12 留守番なので不貞腐れています
テオは木陰で丸くなっていた。
イライラがおさまらず、いっそ眠ってしまおうと目を閉じてみるが、暗闇の中にあの二人の姿が浮かび、払拭するように目を開ける。が、そこにはラナの姿はなく、虚しさと苛立ちが心を占める。
ずっとそれを繰り返していた。
「テオ、気になる」
「ラナのこと気になるなら、ついていけばよかったのに」
『ラナが来るなって言ったんだよ』
不満をぶつけるように、声が荒くなる。妖精たちにあたるのはお門違いだと理解はしているものの、止められない。
口に出してみると、ラナとのやりとりが思い出され、怒りが再燃する。
ラナは今、騎士と二人で出かけている。出かけていると言っても、森の外には出ているというわけではない。テオがいない隙を狙って、ラナを連れ去ることはできないだろう。ここは妖精たちの魔力でもって守られている。無理に連れ出せば、すぐにわかるし、何よりラナは外には出られない。
そもそも、魔力で追われている森に、騎士が侵入できたこと自体、不思議に思うところだが。
「大丈夫だよ」
「大丈夫、二人じゃないから」
気を使ったのか、リネットとエリーが声をかける。
テオには二人の言葉の意味がわからなかった。
『どういう意味だ?』
「ついていった」
「言うこと聞かない。話聞いてない。どこまでも自由人」
ひどい言われようだが、おかげでおおよそのことは察した。これでわかってしまうのも、どうかとは思うが。
普段は困ったこともある行動だが、今回ばかりは拍手を送りたい気持ちになった。盛大に邪魔をしてほしい。うまくいけば、スタンディングオベーションだ。
落ち着いて考えてみると、焦る必要もないような気がしていた。
思いつきか何か知らないが、ラナを相手に結婚を申し込んだことを後悔することは目に見えていた。一筋縄ではいかないからだ。
ラナの気持ちが必要でないのなら、それはまた別だが、騎士は確かに言っていた。「嫁いでもいいと思ってくれるなら」と。
ラナはその感情を知らない。実の親にすら愛を与えられなかったのだ。親からの愛情は無条件で得られるものではなく、そのスタートラインにすら立てなかったラナは、その感情に触れることなく成長してしまった。
今さら、好意を向けられたからといって、わからない感情をぶつけられることに戸惑うだけだ。
ラナにしてみれば、そんな感情は幻だ。ないものと同じだ。
いくら騎士が頑張ったところで、ラナがなびくはずがない。それが、自分の願望だということに、テオは気づいていない。
せいぜい苦労することだな、とテオは悪い顔をしていた。
風が吹く。草木を揺らし、風上の香りを運ぶ。
ふと、もし違う出会い方をしていたら——なんてことを考える。
もし出会い方が違っていたら、本当の自分で出会えていたら、望むような未来が待っていたのだろうか。
そんなことを考えて、テオは自嘲する。
もし、違う出会い方をしていたら、今のような関係もないのに——