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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
I 全ては王命のままに
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04 申し出へのお返事は……

 ホワイトタイガーの目が光った。鋭い眼光がアルフレッドを射抜き、威圧感がさらに増す。

 前足に力が入り、今すぐにでも飛びかからんと大地を踏みしめる。

 唸り声をあげていた口が開き、牙を覗かせていた。肉を容易に引き裂くことのできる牙だ。あの牙を向けられたら、丸腰ではないとはいえ、無傷では済まないだろう。

 急に怒り出した理由がわからず、アルフレッドは戸惑いと緊張感を背負っていた。


 一触即発の空気を壊したのは、ラナだ。ホワイトタイガーを止めたのではない。空気を壊したのだ。

 アルフレッドは一瞬、何が起きたのか理解できずにいた。

 ホワイトタイガーの背後にいたはずのラナが目の前の彼を止めようとしたのか、立ち上がったかと思うと、次の瞬間にはその姿を消していた。

 危ない、と手を伸ばす暇もなく、ラナは盛大に転んでいた。足を踏み出した途端に足を滑らせたようだ。

 鈍い音を立て、ラナはホワイトタイガーの胴体に顔を着地させる。柔らかいクッションのおかげで、おそらく痛みは軽減されているだろう。

 もともと予定していた方法とは違っていたかもしれないが、ラナの目的は達成された。ホワイトタイガーの殺気は消え、衝撃を受けた方に顔を向ける。

 ホワイトタイガーはあからさまにため息をついた。それはアルフレッドも聞き取ることができた。



「テオ、ごめんなさい」



 ラナはホワイトタイガーの頭に手を置くと、そのままゆっくりと触れた。宥めようとしているのかもしれない。けれど、ホワイトタイガーは威圧感こそなくなったものの、不服そうな表情を浮かべていた。


 ホワイトタイガーが唸り、ラナが相槌をうつ。

 何かを話しているのだろうが、アルフレッドにはわからない。

 ラナはホワイトタイガーの頭の上に置いていた手を離し、体勢を整えると、アルフレッドの方を向いた。



「『排除とはどういう意味だ』と言っています」



 急に向けられた自分への言葉に、アルフレッドはすぐには反応できなかった。

 先ほどのドジっ子を気にする素振りはラナにはなく、やはり射抜くように真っ直ぐ見つめてくる蒼い瞳に我に返ると、アルフレッドは一つ咳払いをした。



「語弊がありましたね。失礼しました。国王陛下はあなたを保護したいと考えています。あなたのその能力は確かに脅威になり得る。それはあなた自身にも及ぶ可能性があります。あなたの噂が他国にまで広がれば、それを利用しようと思う人間も出てくるでしょう。命を狙われる可能性だってある。国王陛下は、()()であるあなたを守りたいとお考えです」



 全てを話したわけではないが、嘘が含まれていないことで、流暢に口から言葉が出ていた。

 いつもは眉間にシワを寄せ、騎士団の者からも遠巻きにされているような男だが、この時ばかりは表情を崩し、穏やかな雰囲気を演出するように努めていた。穏やかな雰囲気を出せているかどうかは、アルフレッドの知るところではないが。



「お心遣いありがとうございます。でも、わたしは王都へは行きません。保護していただく必要もありません」


「なぜです? ここでの暮らしよりも、もっと豊かな生活を送ることができるのです。安全な場所で過ごせるのですよ? あなたが望めば、あなたの()()()をそばに置くことだってできる」



 陛下が許可を出せばの話だが、と思いつつも、それについては声には出さずにいた。

 陛下が許可を出す可能性は極めて低い。脅威だと思っている人間の、しかも危害を加える道具だと思っているものたちを王都に招き入れるわけがない。彼女に、好意的なものたちなら尚更だ。

 けれど、可能性がゼロではないなら、嘘をついたことにはならないだろう。これは、保身のための言い訳だ。


 ラナは静かに首を振った。


「わたしは、今の暮らしを変えるつもりはありません。ここでの暮らしが好きなのです。テオがいて、森のみんなもいて、身に余るほど豊かな暮らしをいただいています。これ以上望むことはありません。もし、わたしの友人たちを利用しようという人たちが現れたとしても、その人たちに従うことはありません。だって、テオたちはわたしの大切な友人であって、利用するためのものではないですから。誰にも加担しないと約束します」



 真っ直ぐに言葉が向けられる。射抜くような瞳も変わらない。

 口調はこれまでと変わらず、ゆったりとしたものだった。けれど、ラナから感じたのは穏やかな拒絶だ。言葉の裏側に、関わるな、という真意が隠れているように思えた。

 ホワイトタイガーのように明らかな敵意は感じられないし、遺恨のような感情も表面上は見られない。何より、少女は終始無表情のまま、眉ひとつ動かさず、怒っているのか、悲しんでいるのか、そのどんな表情も読み取ることはできなかった。

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