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02.超大吉

 ≪超大吉≫


 信頼できる仲間と異世界へ旅立て

 初めは心配ごと多いけれど努力すれば幸福が来ます

 信神怠りなく常に神は勿論巫女と共にあるようにしましょう


 願望――絶好調の運勢 叶わなくていいことまで叶う


 待ち人――すぐ目の前にいる


 旅行――異世界に家族旅行するのがよい


 転居――異世界にある森や草原が広がり小川が流れる場所にある小さな村なんて素敵


 恋愛――いつも隣にいる幼馴染が最良 たとえ相手が同性だとしても迷わず選べ


 仕事――パートナーと共に勇者になるとよい 二人はもはや運命共同体です


 出産――男なんてみんな獣 獣にあなたの体はもったいない

 あなたが望めば獣はあなたに指一本触れることはできません


 失せ物――異世界から戻ったとき見つかるでしょう


 お金――懐を狙われるくらい収入アップ


 病事――病気も怪我もすぐ治ります そもそも大人しくしてれば怪我もしません


 勝負事――諦めなければ最後は勝つ


 スキル――いろいろなスキルを使えるようになるでしょう


 魔法――神に頼めば得られるでしょう


 いつもありがとう。これからもずっとおみくじを引いてね。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ミコ姉……このふざけたおみくじはいったい何?」


 私は震える手でおみくじから社務所の中にいる巫女さんへと視線を移す。


 ミコ姉こと御子柴(みこしば)海理(みこと)――高校二年の17歳。


 名字もミコなら名前もミコ。


 更に家業が代々の神社で、家の手伝いがてら巫女もやってる筋金入りのミコ。


 幼馴染――田舎だからこの辺りで育った同年代は、みんな幼馴染みたいなもんだけど。


 でも私にとってやっぱりミコ姉は特別だ。


 私より一つ年齢が上のミコ姉とは生まれた時からずっと一緒。


 小中学校は村にある分校に一緒に通い、ミコ姉が中学を卒業した一年だけ別々だったけど、今年の春からは再び同じ高校に通っている。


 そういう私は西島(にしじま)祭理(まつり)――ミコ姉と同じ高校に通う高校一年の16歳。


 この辺りは花見野村(かみのむら)といって、50世帯にも満たない小さな農村だ。


 我が家を含め殆んどの家は、農業で生計を立てて暮らしている。


 おかげで一軒一軒の家がとても離れて点在している。


 どれだけ凄いかというとミコ姉のうちの神社を中心として半径1キロ圏内にある住居は、ミコ姉の家と私の家だけだ。


 花見野神社は標高500メートル程の山の麓にあり、ミコ姉の家は神社の敷地内にある。


 だからミコ姉が自宅に辿り着くには100段近い石段を上がるか、若しくは車一台がギリギリ通れる程の九十九折になってる脇道を10分近く歩く必要があった。


 もちろん私達は(もっぱ)ら石段を使うんだけど、家に帰るのに毎回昔のドラマでやってたような特訓シーンを再現するってのはどうなのだろうか。


 外出する度に石段を使うって、罰ゲーム以外のなにものでもないから。


 因みに私の家は神社へと続く石段の出発地点のすぐ近く――つまり山の平野部にある。


 うん、石段を上がらなくても家に帰れるって幸せ。


 とはいえ、私も日に2回は神社に顔を出すから、結局毎日石段にはお世話になってるけどね。


 そして今日もいつものように家に帰ると着替えもせず、おやつ代わりに炊飯器に残ってるご飯でおにぎりを握り、美味しくいただいてから神社にやってきた。


 ミコ姉におやつにおにぎりはあり得ないと言われるんだけど、そこは農家の娘ですから。


 育ち盛りだしね……といっても育つのはミコ姉ばかりで私はちっとも育ってない。


 なんで私の半分も食べないミコ姉が、あんなに身長も胸も大きいのかが謎なんだよね。


 ミコ姉は胸も大きく長身……モデルみたいだとよく言われる。


 対する私はというと……150センチのAカップで文句あるかぁ!


