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戦地送迎の屍

漆黒の車体が、同じ色をしたレールの上を削るように荒々しく進む。灰で煤けた色の空が近づく度に、戦いの圧は強くなる。暗く黒く、死を誘うように。

だが、そんなことは見たことがあるからわかるのだ。

車窓から見える景色には、いまだ変わらず桜が舞っている。

どんな環境にも左右されないその花びらは、薄ピンクの体でもって、だがひらひらと何に逆らうこともなく落ちていくだけなのに。なぜだろう、どこか力強さを感じさせるようで。

もしかしたらこの花びらは、戦場に赴く新兵たちへの、せめてもの手向けなのかもしれない。


案の定と言うべきか、新兵たちの話題はその花びらでもちきりだった。

仲間うちでキャッキャと騒ぐ者も居れば、ひとりその光景に目を見張り、感動のあまり一言も発さず釘付けになってる者も。終いには、どこから持ってきたのか分からないような古式のカメラで写真を撮り合うなんてことをする者も居た。

……荷物は確認したはずで、カメラは許可された物品の中には無いのだが。

流し目で荷物担当の士官を見やると、てへぺろと軽く舌を出し、軽い謝罪とともに故意であったことを認める。私が処罰を下すことは無いと知りながら。いや、知ってこそ。


地獄を知らない新兵たちは、その無邪気さでもって地獄に向かうレールを様々に彩る。

それを止める権利は、この場では最高の指揮権を持つ私にも無い。ああいや、軍規に従うのであれば、あくまでも軍は高貴なるもの。己の身を国に捧げ、その捧げた身体で国を守ることこそが栄光だとする、忠犬たる者たちの集いだ。

こんな行い……勝手に感傷に浸る程度ならまだしも、馬鹿騒ぎをするなんてことは論外だ。

だが、彼らはまだ地獄を知らない。そして知ったときには、大半が手遅れになる。

ならばせめてその時までは、生を満喫させてやろう。


彼らはまだ、齢14,5の少年少女なのだから。


「おい見ろよ!!あれじゃねえか!?俺たちの宿舎!」


鮮やかな色をばら撒きながら賑やかに走る車内で一人がそう声を上げると、みんなは一斉にそちらの方を向く。実際の宿舎は停車場からでも3キロと少しあるのだが、彼らの目にはすでに見えてるのだという。


「おおー!」「すげぇー!」「思ったより綺麗ですね」「風呂大きいかな!風呂!」


各々がこみ上げてくるワクワクに耐えられず、思ったまま口についた言葉を放り投げる。

その様子はまるで初等部の郊外遠足。一応ハコとして機能する列車の中は、それはもう大変だった。音が壁に弾かれて、反響して。別の音とぶつかって混ざったり。


いい加減静かにさせますか?


荷物担当の士官が、声を出しても聞こえまいと口パクで問うてくる。私の方針のその全容を知っている彼女がそう言うくらいなのだから、よっぽどだということがわかるだろう。

だが俺は、軽く目をつぶって首を横に振る。


こうやって騒げる場所を、彼らは持っていなかったのだから。それこそ、この場所に来るまで。いや、この列車に乗るまで。そしてこれが、彼らにとって最初で最後の大騒ぎになるのだから。


「基本的にはここを拠点に活動することになる。食料やその他支援物資は空輸でーー」


私の任は彼らをここまで送り、ここでの生き方……いや、逝き方を教えること。いくら下らないこととはいえ、これはこなさなければならない。

そんなことはさておき、私は彼らからすれば上司にあたるのだが。


「それより、早く戦場に案内してくれよ〜!」


「お兄さんは何年そうやってるの?バカなの?」


「あ、あれ、多分たんぽぽ……」


話はろくに聞かないわ、別のことで騒ぎ出すわ、気づけば3割が居なくなるわで敬意の欠片も感じられない。……まあ、気持ちはわからないでもないけど。

なんにせよ、俺の仕事はここまで。

あとはこの近くにある専用の施設で次の出勤を待つ。基本的には2ヶ月に1回くらいだろうか。

彼らのような子供を死地のすぐ近くまで案内して、死地に落ちて死ぬところを眺める仕事。

……このくらいが俺には丁度いいんだ。少なくとも、今はまだ。



第7期栄誉志願隊名簿


ユージ15歳男 第7期栄志隊戦隊長


アスカ=マルフ14歳女 栄志隊福戦隊長


テオ=マルフ14歳男 アスカの双子の弟


ラルド16歳男 最年長で家事がなんでもできる


ミナファ14歳女 料理だけは誰にも負けない


サクヤ15歳男 夜行性


シャマナ15歳女 猿のような身のこなし


エルヒ14歳女 銃の腕がすごい


ヴォグ13歳男 最年少


セイラ13歳女 最年少


チャド15歳男 判断力はユージに次いで高い


フォーダ14歳女 念で人をつなげる

無理な開発で能力を開花させたうちの一人


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