Ⅰ*13 ダンジョン入口付近でサバイバル~未知との遭遇Part 3、人間。諦めも肝心
ダンジョン入口付近でサバイバル、え~……何日目だっけ?
あ、スマンスマン。別に面倒臭くなったわけじゃないぞ?
ああ! そう、今日で丁度一週間。つまり、7日目という事だ。
え? 4、5、6日目はどうしたのかって?
そんなに知りたいの? この欲しがりさんめ。
ただ…そうだな。何故、俺がやたらこんなにも達観してるかと言うとだな?
絶賛連行中だからだ。
勿論、俺が連行される側ね。
現在、俺は初めてダンジョンの第二階層に来てるんだ。
凄いだろ? 俺、自慢じゃないけどアタックドードーとは素で渡り合えない実力なんだよ?
ただ、自分で進んで来た…訳じゃないのはもう御分かりだろ?
ムッキムキの大男二人に脇を抱えられて移動してるんだ。
完全に持ち上げてくれてるわけじゃないから、単に腕と脇の下が痛いだけで全然楽な思いはしてないぞ!
ちなみに二人の名前はイートウさんとアユルさんって言うんだってさ。しかも、親子らしいよ?
どうだっていいよねッ!
まあ、俺もそんな現状についていけずにこうして現実逃避してるってわけよ。彼らの目的地とやらに着くまでちょいと暇だから、軽く今迄の経緯を振り返ってみよう。
※
「結局、このダンジョンの一階にはスライムボールとアタックドードーしか居なかったな…」
ダンジョンで生活を初めて5日目。
俺はこの第一階層のマッピングを完了する。
これは第一に俺の眼が完全に闇を見通せるようになったのと、催眠ガスを封入したスライムバルーンの大活躍あったからである。
「こうして見れば…全部で二十二部屋も在ったのか」
俺はガリガリとツルハシの先で壁に描いた地図をなぞる。
意外にもこのダンジョンの壁、固いんだよ。
固いっていうのも違うんだけど…例えば手斧や石を使って傷を付けても、ものの数秒で治ってしまうんだよな~気持ち悪っ。
だが、つい先日。
俺は見事に現在手にしている悪夢のツルハシに呪われてしまって、それからずっとベッタリなんだが。
しかし、そのツルハシだと何故かちゃんと傷が残るんだから不思議だ。恐らくこのツルハシの特殊効果である“消滅”とやらの作用なんだろうな。
「眠らせば勝ち確のドードーに苦戦しないどころか現在は貴重な俺の食糧源となってくれている。惜しむらくはスライムボールのように直ぐに新しいのが湧かないことか…乱獲に注意だな」
マッピングして判ったことだが、一階の二十二部屋の中でドードーが居る部屋は七だ。
そして、個人的に俺が巣と呼んでいる部屋が他に二つある。まさしくその二つの部屋だけはドードーの巣という外観で何処から持ってきたのか枯草や枯れ枝を複雑に組んだコロニーのような存在だ。他の部屋では多くても五匹程度なのだが、巣だけは常時十匹以上は居る。ただ、グループ的には一つらしく、スライムバルーンの一個で巣の個体を殆ど無力化できてしまうのには笑ってしまったなあ~。
他にもいわゆる徘徊モンスターとも呼べるドードーが定期的に一~三匹程度で決まった部屋を行き来している。あの水飲み場に来ていた奴らもそれに当たる。
そして、倒したドードー…というのは現状では正味一体だけだ。今日までに俺が手に掛けたドードーは五。食事目的で地上まで同行して貰ったのが三。他の二匹には済まないが実験的な理由で死んで貰った。
だが、恐らく俺はもう食事目的以外でドードーを倒す事は無い。
何故ならば、圧倒的に損だから、だ。
俺が倒したのは、無力化した巡回中のドードー(レベル2)と巣に居た他の個体より少し大きいドードー(レベル3)だ。ダンジョンで倒したヤツは地上で解体した時と違って、死んだ後にドロリと地面に溶けるように消えていくようだ。
だが、結果として二匹のドードーは数枚の羽根と魔石に変わっただけだった。肉は手に入らなったのだ。
恐らく違いは、そのモンスターが生きていたのか死んでいたのか、だろうと俺は推察する。二匹の首を手斧で切り離した時、出たメッセージは“死んだ。”だが地上の竈場や試しに第一の部屋に戻ってから同じ事をした時は“破壊した”と表記される。無論、出現するアイテム量の差は明らかだった。
つまり、戦闘で倒してしまうより、地上へ連れ出し死骸化(恐らく一種のアイテムのような扱いではなかろうか?)して頂いてから解体した方が断然お得なのだ。
先ず、肉を得られないのは致命的かつ俺の死活問題となるッ!
