Ⅰ*01 コンビニに行こうとしただけなのに…なんで?
この作品は筆者の集中力還元リハビリとして開始します。恐らくの後に不定期更新になるやもしれませんが、どうかそれまで付き合って頂ければ幸いです<(_ _)>
現在更新は午前零時を予定しております。
他作品の現在更新中の作品の更新再開はまた日を改めてお知らせ致します!
さあ、書くぞ! そしてスプラ3もやるぞ!(狂気w)
※章追加時に冒頭にエピローグ回想のようなものを付けたしましたw
「な…な…何を証拠にふざけたことを!?」
「いやぁ~先ずさあ~…おかしいと思ったんだよなあ。ソレ・・。何で瓶の中に不純物が浮いてんだ? 完全に分解・融解・理解の工程で精製されたはずのポーションがそんな事になるわけないだろぉ~」
とあるダンジョンで疲弊した新人冒険者達相手に悪質なポーションをとんでもない値段で売ろうとしていた悪徳商人が俺に完全看破されたじろぐ。
その後も色々とゴネて誤魔化そうとしたが最後には悪態をつく暇もなく、俺達の隙を見て自身の護衛を置き去りにしてその場から逃げ出していた。
まったく、世の中とんでもない奴がいるもんだ。
って、俺も何でこんな異世界のダンジョンで行商人の真似事みたいなことしてんだよって話だわなぁ。
「ところで、アンタ。何者だ?」
手傷を負った冒険者が未だに俺に警戒の色を見せつつも俺の正体を問う。
「…俺か?」
俺はわざとらしく少し勿体つけながら振り向いて、こう言うんだな。
そうか、ついに答える日が来たというところか…。
「俺は、しがない“ダンジョントレーダー”さ…!」
…さて、何で今、俺がこんな事をしてるのか。ちょいと時を遡ってアンタに話して聞かせるとしようかね。
※
「おい。身分を証明できるものはあるか?」
どうしてこうなった?
「おい? オマエさんだよ。後ろがつかえるだ。頼むから早くライセンスなりビレッジ・ログなりを出してくれないか」
俺の名前は五十嵐夢道。夢へと続く道と書いてムドー、いわゆるキラキラネームの類かは非常に微妙なところで、大の●ラクエファンであったオタクの両親を恨む他ないだろう。
御年二十三歳のどこにでもいる日夜汗を流して日銭を稼ぐ立派なフリーターさ。
顔面偏差値こそフツメンだが、大きな怪我も病気も引いたことが無い。どこに出しても恥ずかしくない健康優良児二十三歳のはず…。
だったんだが?
「……ジモン先輩。さっきからこの人、眼の焦点も合ってないし…ブツブツ言ってるし、怖いんですけど」
「戯け者っ!こんなヤツ相手にビビッて門衛が務まるか! ……俺だって怖いわ。あ、ニミ。ちょっと内壁側からブライン達を呼んどいてくれるか? 急に暴れ出すかもしれんからな」
「…わかりました」
俺は現在独り暮らし。大学卒業後は就活に見事失敗してあえなく就職浪人となった。
家に居づらくなって現在のバイト先の近くのボロアパートに半年ほど前にお引っ越し。今日もひとり寂しく深夜の水着のお姉さんが意味も無くコンプライアンスのギリギリを攻める番組を寝転んで見ていたのだが、不意にアイスが食べたくなった俺はアパートの向かいにあるコンビニへ行こうと小銭入れを持ってサンダルを突っ掛けて玄関のドアを開いた。
が。
目の前に飛び込んできた光景はくすんだ白塗りの壁だった。正確には奥の建物群を覆っている城壁か? とてもデカイ。余裕で十メートルくらいはあるんじゃないかな?
