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花は白と黒に囚われる  作者: 小鳥遊 蒼
III 本当の姿
21/56

20 怖い夢を見たあとは

 



 ————————————————

 ————————




「テオ、わかっているね?」


「お前は出来損ないなのだから、せめてこのくらいは役に立ってくれよ?」


「難しいことはない。簡単なことさ。出来損ないのお前にだってできる仕事だ。しっかりやってくれよ」


 拒否権などはなかった。

 あるはずもなかった。


 あの姿で見た最後の光景は、皮肉なほどに煌々と輝く光だった。





 ————————

 ————————————————






「……テオ?」


 音に反応するように、ピクリと耳が動く。

 うなされるように表情を歪ませるテオを、ラナが心配そうに覗き込んでいた。

 辺りはまだ、うっすらと暗い。


「テオ? ……テオ?」


『……ラ、ナ……? どうしたんだ?』


 ぼんやりとした視界が徐々にはっきりしてくる。真っ先に映り込んだのは、眉を下げたラナの顔だった。


「どうした、はこっちのセリフです。どうしたんですか? すごくうなされてましたけど……怖い夢でも見ましたか?」


『ん……あぁ、ラナがフェリルのおやつ食べちまって、そしたらフェリルが怒って飛んで来るんだ。ラナは俺を盾にして……っていう夢を見た。フェリルも怖いが、盾にするラナ怖かったなぁ』


「何ですか、それ。わたし、そんなことしませんよ」


 膨れるラナに、テオは笑って返した。

 ラナはそれ以上何も言わなかった。

 リネットとエリーがやってきていないので、起床にはまだ随分と早そうだが、ラナは寝ようとしない。


『どうした? 寝ないのか? まだ太陽も出てないぞ?』


「テオが眠ったら寝ます」


『何だそりゃ』


 ラナは背中をテオにくっつけるように小さく丸まるように座っていた。

 ほんの少し震えている身体に尻尾を持っていくと、「温かい」と呟いていた。


 ふと、ラナは自分に気を遣っているのだろうかと思い至る。

 先ほどのとってつけたような作り話では、やはり納得しなかったか、と。

 ラナはいつもはのほほんと何も考えていないように見えるが、その実、変なところで鋭いから、なかなか抜け目がない。

 ラナの睡眠のためにも、テオはもう一度眠りに落ちることにした。目を閉じる。が、先ほどの夢が影響しているのか、暗闇に同じ映像が映し出された。とても鮮明に。


 声がする。


 最後まで隠すつもりか?——

 隠し切れると思っているのか?——

 偽りのくせに——

 騙しているくせに——


 勢いよく目を開ける。

 衝撃を受けたかのように、開いた目には何も映らなかった。

 段々と視力が戻ってくると、デジャブかのように、最初に映ったのはラナの顔だった。やはり心配しているかのように眉が下がっている。


「テオ? 本当に大丈夫ですか?」


『あぁ……』


 テオはため息をついた。

 自分への呆れだったのかもしれないし、落ち着かせる意図があったのかもしれない。


『ラナ』


 呟くように、声をかける。


「何ですか?」


『もし俺が、ラナに嘘をついてたらどうする?』


「テオは嘘をついているのですか?」


『もしもの話だよ』


 一体何を言っているのだろうかと、テオは自嘲した。

 ラナは、眠るまでの時間潰しのためのもしも話程度にしか思っていないように、それでも小首を傾げてテオからの問いを考えているようだった。


「テオがもしわたしに嘘をついているのだとしたら、それは嘘をつかなければいけなかったんだと思います。テオは不必要なことはしないと思うので、必要に迫られたんだと思います。だから……あれ、何の話でしたっけ?」


 テオは片方の肩を落とした。

 いいことを言っているように見えたのに、いまいち決まらない。

 それがラナらしいといえば、ラナらしいのだが。


『どうするか、って話。軽蔑する?』


「軽蔑? しないです。どうするか、と言われれば、どうもしないというのが答えになるのかもしれません」


 ラナを裏切るようなことでも? その言葉は、声にはできなかった。


『変なこと聞いてごめん。何でもない。ありがとな、ラナ』


「? 変なテオ。相当、夢が怖かったのですね」


 ラナは宥めるようにテオの頭を撫でた。

 小さな手がゆっくりと触れる。


『ラナに子ども扱いされるなんてな……俺もまだまだだな』


 そう言いながらも、満更でもなさそうに、ラナの手に心地よさを感じていた。

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