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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
Ⅳ 思惑
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28 あの人物との関係

「ねぇ、テオ」


 ザックと別れ、森を出てしばらくしたところで、フェリルが口を開いた。

 森の近くに家はおろか集落などはなく、ただ、道が広がっているだけ。その何もない道を歩いているところにかけられた声に、道中の話し相手にでもなってくれるのだろうかと考える。ただ、フェリルの声には不服そうな色が含まれていたので、単なる世間話ではないのだろうとも思っていた。



「どうした?」


「まさかとは思うけど、このまま歩いて行くわけじゃないわよね?」


「そうだけど?」



 何か不都合でも? と言わんばかりにしれっと返すテオに、フェリルはぽかんと口を開けていた。



「正気? ここから王都までどれだけかかると思ってるの?」


「とは言っても、他に手段はないし。フェリルも移動魔法とか使えないだろ?」


「移動魔法は使えます! ただ、あなたを連れて知らない場所まで行けないだけです」


 口を膨らませるフェリルを見下ろしつつ、テオは足を止めずに進む。

 フェリルの魔法の限界は承知していた。だからこそ、歩いて行くしか手段がないのだった。

 にもかかわらず、フェリルは納得がいかないらしく、不服そうにテオを睨みつける。



「そんな悠長なことしてていいのかしら。アルだけじゃなく、ラナを連れてったあの人間が、ラナに何をするかわかったもんじゃないっていうのに……」


「あー、それなら……というか、それこそあんまり急ぐ必要はないと思う」


「どうしてそんなことが言い切れるの? そもそも、あのローブの男は何者? 知り合いみたいだったけど、あなたとはどんな関係なのかしら?」


「あいつは……」


 テオは言い淀んだ。口にするのも憚られるのか、表情さえも苦しそうに眉根を寄せ、唇を噛んでいる。

 下からはフェリルの鋭い眼差しが、テオを射抜く。テオが困っていようが、聞き出すまで許さないと主張しているようだった。



「あいつは、俺の父親だ」


「あら、案外普通ね」


 意を決して口にしたことに対する呆気らかんとした返答に、緊張感が崩れる。

 フェリルに対して、緊張していた自分がバカだったとでも言うように、テオは盛大にため息をついた。


「一体どんな答えを望んでたんだよ」


「そうね……実はあのローブの男が白虎で、悪い魔法使いに姿を入れ替えられていたとか?」


「それ面白いのか?」


「あなたの答えよりはよっぽどね」



 テオはよくわからないとでもいうように首を傾げていた。

 確かにあのローブの男の正体がテオの父親だと言うことは、特に何の面白みもない。だが、実の父親にホワイトタイガーに変えられていたということ自体にツッコミどころがあると思うのだが、フェリルはその辺に関しては全く触れようとはしなかった。興味がないのだろう。

 父と言ってもいいのだろうかと、多少の躊躇いはあった。向こうはもうすでに、テオのことを息子とは思っていないだろう。おそらく、ホワイトタイガーに変えた時点で、テオは存在しなくなったも同然だった。



「でも、せっかく姿を戻してもらったときに身につけていた布があったのに、わざわざこのあたしに服を出せと言ってきた理由はわかったわ」


 髪を指にくるくると巻きつけながら、大仕事をした後のようにため息をつく。

 そこまで大したことをしてもらった覚えもないのだが、いつものことなのでテオは眉を下げるだけに留めておいた。

 元の姿に戻された際に、確かに身を覆うような布切れは存在した。が、それがあの人間からもたらされたものだということに、テオは不満を隠しきれず、ましてその程度では心許ないということもあり、旅立つ前にフェリルに一通りの装備を出してもらっていた。



 あの時、テオを人間の姿に変えたのは、単にテオに対する嫌がらせだろう。ラナの前で正体を明かすことで、ラナに対しても裏切りを示したかったのかもしれない。どちらも大成功だったわけだ。



「どうしたの、テオ? 邪悪な顔してるわよ」


「生まれつきでしてね」


「あら、それは失礼したわ」


「いやいや……否定してくださいよ」


「あいにく、その姿はまだ見慣れなくてね。初めましてすぎて、生まれつきかどうとかわからないのよ」



 大真面目なフェリルの言葉に、テオはどこまで相手をすべきか悩み出した。

 とはいえ、考えるのも面倒なので話を戻す。



「てなわけで、おおよそあいつの考えてることはわかるんだよ。おそらくだけど、そんな速攻でラナに危害を加えるようなことはないと思う。それに、近道も知ってるから、思っているより時間かからないと思うぞ」


「いざとなったら、あたしだけでもラナのところに向かうとするわ」



 フェリルは鼻を鳴らした。

 いざとならないことをひっそりと願いつつ、何もない道をテオは真っ直ぐに進み続けた。


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