻撃を受けた直後にそのひとつが赤く点滅するのだ。



 HP:8/8

 AV:3/5 ☜コレが赤く点滅している

 MP:2/2


 

「…こりゃあ、俺のヘルスポイントか? それと点滅してのが…AV、やっぱりアーマーバリューの略かな? って減少しとる!? 攻撃を受けてるからか…ッ!」



 このまま攻撃を受け続けるのはヤバイ!


 このAVの値がゼロになるのだけは非常にヤバ気だと俺は直感する。



「こんにゃろめっ!」

(ぶぎゅる)



 今度は飛び跳ねる前に踏んづけてやったぞ!



 *ムドーは小さな球状の生き物を思い切り踏みつけた。

  踏み潰した! 小さな球状の生き物は死んだ。


 *ムドーは戦闘から生き残った!



 俺に踏みつけられたソイツはバチュンと小気味いい音を立てて弾け飛ぶ。()ってやったぜ!



「フン! 調子に乗るからだ…人間を舐めるんじゃあねえぜ」



 そして俺は汗だくだった。実に激しい戦いであった…もう帰ろうかな?



 だが俺のサンダルの周りに飛び散った液体がススス…っと地面に吸い込まれて消えてしまった。



「……え。消えた? てっきり経験値的なものが貰えると思ったのに。あと金も。ゲーマーの端くれとしてはちょっと不満が残るな」



 俺は初戦闘の興奮も醒めて、次第にションボリとした気持ちになった時である。サンダルの裏に何かゴリっと当たる感覚を覚えたのは。



「お。ドロップアイテムかよ!?」



 俺はウキウキしながらそれを拾い上げる。



 *レベル1の小石を手に入れました。


 ☞レベル1の小石

 分類:アイテム

  使用レベル1の小石。何の変哲も無いタダの石。うっかり道端に落とすと見失う。

 特殊効果:投擲時、対象に0~2ポイントのダメージを与える



「単なる石コロじゃあねえか!? なんで石コロ如きにレベルがあるんだよお! 要るか普通っ!? いや、要らねええぇ~!!こんなも…ん…」



 俺はショックと怒りのあまり、その石を放り投げようとした。



 が、そっと腰に付けた道具袋にしまった。



 こんなんでも初戦闘の戦利品だ。大事にしよう。



(びよんっ)

「あひん!?」


 *敵からの奇襲だ!

 *ムドーは攻撃を受けた!しかし、攻撃を跳ね返した。

 *ムドーは怯んだ!


 HP:8/8

 AV:4/5 ☜また点滅した

 MP:2/2



「あ゛」



 唐突に受けた尻への衝撃で、俺はうっかり手にしていた松明を滑り落としてしまった。松明の火がジュっという音と共に消えてしまう。



 こうして案山子先輩の元腕だったものは短い役目を終えた。


 だが、幸運なことにこの部屋は天窓からの灯りで松明が消えてしまっても何とか視界が保てる。



「……ッ!! 野郎、許さねえ! 俺のケツに何か恨みでもあんのか!?」

(びよんっ)

「両手が使えりゃあお前くらい! シャア!!」



 俺は再度、飛び掛かってきたソイツを化鳥のような叫びと共に両手でバシっとナイスキャッチ!捕まえた。



「一体なんなんだコイツ…本当にモンスターなのか? ん? というか数値が…」



 HP:8/8

 AV:5/5

 MP:2/2



「アーマーバリューの値が回復してる? 一回の戦闘が終わる毎に回復すんのか。んで、今コイツに尻をどつかれたと思ったが別段痛みはそこまでだったな…? メッセージにも“攻撃を跳ね返した”って書いてあったし、攻撃を受けても必ず損害がある訳じゃあないのか…」



 単にこのプニプニ野郎の攻撃力が1~2しかないようなクソザコだったいう可能性もある。



 ……だが、最も重要なのは、そんな相手に初戦とはいえ苦戦した俺って?


 多少手の中で暴れるも、コイツの触った感触が良いので俺は適当に指先でモミモミした。


 大きさはソフトボールくらいで、表面はツルンとした膜のようなもので覆われている。ベトベトしてるタイプじゃなくて良かった。


 中身には何か核のようなものが見えるが…白く濁った緑色の液体で満たされていて、詳細までは確認できない。



 暫し、怒りを忘れてリラックスしていると急にメッセージが流れてきた。



 *ムドーは敵を完全に無力化した!



「…へ?」



 ☞スライムボール(レベル1)

 種族:不定形系・最下級

  無力化されたスライムボール。戦闘能力は皆無、微かな水気さえあれば生きていけるダンジョンの食物連鎖では最底辺の存在。繁殖力は非常に高い。

 特殊能力:無し



「コイツ、スライムボールって名前だったのか。そういや抵抗しなくなったが…どうしよう、捨てて放っておくとまた襲われるかも」



 取り敢えず、触った感触が良かったので俺はそのスライムボールをそっと腰に付けた道具袋にしまった。



「さて、もうここに用は無いな? 先に進むか。……あ~、この先もこんな感じのモンスターばかりだとありがたいんだがなあ~。でもドロップアイテムが石コロばっかじゃあ、いつになっても入市税を稼げる気がしないな…」



 

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