Ⅰ*12 ダンジョン入口付近でサバイバル~呪われたツルハシ
俺がどれだけ強くなったかは実のところ…さして興味は無い。別に俺はより強いモンスターを倒したいだとか、そんな感じのハクスラ精神を持ってないんだ。ごめんね?
結局は先のアタックドードーのように、催眠ガスを充填したスライムバルーンを使用して眠らせ無力化。先に相手に気付かれたら全力で地上までガンダで逃走。これで行く方針だ。
「さて、取り敢えず荷物を当面のキャンプ地である第一の部屋に置くとしよう。道具袋もパンパンだしな…」
俺は地上から持ってきた薪の束と道具袋から取り敢えず貴重だと思われる無の魔石(極小)と個人的に活躍期待度大のスライムボールの抜け殻。それと現在唯一、俺の手元にある武器であるレベル1のダーツ以外のアイテムは全部置いていくことにした。
え? 斧もパクって装備してるだろうって?
おいおい、近接戦なんてするわけがない。こちとら尻に穴開けられてんだぞ? 馬鹿なの? 死ぬの?
既にもうこの部屋にスライムボールが数匹湧いているが、特にこれらのアイテムに過敏に反応する事はなかった。
「ふう~む。…コイツらの反応からするに、アイテムとは扱われないもの…例えば使用後のアイテムとかの燃えカスとか壊れたアイテムの残骸しか喰わない可能性もあるな。だが、念の為だ。大切な晩飯も置いてくからコイツらは回収だ」
俺の考察が正しければ、スライムボールは殺してしまうとすぐに新しいヤツが数を増して湧く気がするんだよなあ。
逆に回収したり食べたりして他の素材アイテムに変えてしまうとその日はその場所から湧くことはないっぽいんだ。
実際、今日は朝に目覚めた壁画の部屋にはスライムボールは湧かなかった。逆に俺がスライムボールを踏んづけたりして物理的に殺してしまった第二の部屋のあの湧きよう…多分、俺の考えそこまで間違ってないような気がする。
「取り敢えず、今日は第二の部屋の左だな…だが、先ずは何があってもいいように壁画の部屋でスライムバルーンを作ってからにしよう」
俺はスライムボールを慣れた手つきで道具袋へと回収してからダンジョンの奥へと進む。
ちなみに元気なスライムボールは袋の中でほどよく暴れるものの、一緒にされたアイテムを食べてしまうことは無かった。まあ、ダーツがスライムボールに刺さっては困るのでダーツだけは腰のベルトに挟んでいるけどな。
※
「……これはまた。趣味の悪い壁画だこと」
俺は第二の部屋から左側の通路へと進んだ。
通路の先はまるで右側の壁画の部屋と同じような部屋だった。
違いがあるとすれば、今度の壁画は訳のわからない生き物じゃなくて人だったこと。そして、その恐らく剣と鎧を纏った男が絶叫を上げながら何か黒い穴のようなものに落ちている様を描いているように見えた。
…良し、この部屋は絶叫する男の部屋と呼ぼう!(呑気)
「だが、壁画の部屋と同じなら、まさかな。…同じくトラップがあるのか? いやあ~あるな。確実に。だって…判りやす過ぎるんだよッ!? 人間を舐めんな!」
だってさあ~?
部屋の最奥にはこれでもかと存在感をアピールする宝箱が置いてあるんだもんよ。
「しかし、今回の床はレンガでもないし…スイッチが見つからんな。…壁を伝っていくか?」
俺は暫し悩むと、ふとある下らない考え…というか記憶が浮かんだんだ。
「そういや、中坊の時にハマった妻子持ちの中年親父が頑張るダンジョンゲーで、武器を振ったら目の前の隠された罠が判る……っていうのがあったよな?」
俺は腰の手斧を手にすると無気力にブンと空を切ってスイングする。
「ハハハ。てかネタが古過ぎだっつーの。実際、こんなので罠が判る訳ねえッ…」
(ガパァ)
「ぶしゅ!?(※鼻水が噴き出た奇声)」
俺が手斧を振った数舜後に部屋中央に突如として大きな穴が開く。
想像していたよりも禍々しく、地面が得体の知れない生き物となって獲物を捕らえる為に口を開いたかのようなグロデスクさがあった。
いくら俺の眼が良くなったとは言え、その底が見えない暗闇に俺は恐怖する。
一分程度でその穴は何事も無かったように閉じられた。
「……怖ぁ~。やってて良かったなあ、不可思議なラビリンス」
このシリーズのタイトルについてはコレ以上は語るまい。
恐い思いをしたが、偶然の行動によって俺は安全に宝箱に辿り着くことができた。
「宝箱は宝箱でしかない。だが、それは無限の可能性。人類のロマン。世界の答え…!」
人生で初めてリアル宝箱を見た俺はゴクリと喉を鳴らして、恐る恐る宝箱の蓋を開く。
「ちゃららら、ちゃららら……ご~ま~だ~」
(カチリッ)
*おおっと!
「れ゛ッ!?」
突然の死のメッセージ!