少なくとも俺が居たはずのボロアパート(二階建て)よりもずっと高い。
オマケに外は何故か明るい、たぶん真っ昼間。
それに見渡す限り見た事のない風景に人種。少なくとも日本人は俺だけ。だと思う。
……いつから俺ン家のドアがあの有名過ぎる未来の便利道具の代表格になったんだ? 否、違うか。ネコ型ロボットの品だったら俺はコンビニへとちゃんと辿り着いているはずだしな。
そして言わずもがな、振り返ってもマイホームの姿は微塵も無いわけでして。
「おい!なにか変なクスリでもキメてるんじゃないだろうな? 身分証…は――…一旦置いといて、なんの目的で此処へ来たんだ?」
「はっ…へ!?」
俺が正気を取り戻せば俺の顔から十五センチくらいの距離までにムサイ髭面のオッサンの顔が迫っていた。
俺は咄嗟に身を引いた。危ねえ~…危うくオッサンにキスされるとこだった。
「…え、えと…コ、ンビ…に?」
「コーン・ビ…何?」
オッサンはまるでそういう玩具のように首を四十五度傾ける。
…そうだ、そうだよ!ほんの少しだが冷静になってきたぞ。
俺がドアを開けて外に出たら…ほんの一瞬、立ち眩みのような感じががして…。気付けばこの門?の前に続いている不揃いの石畳の路の真ん中に俺は居たんだよ。俺が現状の変化に追いつけなくて呆けていたら…。
『おい兄ちゃん!なにボーっと立ち止まってんだ? 俺は早く街に入りてーんだよ…って、アレ? 俺の前に並んでたのはアンタだったかい? …まあでも横入りなんて真似したら門衛が注意してるはずだし、俺の勘違いだろうな。兎に角まあいい!次はアンタの番だ!さっさと済ませてくれよ。ったくコッチは仕事がおしてるってーのによう…』
そう言う俺の後ろに並んでいた頭巾帽子の男に背中を押されてしまい、三メートルくらいの高さの門に設営されている検問所みたいな場所に突き飛ばされてしまったのだ。
「おいおい…俺はもうここで二十年近くこの仕事に就いてるが、その…なんだ、コーン・ビ? なんちゃらなんて名は聞いた試しが無いぞ? どこの要塞だ。それとも辺境の村落か何かなのか?」
「え。じゃあ…あのここはどこですか? が、外国…?」
俺のしどろもどろの受け答えにその門衛は眉間に皺をよせて大きな息を吐きながら首を軽く振ってみせる。
「外国って…オマエさん、気は確かかい? 此処はガタヤ王国の城塞都市がドイルーだぞ!? 知らん方がおかしいだろう。まさか…確かにこの辺じゃあ見掛けない顔をしてるし、オマエさんがあの黒い海を越えた世界の果てから遥々このドイルーまで来た大昔の渡来人だとしてもだ? 此処はガタヤの地だ。当然、ガタヤの法に従って貰うぞ」
ガタヤ? 世田谷じゃあ、ないよな…となると外国なのは間違いなさそーだが、ヨーロッパ?
いや俺って地理とか苦手なんだよなあ~。
……とそんな軽い現実逃避ではどうにもならない事はとうに俺も解っていたさ。
この門衛って名乗る人…五本のツノのある変な兜を被って革鎧に槍。
…見渡せば他の面子も腰に剣を佩いてたり似たような恰好だ。どうにも中世…いやもっと俗に言うファンタジー世界のような様相だ。文明度がこの地域だけ低いとかそんなレベルじゃない。もしこの場が世界規模のコスプレ会場か遊園地だとしてもガチ過ぎる。
…………。
…コレはもうアレだ。
理不尽なまでに前振りの無い、唐突に訪れるタイプの異世界転移だ!?
ラノベの神様の馬鹿野郎っ!!
こういうのはさぁ、最低限の説明とチート能力のひとつやふたつ寄越してからやれよう…っ!
ここは…正直に助けを求めてみる、か?
「…実は助けて欲しいんだ」
「助け? 末端だが俺も一応はこの城の兵士だ。助けてやるのはやぶさかじゃあない。だが、俺は悲しいがつまらん門衛。オマエさんの後に続く連中をこの後も捌いていかにゃあならん。これも城下の平和を守る為だ。助けが欲しいならこの街のギルドにでも行くんだな。言っとくが、このドイルーのギルドは良心的だ。少なくともオノボリだからって取って食われることはないぞ? もしくは神に助けを求めるのなら教会だな。今のオマエさんの姿を見れば流石にお堅い天空神も情けを掛けて下さるだろうよ。…で、話を戻すが。身分を証明できるものは持っているか? …あ~もう聞かんぞ、コレ以上はな。コレが最後だから、なッ!」
身分証明?
駄目だ。スマホや免許証は部屋に置いてきてしまった。
小銭入れの中には千円札が二枚と小銭が少々。というか普通に言葉が通じて良かった…いや、全然良くない!早くお家に帰りたい。
むしろ、もう今日はアイス我慢するから、唐突に元の世界に返してくれ。出来れば都心で。
「……無い、です」
「そうか。まあよくもこうも引っ張ってくれたが、俺も薄々そう思ってたぞ。それじゃ、残念ながら身元を証明できるものがない奴からは…黄金二つを入市税として払って貰う決まりだ」
「…黄金? ゴールド的なヤツのこと?」
「ったく…。ここまでふざけておいて見苦しいヤツだな。このドイルーはガタヤ王の御膝下!その城下のギルドの身分証明を持った者は入市税免除。それ以外の他領他国のギルドでも鈍銀で三十だぞ? 隣の領のがめついとこじゃあ平気で黄金で払わせてるとこだってある! おっと…今聞いた話は忘れてくれ。で、オマエさんは黄金で二つだ。こればかりは高いと文句を言われても困るぞ? 身分証の有無で門前払いさられる他所よりマシだろう? それと本当ならこの後、身分証を持たない者はそれなりの身体検査や質問応答を受けて貰うのだが、今回は特別に手短に済ませてやる。見たとこ、オマエさんは護身の武器どころか鎧さえ着ておらんみたいだしな。本来であれば危険な野外に出て行ける恰好じゃあない。見てるコッチが心配になるぞ?」
「に…にぶぎん?」
流石に俺の煮え切らない態度に業を煮やしたのか、門衛が槍を傍らに立てかけて俺に向って物凄い勢いで近づいて来た。
や、やられる!?
