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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
Ⅳ 思惑
37/56

36 理由と存在

 ルイがいなくなった後、暗闇には再び静寂が訪れた。

 暗闇に慣れていた目も、一時的に明かりに触れていたため、順応するまでに少し時間がかかる。

 ラナは鉄格子の近くから離れ、もといた壁の方へと身を寄せた。

 静かになった空間に、ガサガサと物音が聞こえる。鮮明に聞こえる音の方へと、ラナはぼんやりと視線を向けた。


『行った?』

『もういない?』

『いない?』


 ルイがやってくる気配を察知するや否や、どこかに身を隠していたネズミたちがラナの前へとその姿を表す。


『あんな身綺麗な人間がここに長くいるの初めて』

『テオルークってひとの話してた』

『テオルークって誰?』

『ラナの友達?』


 またしても好き勝手にネズミたちが話を進める。ラナはなんとか最後の言葉だけを捕まえることができた。が——


「友達……テオはわたしの友達なんでしょうか?」


『知らない』

『ぼくたちに訊かれても』

『わからない』

『友達じゃないの?』

『じゃあ、家族?』


「家族……」


 そう呟いたきり、ラナはしばらくの間、口を開かなかった。






 ***





「ねぇ」


 テオの肩に揺られ、大人しくしていたフェリルが沈黙に耐えかねたように口火を切る。


「城に入る方法もだけど、ラナに会ったらどうするか考えてるの?」


 落としていた目線を戻し、テオは何も言わなかった。

 フェリルはため息まじりに「……それも無計画ってわけね」とこぼす。


「そもそも、ラナを救出しに行こうと思った理由を聞いていなかったわね。アルに取られるのが嫌だから? それとも謝りたいから? 弁解したいから?」


「ちなみにあたしは一言文句を言うためよ!」と聞いていないことを勝手に口にする。

 そんな理由のためだけに、危険があるかもしれない場所へと赴くというのもまたご苦労なことだ。

 テオへの問いもまた、それだけの理由でないことはフェリルもわかっているだろう。それでも敢えて本人に訊くのは、本人の口から直接言わせたいというフェリルの癖のようなものだ。


「村の件もそうだわ。どうして助けようと思ったの?」


「……俺がラナを救おうと思ったのは、自分をラナに重ねていたからだと思う。ラナを救うことで、自分も救えるんじゃないかと思ってね」


 最初の質問には答えず、直前の問いにのみ反応を示したテオは自嘲した。

 フェリルは何故か眉を歪める。


「それって何だか変な考えね。とても変だわ」


 肩に乗ったまま、まるで独り言のように呟く。いつもの自信満々な口調ではなく、こぼすように、考えながら言葉を発しているようだった。


「だって、ラナはあなたじゃないもの」


「そんなことわかってるよ」


「いいえ、わかってないわ。ラナを救ったところで、あなたが救われるわけじゃない。救われたと勘違いできるなら、それは自己満足よ。だって、あなたはラナじゃない。ラナに似てもいない。境遇が似てるとでも思ってたのかしら? それは、あなたがそう思いたかっただけよ。実際は全然違う。違ってて当たり前だわ。だって個が違うんだから。その勘違いから抜け出さないと、本当に大切なものを見誤るわよ。勘違いとして、その感情を受け入れるのならそれでもいいけれど」


 フェリルはそれだけ言うと黙ってしまった。

 静かになったかと思うと、フェリルはザックから持たされたおやつを頬張っていた。いいことを言っていた風だっただけに、何だか格好がつかない。


「フェリルは優しいのかそうじゃないのかわからないな」


「あたしはいつだって中立の立場よ。言うべきことは言うけれど、誰にも肩入れしないわ」


 大きな口を開いて、パクリとおやつにかぶりつく。

 そんな姿を見て、テオはふと思い当たることがあった。


「いや、フェリルは多分ザックの味方はすると思う」


「え……? あぁ、そうね。だってそうでしょ?」


 フェリルは残っていたおやつを一口で平らげると、不敵な笑みを浮かべた。


「美味しいものは裏切らないもの」

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