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「知らないよ。あたしだって。『ムサシ』さんがこうしろって言うからやったまでだよ」
「そうだっ! 『ムサシ』! 『ムサシ』はどこにいるんだ?」
「『ムサシ』さんなら、今日は『セイソ』と『ハマカ』二人相手に対戦訓練やってるよ」
「言っとくけど、あたしはまだ『ムサシ』に負けたと思ってないからなっ!」
「はいはい。あんたはきっとそう言うだろうって、『ムサシ』さんも言ってたよ」
「なっ……」
「ムサシ」。舐めてんのかっ! このあたしをっ!
「『ムサシ』はどこで訓練やってんだっ? いますぐ挑戦して、今度こそ逃げおおせてやるっ!」
「心配しなくても、すぐそこの運動場にいるよ。それより、あんた、お腹減ってるんじゃないの?」
「……減ってる」
「それじゃまず食べな。食わないで逃げおおせられるほど『ムサシ』さんは甘くないよ」
「……そうする」
何か既に負けているような気もしたが、ここは食うことにした。食わないで逃げおおせられるほど「ムサシ」は甘くないという「トスイ」の言葉は本当だろうから。
◇◇◇
対戦訓練しているという「セイソ」と「ハマカ」、それに「ムサシ」はすぐに見つかった。
と言うか、既に「セイソ」と「ハマカ」はへばり切って、仰向けに寝ている。それに対し「ムサシ」はまだまだ余裕の表情だ。しかし、あたしが気になったのは別のことだった。
「おまえら、何でそんな真っ黒なゴ○ブリみたいな服着てるんだ?」
「ムサシ」が呆れたふうに返す。
「ゴ○ブリって、おまえ、本当に遠慮しないでものを言う奴だな。これは『装甲服』だ」
「装甲服」!? あたしの所属するレジスタンス組織でも既に帝国軍は斜陽、落日を迎えていると言われていた。でも、奴らはまだそのようなものを持っていたのか。少なくともレジスタンス組織にそんなものはないぞ。
しげしげと「装甲服」を眺めるあたしに「ムサシ」は信じがたいことを言い出した。
「おまえも着てみるか?」
さすがに驚いた。
「まっ、待てっ! あたしはこの拠点への潜入者で脱走をしようとしてるんだぞ。そんな人間に着用させてどうするんだ? 『装甲服』って安いもんじゃないんだろう?」
「そりゃあ安くはないけど。兵士の命を守るものだから十分な数を用意するよう、本部にもよく言ってある。それにおまえはこのあたしを振り切って脱走しようってんだろ」
「そうだっ! 『ムサシ』を振り切ってこそが真の脱走だっ!」
「ならなおのこと『装甲服』を着けろ。丸腰の奴に勝っても、こっちは自慢にならん」
何かいろいろ違うような気もするが、好意に甘えることにした。
◇◇◇
「おいっ、『ハマカ』『セイソ』。こいつに『装甲服』着けてやれっ!」
「すみませーん。もう少し休ませてくださーい。体が動きませーん」
「『セイソ』も、もうちょっときゅうけーい」
「全くしようのない奴らだ。おいっ、『トスイ』」
「そう来ると思いましたよ」
「トスイ」は駆け足で「装甲服」を持ってくる。あ、でも……
「何かそれサイズ大きくないか?」
あたしの疑問に「トスイ」は笑って返す。
「まあ着てみな」
着てみたら、「装甲服」が自動的に体にフィットするように変化した。帝国軍の奴ら、こんなものを使ってたのか。
「驚くのはまだ早いぞ」
「ムサシ」はあたしを右手の人差し指であたしを指す。
「これから13ミリ射撃をかける。おまえは避けずに受け止めてみろ」
言うが早いか「ムサシ」はあたしの返答を待たずに射撃する。
驚いた。驚いてばかりだが、また、驚かされた。確かに命中の感触だけはあるがノーダメージだ。よしっ! これならっ!
「よしじゃあ、脱走してみろって、おっ?」
今度はあたしが「ムサシ」が言い終わる前に脱走を仕掛ける。ふん。ささやかなお返しだよ。
もちろん、「ムサシ」は黙ってあたしを脱走させない。ほうら来た。46センチ砲撃の爆風。これで3回目だからさすがに学習したぞ。体が持ち上げられるが
以前より態勢はずっと安定している。気が遠くなるが何とか気は失っていない。これならスムーズな着地も出来そうだ。
ようしっ! 態勢を立て直しって、「ムサシ」の奴、第二撃を撃つ構えでいやがる。ならば着地と同時に……
「雷撃ッ!」
やったっ! 「ムサシ」の第二撃より、あたしの「雷撃」の方が早いっ!
あたしの「雷撃」は「ムサシ」の腹部に刺さった。いかな「ムサシ」といえど、これはノーダメージとはいくまい。
と思っていたら、「ムサシ」の奴、ニヤリと笑うとすぐに砲撃の第二撃を撃ってきやがった。ちいっ、油断した。気を抜いた分、体が持ち上げられる。くっそうっ! 気だけは失ってたまるかっ!
辛うじて着地したあたしを情け容赦なく「ムサシ」の第三撃が襲う。だめだっ! もう、態勢が保てない。尻餅をつく形で落下したあたしに更に第四撃が…… そして、
気がついたら、あたしは「セイソ」と「ハマカ」と一緒に仰向けになって倒れていた。