8(完結)
ということは、あたしはレジスタンス組織の捕虜になったってことか。ふん。「ムサシ」からはとうとう脱走出来ずじまいだったが、舐めるなよ。こんなところすぐ脱走してやるからな。
「『トウカ』。良かった。また会えたね」
「『セッカ』がいるということは、あたしは気絶している間にレジスタンス組織に捕まったってことか?」
あたしの言葉に「セッカ」は目を伏せて、首を振る。
「ボクも、もうレジスタンス組織にはいられなくなったんだ」
「どういうことだ? まさかあたしが帝国軍に走ったからか?」
「そうじゃない。もう組織は『トウカ』のことどころじゃないんだ」
「あたしのことどころじゃない?」
「ボクは連邦軍が来て、帝国軍が追い出されれば、レジスタンス組織は解散して、昔の日常が帰ってくると思っていた。でも違ったんだ」
「え? そうなのか?」
「うん。組織は解散しなかった。そして、帝国軍がいなくなった後、新しい州政府のポストを巡って、内輪もめが始まったんだ」
「!」
「ボクはそこから距離を置こうとした。でも、組織の他の奴らは幸運の加護を持つボクを放っといてはくれなかった」
「……」
「各派閥はボクを取り込もうと争いを始めた。ボクが手に入らないと判断した派閥はボクの命を狙い始めた」
「!」
「ボクは組織から逃げ出した。おかしいよね。ボクは組織のみんなは優しいと思ってたけど、違った。みんなボクの幸運の加護がほしかっただけなんだ」
「……」
「『トウカ』お願いだよ。ボクと一緒に来てっ! ボクは『トウカ』さえいれば生きていけるんだっ!」
「いっ、いや、あたしは……」
そう言いかけたあたしは懐の中の封書のことを思い出した。「ムサシ」は戦が終わったら、絶対開けろと言っていた。帝国軍がもうこの州にいないということは戦が終わったということだろう。
おもむろに封書を開いたあたしを「セッカ」は怪訝そうに見る。
「『トウカ』。何なのそれ?」
「ごめん。ちょっとこれだけ読ませてほしいんだ」
◇◇◇
それは手紙だった。あたしを帝国軍の戦闘員にする証書ではなかった。戦の前のあたしなら激怒したかもしれないが、今はそんな気もしなかった。
「『トウカ』へ。おまえがこの手紙を読む頃には、あたしはもうこの世にいないだろう。そして、そそくさと撤退した『トスイ』たちを薄情だと思わないでくれ。帝国軍戦闘員は命令に逆らえない。あいつらも断腸の思いなんだ。
何だ。これは? これを戦の前に書いたのか。まるで死ぬことが分かっていたような。
「今回の作戦は特攻作戦だ。初めから勝ち目なんかなかった。ただ、帝国軍は勝ち目がなくても、ただで州を一つ引き渡すようなことはしないと言いたいだけの作戦だ」
うっ、うーん。
「で、特攻作戦やるからには一人は死者が出ないとやったということにならない。それが今回のあたしの役割だ。明るい銀鼠色の装甲服はその象徴さ。おっと、勘違いするなよ。これを着用できるというのは名誉なことなんだ。少なくともあたしは誇りに思っているんだぞ」
まっ、待てっ! おまえはそれでいいかもしれないが、残されたこっちの身にもなってみろ。おまえに死なれて、どれだけ悔しいか、分かってんのかっ!
「そして、おまえを帝国軍の戦闘員にする話だが、あれはナシだ。おまえと過ごしたあの日々。あれが帝国軍の普通と思わないでくれ。帝国軍は斜陽で陰惨だ。『トスイ』たちにも生きて終戦を迎えてほしいが多分無理だろう」
あたしの手紙を掴む手に力が入る。
「あたしがおまえに望むことは一つだ。生き延びてくれ。生きて戦争の終わった世界を見届けてくれ。あたしたちの分までな」
あたしの手紙を掴む手にどんどん力が入って行く。
「最後に、おまえと過ごした日々は凄い楽しかったぜ。落日の帝国軍にあって、あんな楽しい思いができるとは思わなかった。ありがとう。そして、あばよ。あたしが一番愛した女」
ビリリリーっ
ついに力余って、手紙は真っ二つに破れた。それと共に大声が出た。
「ちくしょーっ!」
◇◇◇
「セッカ」はびくりとしたが、あたしの叫び声は収まらなかった。
「何だってんだよっ! この戦争はよっ! 負けてる方はいい奴がどんどん死んで行って、勝ってる方はポストがほしくて殺し合いだぁっ! ふざけんじゃねぇっ!」
そして、止めどもなく涙が溢れてきた。そして、叫んだ。
「『セッカ』。行こうっ! こんな馬鹿な戦争にこれ以上付き合ってられるかっ! 戦争をやってないところへ二人で行こうっ!」
「セッカ」は笑顔で頷いた。
「うん」
◇◇◇
二人でどこに繋がっているかさっぱり分からない道を歩いている時に「セッカ」はあたしに言った。
「ねえ。『トウカ』。ボクは『トウカ』が一番好きなんだ。『トウカ』はどうなの?」
あたしは少し逡巡した後に答えた。
「ああ、あたしも『セッカ』が……好きだ」
完