 どんだけおにぎり食べても、あと1年であんな風にならないことは私にだって分かる。


 境内に入ると、ミコ姉は既に巫女装束に着替えて社務所に待機していた。


 いつ見てもロングの黒髪美人が巫女装束着てるのは反則だ。


 ミコ姉がYouTuberとか始めたら、絶対儲かると思うんだけどな。


「マツリ、久しぶりにおみくじ引いてみない――」


「いや。財布持って来てないし」


「仕方ないわね。ツケでいいわよ」


「おかしいよね。おみくじでツケって絶対おかしいってば」


「つべこべ言ってないでさっさと引きなさい」


 そう言ってミコ姉はニコリと口角を上げる。


 これは逆らうと尾を引くやつだ……口調は優しいけど目は全然笑ってない。


 仕方なくツケ払いとやらでおみくじを買おうとして思い出す。


「あぁ、そういえば昼間ミルクティー買おうとしたら売り切れで、それを確か……」


 セーラー服のポケットを探ると、100円玉がでてくる。


「その100円玉を渡せばツケは勘弁してあげるわ」


「もぉー! 遂に私のお小遣いまで巻き上げなきゃならない程、この神社も落ちぶれたか。しょうがないなぁ……じゃあ一番で!」


 100円玉を渡すとミコ姉は一番の引き出しからおみくじを取り出し、私に手渡す。


 ここの神社のおみくじは番号を指定すると、社務所内に設置された棚からその番号の引き出しに入ってるおみくじを、巫女さんが渡してくれるという方式だ。


 手渡されたおみくじを早速開いて内容を確認する。


 悪い内容だったら社務所の脇にあるおみくじ掛けに結ばないといけないからね。


 そして私の目に飛び込んできたおみくじの中身こそ、最初にあった≪超大吉≫だった。


 私も長年この神社のおみくじを引いてきたけど≪超大吉≫は初めてだ。


「ミコ姉……このふざけたおみくじはいったい何?」


「あらっ、スゴイじゃない超大吉なんて滅多に出るモノじゃないわよ」


 そりゃそうだ……こんなご利益あるのかないのかわからないモノが年中でてたまるか。


「うわっ、白々しい。これってミコ姉が自分で作って仕込んでおいたやつだよね」


「仕込んだなんて人聞きが悪いわね。マツリのために心を込めて一生懸命作ったというのに」


 どうりで久しぶりにおみくじを引けなんて言い出した訳だ。


 あくまで白を切るミコ姉に私は右手を差し出す。


「100円返して」


「おみくじを引いておいて中身が気に入らないから金返せだなんて……そんな子に育てた覚えないわ」


「私もミコ姉に育てられた覚えはないよ。それにこれおみくじでもなんでもないじゃん。ミコ姉が作ったお手製なんちゃっておみくじだよね」


「何言ってるの。ここ1年、うちのおみくじは全部私の手作りよ。つまりマツリが今手にしてるおみくじも正真正銘、うちの神社が発行したおみくじよ」


 知らなかった……まさかおみくじまでお手製になってたとは。神社の経営大丈夫だろうか?


 でも美人女子高生の手作りおみくじって、そっちの方が人気出るんじゃないかな?


「それにしても流石にこの内容はないよう」


「最近、異世界もののラノベにハマってるのよね。という訳でおみくじにも最近のブームを取り入れてみたんだけどダメかしら」


「なぜおみくじにミコ姉のブームを取り入れようと思ったの?」


 それにしても渾身の親父ギャグはするっとスルーか……ミコ姉もまだまだだな。


 お爺ちゃんが生きてたら間髪入れずにツッコミ入れてきたのに。


「そんなに喜んでもらえると作った甲斐があったわ」


 ミコ姉は私のどこを見て喜んでると思ったんだろう……。


「そんなマツリには更にサプライズ! じゃじゃーん! おめでとう! そのおみくじはラストワン賞よ。マツリにはうちの神社の御神体をプレゼントするわ。大切にしてね」


 そう言ってミコ姉は社務所から出てくると、どっからどう見てもアニメの萌えキャラにしか見えないフィギュアを私に手渡してきた。


 そう……その見紛うことない萌えキャラフィギュアは正真正銘、花見野神社が(まつ)る御神体だった。


「おみくじにラストワン賞って……。しかも神社の大事な御神体をプレゼントは流石にサプライズ過ぎだよ。さっきから畳み掛けで何をふざけたこと言ってるの?」


「だってラストワン賞といえばフィギュアでしょ。マツリ、ちっちゃい頃その御神体カワイイって欲しがってたじゃない」


 確かにこの御神体はカワイイ。よくできてると思う。


 小学校の低学年くらいまでカワイイから頂戴とミコパパに強請(ねだ)ってたのも覚えてる。


 花見野神社の御神体は世間一般のものとは異なり、どう見たって精巧に作られた四分の一スケールの美少女女神のフィギュアにしか見えない。


 メルカリとかに出品したら、かなりいい値段で売れるんじゃないかな。


 と言っても他の神社の御神体を見たことあるわけじゃないから、実は伊勢とか出雲あたりの有名神社の本殿が、フィギュア展になってる可能性も否定はできないけど。


「それともお婆ちゃんの形見の日本人形にする? 夜中に目が合うと怖いし、知らない間に髪が伸びたりするからあまりお勧めはしないけど」


「それは勘弁して……ってそうじゃない。そもそも御神体をラストワン賞にしないで。大体おみくじでラストワン賞ってなに? ここは社務所だよ。いつからコンビニになったの」


「いろいろやっていかないと神社も厳しいのよ……って、うちはもう手遅れだけど」


「そもそもラストワン賞は最後のくじ引いた人に渡すものでしょ。これ最後じゃ……」


 言ってる途中でいい加減気が付いた……どうもいつものミコ姉と様子が違う。


 流石に悪ふざけが過ぎる……。


 そういえば帰りのバスの中でもやけに口数が少なかった。


 てっきり期末テストの勉強でお疲れなのかと気にしてなかったけど。


 いやどちらかと言ったら、私がテストに撃沈して落ち込んでたんだった。


「ミコ姉……何かあった?」


 どうもテスト疲れではないようだ。


 でも……だったらどうしたのだろうか? ミコ姉の顔を見てると嫌な予感がする。


「うちの神社……隣の村にある五十咲(いそさき)神社に合併されることに決まったって」


 ミコ姉は俯いてそう私に告げた。


「なっ!……」


「だからマツリが引いたそのおみくじが私が作った最後のおみくじ。正真正銘ラストワン賞よ」


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