それに、武器でドードーを倒したところで経験値やらお金やらは手に入らなかったしな。
当然、俺のレベルも2のままだ。
まあ、ドードーのことはこのくらいにしておこう。
後は~…そうだな。罠部屋…まあ、トラップのような仕掛けがあった部屋は意外と少なかったよ。全部で五部屋だ。…まあ、まだ発動せずに見つかってない可能性もあるか。
催眠ガスが二部屋。落とし穴が二部屋…うんまあ、偶然にも巡回中のドードーが二匹、目の前で落ちてったんだよ。いや、喰われた。…あの光景が俺のここ最近での軽いトラウマになりつつあるな。
そして、忘れもしない…あのスパイクトラップ。恐らく単純な殺傷目的ではない残酷なダメージ系の罠だった。作動した一平方メートルの圧力板に無数の直径五センチ、長さ五十センチほどの棘が飛び出るという何ともシンプルな代物だ。
が、俺はまんまとそれに踏み込んでしまい。片方のサンダルがビーチサンダルに早変わりしてしまった。 あ、靴底にまで穴開いてるビーサンなんてないか? アハハ…。
……流石にアレは泣いてのたうち回ったなあ~。ドードーに尻突かれたり、宝箱の罠の矢で肩を撃たれた時も結構ヤバかったが…自分の足の甲を串刺して。
正直、心折れるよ?
まあ、俺がサンダルだったのも悪かったかもだけど。あの時ゃあ血がドバドバ出ててさあ~……良く助かったね、俺?
こうして、調子こいて奥まで進もうとした俺の4日目の探索は泣き叫んで終わったわけだ。
だが、ここがゲーム…じゃあねえな、もう! あの痛みと光景はZ指定も真っ青だ。心臓が弱い人はショック死しちゃうレベルだったよ、ホント?
でもゲームのような世界としか思えない…。あんよに数ヶ所も穴を開けてしまった俺だが、次の日には綺麗に塞がっちまったんだからな。
流石に震えたよ。
視界の隅に表示されてる数値だけだと何とか自分を納得させられたけど、こうにも分かり易いもので現象を表されちまうとなあ~。
もう、俺は普通の…元の世界に帰れないのではないか? と、ついつい考えてしまったもんだよ。そもそも視界の変化の時点で自分は正常な人間ではないのではないかと…ああ~もう止め止め。鬱になりそうだからこの話は止める。
そして、迎えた5日目。遂に俺は一階の部屋を恐らく網羅できた。
しかし、問題はあったさ。一番厄介なのが。
それは最後に訪れた最奥の部屋の出来事だった。
「もう続く通路は…見た限り無し。モンスターはドードーが四。ということはこの部屋が最後…か? というか、わっかり易いなあ~…」
その部屋にはドードー以外にも中央に無視できない存在があった。
階段だ。それも馬鹿デッカイの。恐らく四人くらいが手を繋ぎながら横になって降りられると思う。頭の悪い言い方だと。
残念なのは段の降りが俺から見て奥から始まっているので階段の下がこの位置からは覗えない点だろうか?
そもそも当分はその先に降りてく気なんてないけどな?
「取り敢えず、寝ておくれっと」
俺はもはや伝家の宝刀と化したスライムバルーンを女子バレー部員の爽やかなトスのように部屋の中央に打ち上げると…。
「左手は……添えるだけ!」
そして慣れた手つきで手製のダーツを投げてスライムバルーンを破裂させる。
ちなみに、その左手は俺の腰に添えられている。
(パァン!)
*ムドーは目標に向ってレベル1のダーツを放った。
当たった!
*破裂したスライムバルーンから催眠ガスが拡散された!
