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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
Ⅳ 思惑
35/56

34 聞きたいことはこの機会に

 すっかりこの場の空気に慣れてしまったルイは、のんびりとした面持ちでラナを観察していた。

 脅威になるかどうか、というよりは単に『ラナ』という人間を見極めようとしているようだった。

 ここに下りてくるまでは、少なからず持ち合わせていた恐怖も、そんなものを持っていたことすら忘れているようだ。他の者がいたら止められるだろう——もしくは注意を受けるだろう——地べたに座っていることすら、ルイは気にしてないどころか、その新鮮さに寒さすらも感じていない。


「ところでさ、一つ聞いてもいい?」


 先ほどまでとは打って変わって、ルイは軽い口調で沈黙を溶かした。

 ラナは首を傾げて答える。


「その服、男物みたいだけど誰の? まさかテオルーク殿のものってことはないと思うけど……」


 二つの視線がラナが身につけているものに移る。

 ラナの服装はここにやってきたときのままだった。防寒のために何かが与えられることもなく、まして着る物が配給されるわけもない。

 ラナが元々着ていたものだということはすぐに判断がついたが、だからこそ見るからに男物を着ていることを不思議に思っていたのだった。


「これは、お世話になっているザックさんのせがれ? さんのお下がりです」


「せがれ……あぁ、そういうことね。随分と箱入りにしているみたいなのに、よく許したね」


「?」


「君はその辺どう思ってるの? あんまり文句とか言わなさそうだけど、ケンカとかしたことは……なさそうだね」


「ケンカというのは、仲が悪い人たちがするものじゃないのですか?」


 キョトンとするラナに、つられたようにルイも目を丸くする。

 人との関わりが少ないとは聞いていたし、想定はしていたが、ルイの周りにはいないタイプだ。ラナと会話していると、ところどころ面食らう場面がある。


「それもあるけど、仲がいいからこそできるケンカもあるんだよ。君の場合は言いたいこととかも言ってなさそうだよね。次会ったら、思ってることぶちまけちゃいなよ」


 ここにきて一番の軽口を叩いたところで、再びラナは黙り込んでしまった。

 次に会った時に言いたいことでも考えているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


 これ以上話しているとラナを傷つけ続けるような気がした。そろそろ時間的にも潮時だと言い訳まじりにそばに置いてあったろうそくを手に取る。

「そろそろお暇するよ」などとあえて軽い口調そのままに腰を上げた。


「こんな場所で申し訳ないけど、しばらくは……せめてローブか何かを持って来させよう」


「大丈夫です。さほど寒くはないですし、それにどんなに暖かいものでもテオには代わりませんから」


 声はだんだん小さくなっていき、最後の方はルイには届かなかった。

 普通の人間であれば、短時間ここにいただけで身震いしてしまうほど。ラナが痩せ我慢をしていることはわかったが、無理強いをするものでもない。本当に必要にかられれば、何とかするだろう。

 これで用はなくなり、このまま帰るかと思われたが、ルイは何かを思い出したように振り返った。


「さっきはちょっと意地悪言ったけど、テオルークは早々に任務を放棄していると聞いている」


「え……?」


「彼からの連絡は全く入っていなかったようだ。それが何を意味するのかは本人に直接聞いてくれ。……あぁ、そうだ。もし君を助けに来た者がいた場合はどうする? 君が助けを求めたわけではなく、彼らが自らの意思でやってくることもあるだろう。その時は、手助けした方がいいかな?」


「え……それは……えーと、来ないと思います」


「どうして? 助けに来ないような不義理な方々だと?」


「いえ……そういうことではないのです。助けに、というのがそもそも適切ではありませんし、森を出る前に伝えています。何より……うん、来ないと思います」


「じゃあ、もしもの話でいいよ。もし来たとしたら、僕は手を貸した方がいいかな?」


 ラナは首を振った。それ以上何も言わなかった。

 待っていたところで答えは変わりそうにもなかったので、ルイは再び踵を返す。が、すぐにまた何かを思い出したように「あぁ、そうだ」と足を止めた。


「無事にことが収まったら、ぜひアルとも話してあげてよ」


「アル……?」


「あれは見た目によらず相当な気にしいでね。君が今ここにいることもかなり悔いているようだから……まぁ、無理にとは言わないけど」


 ルイはラナの返答を待たずに階段を上がって行った。

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