「ちょ、手持ちはあるんだけど…足りるかな? と、思ったり?」
「なんだ。さっさと払うがいい!手間取らせるな…ってなんだコレは?」
俺が慌ててポケットから小銭入れを取り出してチャックを開けたのだが、門衛のゴツイ手にそれを奪われる。だが、門衛は小銭入れの中身を掌の上に放り出した途端に表情が固まる。
「お、お金…?」
「……まさかコレが黄金だとでも抜かすのか?」
門衛は小銭の中から五円玉を取り出してかざす。
だが、次第にその顔の額には青筋が奔り、にわかに手が震えている。
「この戯け者めがぁ!!」
「うわあ!?」
俺はその剣幕に思わずその場から吹き飛ぶ。
一瞬だがその門衛の赤く染まった顔が倍に膨らんだように見えたんだが。
「光と秩序を定めし天空神により賜った地上通貨をこのようなヘンテコな穴開きコインや羊皮紙? いや、パピルスか…ええい!偽物を通貨と騙るとは何たる不届き者だッ!このような代物はガタヤの兵士として没収する!」
「ええっ!? 返してくれよ!俺の全財産なんだぞ!」
「ならんならんっ!ガキの悪戯でも許されん重罪だぞ!? 本来ならば貴様なぞ牢にぶち込むところであるが、そも得体の知れん貴様などをこのガタヤの守り人たるジモンの眼の黒い内に我らがドイルーに入れて堪るかっ!さっさと失せろ!!」
槍を片手に振り回し、キレた門衛から俺は尻を蹴り飛ばされ、泣く泣くその場から追われて逃げることになった。
こうして俺は理不尽にも見知らぬ場所…恐らく異世界とやらに飛ばされた上に、こうして訳もわからず一文無しになってしまった。トホホ…。
※※閑話※※
「あ。ジモン先輩~!」
「…む、遅いぞニミルーユン。内壁側から助っ人を呼んでくるのにどんだけ掛かるんだ。新人かお前は?」
「…すいませんっした(ムスッとした顔で)」
「ところでジモン先輩。ニミちゃんから聞きましたけど…その変な奴ってのは?」
「ああ、アイツなら……通って良し!」
「へい。ありがとうごぜいやす」
頭巾帽子の男がどこか居心地悪そうに若い門衛達の横を通って城下の人混みに消えていく。
「アイツならもう追い返したぞ。…フン!とんだ冷やかしだったな!」
「アララ…じゃあ俺達はもう用済みですかね?」
「ていうか先輩。規則ではそういう冷やかしでもドイルーに対しての危険分子は、一応取り押さえて拘留すべきなのでは?」
ジモンは年季の入った浅黒い顔に疲労を滲ませながら次の行商の荷物を受け取り検問に取り掛かった。
「……俺の勘だが、あのトッポイのは他所の領から物見遊山で来たボンボンだな」
「何故ですか?」
クリクリとした未だ幼さが残る眼を見開く女性門衛。別に彼女があざと可愛いのを狙ってやってるわけではない。
「フンッ。仕方の無いヤツだ。先ず、奴の恰好を思い出して見ろ? やたら上等な服を着ていただろ。あの汚れの無いシャツに良く解らん素材で出来た高そうなズボン。それにひとりでここまで来た風なのに服や足元には汚れは一切無かった。恐らく馬車で此処まで来たんだろ。酔狂なことに恐らくだが近くの林に馬や連れを隠して、な」
「はあ~…」
まだ新人の気の抜けない門衛である彼女、ニミルーユンが感心したような顔をしたので先輩風を吹かせて気分の良いジモンは検めていた荷物をポンと行商に返して「行って良いぞ」と言って顎でしゃくる。
「しかもだな。身分証を持ってないし、こんなモンで入市税を支払おうとしやがったら取り上げてやった」
「…? 何ですコレ?」
ジモンは懐にしまっていた件の男から没収した小銭入れをニミルーユンの手元に放り投げた。
「大方、買い物すら自分でしたことないんじゃないか? 黄金だ? 鈍銀だ? って首を傾げてやがったしな。ハハハ」
「はえ~、そりゃあ本物の貴族様みたいっスねえ」
「……ん? ちょっと待った、ニミちゃん。ちょっと俺にも見せてくれないかな」
「お前ら、サボってないでもう内壁側に戻って仕事しろよ?」