アタックドードーは眠った。
アタックドードーは眠った。
アタックドードーは眠った。
アタックドードーは眠った。
「グァー…グァ…」
催眠ガスが頭上から降りかかり、ドードー達が地面にバタバタと倒れる。
だが、俺は慎重な男。伊達にサンダルに穴を開けていないのだよ。
実は一匹だけ、この催眠ガスに抵抗した個体がいたんだ。
結局は仲間が寝てるのにパニックになってるだけで、2回目のガスで寝てしまったし、調べても他と変わらない個体だったからな。
恐らく、この催眠ガスは強力だが…百パーセントじゃない。そこは留意せねばなるまい。
じっくり十五分ほど待ってから俺は部屋に入ろうとした…だが。
「……」
「………」
「ッ!?」
俺は踏み入れた足を引っ込めるどころか通路に飛び退いた。
誰か…階段の下から昇って来ている!
誰か。というのは正しくないのかもしれない。だが、俺がそう咄嗟に思ってしまったのは複数の話し声のようなものが聞こえた気がしたからなんだ。
やがてペタペタという足音と共に階段から微かな灯りが漏れた。
ま、まさか! 俺以外にもこのダンジョンに人が居たのかッ!?
だが、俺の期待はかなり悪い方向に逸れることになる。
「………?」
「……ッ!」
……人じゃない。
人型だったが、少なくとも俺と同じ人間じゃなかった。
このダンジョンでスライムボール、アタックドードーに続いて初めて遭遇するモンスターだ。
階下から現れたのは3体の恐らく“人型の生き物”と不確定名が付きそうな者達だった。
淡い青い光を放つ虫の繭のようなカンテラかランプを手にそれぞれ持っている。
そして、その光に照らされた形相は人間ではなく、緑掛かった毛皮で覆われていおり口からは鋭い犬歯が伺える。だが、想定していたよりも人間らしい表情をしていたのが俺の心境を複雑にさせる。
そいつらは獣の皮をなめしたような服と部分鎧のようなものを纏っている。その内の1体が槍を持ち、もう1体が腰に剣鉈のようなものを下げていたのを見て俺は思わず戦慄した。
「(武装している…ッ!? しかも道具を扱う辺り、頭も人間並みの可能性もある…今の俺じゃあ絶対に敵わないぞ?)」
そいつらの様子を覗く俺の握り拳の力が強くなるのを感じる。手の中に尋常ではない汗が貯まる。
……見つかったら、ジ・エンドだ。
それと、そいつらが人間らしいと言ったのはそのまんまの意味でだ。
何かボソボソ声でやり取りしているので聞き取れなかったが、明らかに言葉を用いていた3体のそれが余りにも人間臭かったんだ。槍が持ってるヤツの両手を広げる様なんて“わけがわからないよ”と明らかにジェスチャーしているようにしか見えないぞ?
実は…そういう種族の人なんじゃないのか? モンスターと一緒に暮らす、みたいな。
まあ、そんな訳がないか。
…どうやら、地面に寝転んでいるドードー達を見て困惑しているようだな。
しばらく、辺りをキョロキョロしていたが…なるほど、あの手に持った灯りを見る限りアイツらは俺ほど闇を見通せないようだ。……だとしたら、先住者の割にだらしねえな? 俺なんか三日でコレですよ?
その内、2体がドードーを一匹ずつ持ち帰っていく。そしてもう一体、やたらチビ…他と比べて二回りくらい小さな個体が地面の上をジッと見てたかと思えば、何かをババッと拾い上げて2体の後を追いかけていった。
「…………」
俺はただじっと息を殺してそれを見ていた。
「……この階段の下にはあんな奴らがウヨウヨいるのか」
俺はその階段を眺めながら腕を組んだ。
「うん!無理だな! 死んじまうわッ!!」
俺はアルカイックスマイルで階下に向って怨嗟の声を吐いた。
「仕方ない。最悪、さっきの連中がこの一階を徘徊してくる可能性だってある。だから、一階もできる限り安全を保てる部屋の行き来のみに留めるとしよう。だって死にたくないから!(笑顔)」
こうして、俺は第二階層へと進む事を…階下へと続く階段を発見した直後にキッパリと断念したのだった。
それに、このツルハシで色々試したいこともあるしな!(ニヤリ)




