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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
V 災厄
41/56

40 真っ先に

 暗闇がもたらされたのは、ほんの一瞬の出来事だった。

 あまりに突然の出来事に、アルフレッドは自分の視覚が失われたことをまず疑った。が、微かにではあるが見えないことはない。少し時間が経過して目が暗闇に順応すると、さらに見えるものが増えたため、辺り一面が暗くなったのだと理解する。

 部屋に明かりはつけていなかった。明かりに頼らずとも問題のない時間帯だった。


 アルフレッドは明かりをつけないまま窓へと近づき、外に視線を投げる。

 空には厚く、重苦しいほどの黒い雲が覆っていた。一瞬で湧いたように思えることから、風に流されたのではなく、この場で生成されたかのようだった。そんなことはありえないことだとわかっていながらも、そうとしか考えられない状況にアルフレッドは頭を捻る。


 外の様子に気を向けていると、騒々しいほどの雑音が耳をついた。

 刹那、耳を覆いたくなるほどの轟音が地を揺らす。窓ガラスが割れてしまいそうなほど、壁にも衝撃が走る。アルフレッドはかろうじてその場にとどまった。


「な、なんだ……?」


 地鳴りは長くは続かなかったが、何とも形容し難い音は今も鳴り続けていた。声、と言った方が正しいのかもしれない。

 さらに目を凝らして外を見つめる。近くだけでなく、遠くにも意識を向けた。

 その目に映ったものを、アルフレッドはにわかには信じられなかった。目を瞬かせて、もう一度窓の外に向ける。が、やはり気のせいではない。


「なぜ……」


 こんなところに竜が? と続く言葉は声にはできなかった。

 視覚で確認できたとはいえ、受け入れられるかどうかは別の話だ。こちらに向かって飛んできているように見えることもまた、アルフレッドが現状を理解できない要因の一つだった。

 何が起きているのか、何が起きようとしているのかはわからないが、アルフレッドの脳内に一番に浮かんだのはラナのことだった。


 アルフレッドは慌てたように扉を開け、部屋を出た。

 扉を開けた際に廊下に人がいたようだが、気にする余裕はない。扉を閉めたかどうかも定かではなく、自室に背を向け、城の中を駆ける。


 ラナの居場所はルイから聞いていた。詳しく聞いたわけではないが、素振りと『あの部屋』という言葉から、思い当たる場所は一つしかなかった。

 一目散にその部屋まで走る。途中、階段に足を取られそうになるが、持ち前の運動神経で乗り切った。


 ラナがいるであろう地下へと続く入り口には誰もいなかった。

 不思議に思いながらも、アルフレッドは迷いなく階段を下っていく。明かりを持ってこなかったことを後悔したが、今はそれどころではない。外から漏れ入る明かりだけを頼りに、何とか一番下まで階段を駆け下りた。


「ラナ!」


 暗闇に声が反響する。

 聞こえるのはアルフレッドの声だけで、返事はない。もう一度声をかけるが、やはり何も返ってこなかった。人の気配もほとんどない。


 ふと、触れた鉄格子が動いた。そのまま内側へと入っていくそれに、扉が開いているのだと気付いたのは、鉄格子が止まってからだった。


「……開いている? ラナはここにはいないのか?」


 アルフレッドはその場で頭を働かせる。

 ここにいないというのは、もともといなかったとも考えられる。が、たとえ何も教えてくれないとはいえ、ルイが嘘をつくとも思えなかった。

 となれば、ラナがここにいたことは確かだ。

 では、なぜいないのか?


 一旦そこで思考を止めた。

 今すぐに走り出し、ラナを探しに行きたい気持ちをグッと堪える。

 アルフレッドは一つ呼吸を落とすと、下りてきたばかりの階段を駆け上がり、とある場所へと足を向けた。

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