暴動が起きた際に備えて呼んだ内壁側監視のジモンの後輩門衛であるブラインがニミルーユンが手にしたいわゆる我々の世界に馴染み深い日本銀行券たる紙幣…千円札や貨幣である五円玉を手に取ってジィっと眺める。
他の門衛や行商の男も次第になんだなんだと群がり、にわかに騒がしくなってくる。
「……やべえ」
「は? 単なる子供の玩具だろ…」
「ヤバイですよジモン先輩ッ!? こ、これ…玩具なんて代物じゃないですよ!? “遺物”ですッ!!」
「「遺物ぅ!?」」
一瞬でその場が静まり返る。
「……遺物ってアレか? あの高難度ダンジョンとかの下層で極稀に見つかるっていう、ダンジョンの歪みを通して外の世界から埋もれたとかっていう噂の?」
「あ~…先輩、根っからの門衛一本で、冒険者とかダンジョンとかに一切興味無いですもんねえ~。でも…多分コレ全部、遺物ですよ? 詳しい事はギルドで鑑定してみなけりゃですけど、恐らくこの穴の開いたコインひとつでその入市税…悠に千回以上は払えますよ」
「「…………」」
ブラインの言葉に誰かがゴクリと唾を呑み込んだ。
つまり、その妙なコイン1枚が黄金で二千以上の価値。ドイルーで大きな屋敷が買えてしまうかもしれない代物の可能性があるやもしれないのだ。
「そ、それじゃあブライン先輩。あの男の人ってば……本当の貴族の方なんですかね?」
「それもとびっきりの、な。下手したらガタヤの王族と肩を並べるやんごとなき方だったのかも…」
「……おい」
ジモンの低い声で次の番の入市の検問待ちの女冒険者がビクリと震える。
「オマエさん…なら見てるだろ、ふたり分前に居た男が検問から引き払っていくところ。…どこに行ったかわかるか?」
「あ~…あの子ね。可哀想に。門衛さんがあんなに怒鳴ったから、泣きながら街道を引き返してオフュ…林道の方へと歩いてったけど?」
「「あちゃあああああぁ~」」
「……ジモン先輩。終了のお知らせ…へぶっ!」
調子に乗ったニミルーユンが羅刹となったジモンからチョップを受けて涙目になる。
「ちなみに、その御仁にそこな門衛殿は“得体の知れん貴様などをこのガタヤの守り人たるジモンの眼の黒い内に我らがドイルーに入れて堪るかっ!さっさと失せろ!!”と怒鳴りつけたばかりか義憤から御仁に蹴りを入れておいででしたぞ? では、私はこれにて」
検問を終えていた幸運な行商は言いたいことだけ言うとさっさと城下へと去ってしまった。
「うわぁ~…(小声で)」
「しかも、自ら名乗っちゃったよ? 詰んだな」
「ガタヤの守り人って先輩…ププッ…」
「…………」
数秒の沈黙が過ぎ去った。
だが、ジモンが次の言葉を発した時。
彼の表情は何故か悟りきったように穏やかだった。
「ちょっと腹が痛くなった。ブライン、代わり頼むわ」
「「え?」」
サッと男が去って行った方向とは真逆の城下の方へと向けてジモンは足早に去って行く。
去り際にクルリと振り向きニミルーユン達にキラリと爽やかに笑い掛ける。
「もし、物騒な連中がやって来て“おい、ジモンという男は何処に居る?”と聞かれても、“そんな名前の人は居ません”と断っておいてくれ。 あ、ちなみに俺は城から許可が下る前に反対側の門から暫く外出するが、そこんとこもよろしくやってくれ!じゃあなッ!」
そして、ジモンは風のような速さで城下を駆け抜けていく。
「あ゛ッ!?」
「コラ~!! オッサン逃げるなぁ!?」
その日、城塞都市ドイルーの東門で数十人態勢の物々しい雰囲気の門衛と城の兵士達が戦々恐々と件の男が帰って来るのを待っていたが、終日姿を見せることは無かった。
結局、その後も引き続き数日ほど態勢を維持したが…その男が戻ってくることはなかったという。
誤字・脱字が多いですが、ブクマと評価をして下さるとモチベが上がりますので何卒よろしくお願い申し上げる次第です<(_ _)>