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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
I 全ては王命のままに
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07 フェリル様、登場

「あの二人はいつもあぁなのですか?」



 騒がしさを感じたアルフレッドは、妖精たちからラナたちの方へと視線を移した。

 ホワイトタイガーに寄りかかろうとするラナを、逆に反対方向へと押し返そうとするホワイトタイガーの攻防が繰り広げられている。



「ラナ、いつもそう」

「テオ、ラナのお世話がかり」

「仲良し」

「テオとラナ仲良し」



 妖精たちが口にした『テオ』というのは、ホワイトタイガーのことだろうと察する。

 二人が言うように、テオがラナの世話をしているというのも、何となく理解ができた。



「彼らはいつから一緒にいるのですか?」


「テオ、ラナと一緒」

「ずっと一緒。テオ、ラナの救世主」



 唸り声がした。

 ラナを起こすことに成功したテオが、アルフレッドを睨んでいる。アルフレッドたちの会話が聞こえていたようだ。



「怒られた」

「テオに怒られた」



 妖精たちを睨むように一瞥した後、テオは視線を逸らした。

 救世主の件についてはもう少し詳しく聞きたいと思うアルフレッドだったが、ここは大人しく引き下がるしかないことを悟り、口を閉じる。


 風が頬に触れる。

 風に乗って、何やら音が鼓膜を振動させたような気がした。風の音だろうかと風上に目を向けると、赤いものがアルフレッドたちの方へと向かってきていた。

 突撃せん! とばかりに、ものすごい勢いで向かってくる。



「ちょっと、ちょっとぉぉおおお! あなたね! 不法侵入してきた騎士ってのは!!」



 甲高い声が響き渡る。木々に覆われているため開けてはいないが、だだっ広い森の中で声が反響する。

 風に乗って現れたのは、妖精だった。茶色い髪はふわりとカールがかかっていて、長い髪をツーサイドアップに結んでいる。結び目には、先にいた二人の妖精たちと同じく花をつけていた。瞳と同じ真紅のお召し物を纏っている。最初に認識した赤はそれだったようだ。



「このフェリル様の許可なく森に入ってくるなんて、失礼極まりないわね。リネットとエリーも怯えて……って、何馴染んでるのよー!」


「フェリル遅い」

「騎士様いい人。お話、楽しい」


「だから何で馴染んでるのよ! ここでのことは、あたしを通してもらわないと!」


 新しくやってきた妖精——フェリルはご立腹だった。その原因が自分にあることを理解したアルフレッドは、リネットたちにしたように片膝をついた。

 反対側の手を胸元へと持っていく。



「無断でお邪魔してしまい、申し訳ございません……フェリル様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「……悪くないわ」



 グッと堪えるような顔をしたフェリルが、プイッと顔を逸らした。

 心なしか、耳が赤いような気がする。



「フェリル、ちょろい」

「フェリルはただ真っ直ぐないい子なの」


「ちょっと、ひとを単純バカみたいに言わないでよね!」



 リネットとエリーにおちょくられたことにめくじらを立てながらも、アルフレッドの『様』呼びに満更でもない様子で、口元を緩ませていた。



「それで、あなた、お名前は?」


「はい、私はアルフレッド・デラクールと申します」


「アルフレッド……アルね。そう呼ばせてもらうわ」


「アル」

「アル」



 便乗するようにリネットとエリーもアルフレッドを愛称で呼んだ。

 アルフレッドは気分を害した様子もなく、むしろ妖精たちにそう呼んでもらえることを喜んでいるようだった。



「アルは何しにここへ?」


「ラナ・セルラノを王都に迎えるべく、迎えにやって参りました」


「ラナを? それで、まだここにいるってことは……断られたってわけね?」


「お恥ずかしながら……彼女から承諾が得られるまで、森への滞在を認めていただけないでしょうか? フェリル様」



『フェリル様』という響きにご満悦のフェリルは、表情が緩んでいることに気づいていない。その顔で、断るようなことがあっても無理がある。返事は聞かなくてもわかったも同然だった。

 ちょろいです、フェリル様——



 すっかりご機嫌になったフェリルは、傍らで顔を顰めていたテオは敢えて見ないフリをし、ラナにだけ視線を向けた。



「ザックのところに行くんでしょ? しょうがないから、あたしも一緒に行ってあげる」



 鼻を鳴らして高々に言い放つ。嫌味が含まれるような言い方なのに、それを感じないことをアルフレッドは不思議に思う。



「フェリル、おやつ食べたい」

「ザックのおうちでおやつもらえる。フェリル、ザックのおやつが食べたいだけ」


「違うわよ!」



 先ほどまでの気位の高さが一瞬で崩壊する。

 憎めない妖精だ。本当に、真っ直ぐでいい子なのだろうな、とアルフレッドは思った。



「アルも同行させてあげるわ」



 これにはさすがにテオが唸った。

 フェリルは怯むことなく、むしろテオを睨みつける。



「テオの意見は聞いていないわ。あたしが同行させるって言ってるんだから、同行させるのよ」



 なんとも唯我独尊な物言いだった。

 テオもあからさまにため息をつく。好きにしろ、とでも言いたげだった。



「さ、アル。行くわよ」


「私もご一緒してよろしいのでしょうか?」


「だから、あたしがいいって言ってるのよ。あなたに拒否権はなくってよ?」


「ごめんね、アル」

「わがままフェリルに付き合ってあげて」


「ちょっと、そこ! 聞こえてるわよ!」



 完全に遊ばれているのはフェリルの方で、その立ち位置が見えるとより一層彼女を憎く思えないアルフレッドだった。

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