宝箱の蓋の裏の仕掛けがキラリと光る。
俺は一瞬身体が硬直し、反射的に仰け反ろうとするのを直感でヤバイと判断。
むしろ宝箱に飛びついていた。
(ビュン)
「ぐっ」
*石弓の矢。
ムドーに肩に命中、4ダメージ。
HP:9/13
AV:0/4
MP:4/4
「あだだだだ!!?!」
俺は宝箱の横に転がり痛みに耐えてジタバタする。
「チクショウッ! なんて性格の悪ぃダンジョンだ!?」
俺は何とか肩から矢のボルトを引き抜く。返し刃がついてなかったのむ幸いして、そこまで血は出てない。
…が。鎧の肩部分がまた壊れた。下手に宝箱と距離を取れば額に当たるコースだったぞ…!
引き抜いた矢と鎧のパーツがダンジョンに吸収されるように消滅していく。
「あ゛~痛い。普通、泣き喚くぞ? だが俺も迂闊だったな……宝箱に罠は付き物。にしても威力が絶妙にエグイぞ…!恐らく鎧が吸収してくれた分を考慮して矢のダメージは8前後だろう。レベル1の俺が初日にコッチの部屋に来て…しかも鎧無しの状態で喰らったら即死だったぞ? しかも、罠に驚いて飛び退けばあの落とし穴、だ……このダンジョン、考えてやがる」
だが、俺は生き残った。なれば宝箱の中身を得る権利が有る!
ここまでの被害を出しておいて、実は“宝箱は空っぽでしたぁ~w”なんてオチだったら俺は最悪…後ろの落とし穴に飛び込みかねない。
しかし、宝箱にはちゃんと何か入っていた。
「何これ?」
*ツルハシ?を手に入れました。
「ツルハシ…これまた微妙な代物だ。手斧の方が使い易いだろうけど、武器としてみれば結構強そうだし、そもそも道具として使えそうだ。もしかして、ダンジョンの壁とか掘れちゃったりして? まあ、その場合はいつか突然壊れそうだけどな。ゲーム上の仕様で。 まあ、いっか!先ずは装備して性能を……」
(ガキンッ!)
…なんだ? とても嫌な予感がするんだが。
思えばここまで俺は幸運過ぎたのかもしれんな。いいや、この異世界に来た時点で不幸だったわ。
*しまった! ムドーは呪われてしまった。
*ムドーのステータスが更新されました。
(デケデケデケデケデケデケデケデーッテレン♪)
「このSE止めろッ!? すごく嫌だッ! てかハア!? 呪われただぁ~?」
☞絶望のツルハシ
分類:武器・ツール
ダメージ:2~7※/片手・両手可/打撃・刺突・闇属性※
※貴方はレベル不足と呪われた為、本来の性能を得る事と装備を解除することはできない。
装備レベル18のツルハシ。用途は不明。未知の素材で創られた漆黒のツルハシ。破壊したあらゆるものを無に帰す。神々の意向により売却は不可能。
特殊効果:消滅
▼ムドー
▽レベル2
▽クラス:無し
▽種族:無し
▽武器:絶望のツルハシ(呪)
▽武器:レベル1のブロンズ・ハンドアックス
▽鎧:レベル1のレザー・アーマー-2
▽ヘルスポイント:9/13
▽アーマーバリュー:3/3
▽マインドパワー:4/4
「ンじゃあコリャア!? 装備レベル18ぃ!! …て、凄いのか? でもダメージは全然なさそうだな。けどそれは俺のレベルが足りないからかも。というか何だか他の効果は凄そうだぞ…。無に帰す? このツルハシで掘ったものは消滅するってことか? うう~ん…」
そして、しっかりとアーマーバリューの最大値が下がっている。無念だ。多分、このレザーアーマーは後3回ダメージが貫通してしまうと、完全に破壊されてしまうかもな。
俺は腰に刺してあった手斧を取る。
☞レベル1のブロンズ・ハンドアックス
分類:武器・ツール
ダメージ:1~4/片手/斬撃
装備レベル1の片手斧。主に戦闘ではなく日用品として用いられる。銅製の装備品はレベル1で固定される特徴がある。
特殊効果:特に無し
「流石にこの手斧よりは強いのか? まあ、俺はなるたけ戦闘を避けるスタイルだから気にしなくても良いのか…」
と、俺は呪われたと言っても特に身体に不調な所は無いし、これ以上悩むのは止めた。
何か今後デメリットがあるかもしれないが…今は兎に角、ダンジョンの探索を進めて金目の物を見つけ出したいからな!
それに呪われたんなら、その呪いを解除する方法だってあるはずだろ?
それもあの城の中に入れば解決できるさ。多分、教会に行けば多少の手数料もとい寄付の下、このツルハシと俺を円満に引き離してくれるはずだ。毒とか麻痺も治療できるはず。蘇生とセーブは…あったら感謝に咽び泣く自信あるな。
俺は一旦、手に持つツルハシが結構重いので地面にそっと横たえた。
素材のせいなのか、テニスラケットよりちょっと大きいか小さいくらいのサイズなんだが見た目よりもズッシリしていた。まあ、金属製ならそんなもんか?
部屋を出る前に少しばかり周囲を調べようとしたのだが…。
(…ギュルルルル~!バシッ!)
「おわぁ!? 何事っ?」
なんと地面に置いたはずのツルハシが高速回転しながら俺の背中に張り付いたのだ。
……下手したらツルハシが俺にブッ刺さるのではなかろうな?
「……えぇ~。呪われて装備が外れないって…こういう事? 物理的に…?」
俺は背中から引き剥がして再度手にしたそのツルハシを見て軽く絶望する。
流石は絶望のツルハシ。早速、俺を絶望へと追いやろうとして来やがる…なんだか、コイツとは今後長い付き合いになりそうだな?




