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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
V 災厄
42/56

41 まだ大丈夫なんじゃなかったの!?

 地下を出て移動している間、騎士たちはラナを囲むように位置していた。まるで逃げ出さないように見張られているかのようだ。

 空気も重苦しい。それは彼らが作り出しているものなのか、曇天のせいでそう感じるのかは判断がつかない。


 しばらく歩いて、何度か外の通路にも出た。

 目的地も伝えられないままに進んでいるラナは、どこまで続いているのかわからない広大な土地に途方に暮れていた。


 それなりに距離は歩いたはずなのに、誰一人すれ違うことはなかった。整備されている道を進んでいるので、歩いている場所がおかしいというわけではない。騎士たちが人気のない場所を選んで進んでいるのだが、ラナがそんなことに気づくわけもなかった。


 ふと、ラナの耳に声が流れ込む。苦しそうに唸っているような声だった。辺りを見回すが、やはり人の姿はない。

 キョロキョロと顔を動かしていたので、ラナの前を歩いていた騎士が止まっていることに気づかず、ラナは顔面から騎士の背中にぶつかる。


「下がってください」


 ぶつかられた騎士は、その衝撃に動じることなく腕を前に出し、ラナを前に出さないよう動きを制した。が、少々止めるのが遅かった。ラナの目にはしっかりと()()姿()が映っていた。


「え……」


 ラナは息を呑む。

 目を疑った。ゆっくりとした思考も、その存在を否定する。

 しかし、いくら目を瞬いても、その姿は消えない。むしろ鮮明に、色濃くかたちを映し出す。


 はっきりとした意識で現実を直視した直後、ラナは自分自身を責めた。

 ——状況はもっと悪い方へ向かっているかもしれないよ——

 ルイが言っていた言葉が今になってやっと脳内へと着地する。ここに来てはいけなかったんだ、と心に後悔を落とす。

 どんどんと近づいてくる圧倒的な存在に、後悔では足りないほどの感情がラナの中に生じていた。いや、それは新しく生まれたというよりも、ずっと昔から存在していたのだ。それが今になって、はっきりと顔を出したというだけで——


 段々、鮮明になっていくうめき声のような音が、まるで自分の声のように、俯くラナの耳元にこびりついていた。





 ***





「ちょっと、ちょっと!」


 二番隊の騎士の移動魔法で王都についた矢先、テオたちの目にとんでもないものが飛び込んできた。驚きのあまり、フェリルもテオの肩を離れ、少し高いところで目を見開いている。


「まだ大丈夫なんじゃなかったの!? というか、あなたが懸念していたことはこれだったわけ?!」


「いや……」


「よりにもよって……」


 テオの言葉を遮るフェリルの声をかき消すように轟音が響いた。

 音を乗せるように突風も駆け抜ける。飛ばされそうになるフェリルをテオが掴み、引き寄せて風除けになる。


「早くラナを見つけないと……!」


 テオの手のひらの中に小さく収まるフェリルが、目も開けられない状況で必死に言葉を紡ぐ。

 もちろんテオもそのつもりだった。王都まで案内してくれた騎士が、そのままラナのところまで連れて行ってくれるものだとたかを括っていた。が、どうやらそこまで思い通りにはいかないらしい。


 風が止み、落ち着いたところで、テオは騎士たちにラナの居場所を訊ねようとした。

 口を開こうとした矢先、先ほどのフェリルではないが、阻むように足音が近づいてくる。


「こんなところにいたのか! すぐに持ち場へ!」


 案内をしてくれた騎士と同じ黒い軍服を着た騎士がやってきたかと思うと、簡単に言葉を発して、速やかにこの場を去った。

 命令を受けた騎士たちは、「緊急事態により、この場を離れます」とテオたちを置き去りに、持ち場とやらに向かおうとする。


「ちょっと! あたしたちはどうすればいいのよ!」


「我らの任は、あなた方を王城へとお連れすること。それ以外の命令は聞いておりませんので」


 それだけ言うと、今度は振り返りもせず、どんどんと背中が遠くなっていった。

「言われたことしかできないのかー!」と叫んでいたフェリルの声は聞こえなかっただろう。

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