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全身の痛みで目が覚めた。
やはり、全身を打ったらしい。だが……
素早く確認をする。うん。骨折、筋肉の断裂はない。打ち身だけだ。
体を起こそう。おっ?
ふふふ。足首を縛られ、手首は縛られた上、柱にくくりつけられている。
捕虜ってわけだ。
やはり、あの爆風で体のバランスを失い、墜落して、気絶しているところを捕まったんだな。
それにしても参った。あんな爆風かます奴がいるとは思わなかった。
帝国軍がこの地を守るため最後の戦力を繰り出してきているという噂は本当だったってことだな。
部屋は薄暗く、湿気っぽい。どうやら地下室だ。周りは誰もいない。一緒に潜入した「セッカ」は逃げ延びられたんだろうか。「幸運」の加護を持っている「セッカ」のことだから大丈夫だとは思うけど。
さあて、そろそろ脱出するか。このあたしにかかりゃこんな手枷足枷って、おっ?
なかなか厳重にやってくれてるじゃないか。ふん。まあ仕方ない。そのうち捕虜尋問になるだろうから、その時に隙を見て脱出だな。それまでは体力回復に努めるとしよう。
◇◇◇
不意に部屋が明るくなった。誰か入ってきたな。だが、馬鹿正直に相手をしてやることもない。ここは寝たふりでより一層の体力回復と情報収集だ。
「起きたかい? そいつ」
部屋の外から声がする。聞いた感じ二十代くらいの大人の女か。
「いえ。まだ、気絶しているようですね」
答えているのは部屋に入ってきたらしき少女の声。あたしと同じ十代か。
つんつん
わっ、思わず声が出そうになるのを堪える。なにか細い棒のようなもので、あたしの顔をつついて来た奴がいやがる。
「ねえ。『ハマカ』。何かこいつ、今ちょっと反応したっぽいよ」
「わ、『セイソ』。また、勝手なことして。『ムサシ』さんに怒られるよ。どうします? 『トスイ』さん」
部屋に入ってきたのはこの「ハマカ」「セイソ」という二人の少女のようだ。部屋の外にいる大人が「トスイ」らしい。
「『ムサシ』さんの日課の鍛錬もそろそろ終わりそうだし。そのうち来るだろうから、それを待とう。だけど、『セイソ』。あんまりそいつに、ちょっかい出すなよ。『ムサシ』さん、そいつのこと結構気にしていたからな」
「つまんないけどしょうがないか」
◇◇◇
「ムサシ」はほどなく来た。
「『ムサシ』さん。こいつまだ気絶しているようですが」
「トスイ」の言葉に「ムサシ」はふんと鼻を鳴らすと、ゆっくりとあたしに近づいてきた。
「もうそろそろ狸寝入りはやめたらどうだ?」
くっ、気づかれてたか。どうやらハッタリでもないらしいし、これ以上とぼけて水をぶっかけられることが得策とも思えない。あたしは目を開けた。
ほぼ、声を聞いての予想通りだった。
「ムサシ」は女だてらに筋骨隆々。ひときわ太い右腕があたしを吹き飛ばした爆風の基と言うことか。見たところ三十代。
その脇にいる細身の長身は「トスイ」だろう。見るからに豪放磊落の「ムサシ」の副官だからだろうか。落ち着いた感じで、やはり二十代だろう。
そして、後ろにいる十代半ばらしい少女二人は「セイソ」に「ハマカ」だろう。やんちゃそうな「セイソ」と真面目そうな「ハマカ」。いいコンビかも知れない。
◇◇◇
「おい、『セイソ』。こいつの手枷と足枷外してやれ」
「ムサシ」の言葉にさすがに「セイソ」は驚く。
「えーっ、いいの? 『ムサシ』さん。こいつ結構素早そうだよ。逃げられちゃうよ」
「はっはっはっ、面白いっ! 今までこのあたしから逃げおおせた奴は一人もいない。こいつがその第一号になるってんなら、それも面白い」
言ったなっ! 「ムサシ」。そっちは知らないだろうけど、このあたしは「速さ」の加護もちだぞ。
あたしは「セイソ」が手枷と足枷を外すやいなや動き出した。「ムサシ」は右腕を引き、砲撃の態勢に入る。
「わっわっわっ、やめっ、やめっ、やめっ! 『セイソ』『ハマカ』そいつを捕まえててっ!」
「トスイ」が大慌てであたしと「ムサシ」の間に割って入り、「セイソ」と「ハマカ」はそれぞれあたしの両腕を掴む。あたしは呆然として、立ちすくんだ。
「何考えてるんですかっ? 『ムサシ』さんっ! こんな古くて狭い建物の中で46センチ放ったら、ここにいる全員生き埋めですよっ!」
「あっはっは、そりゃあそうだわ。そいつがあんまり面白そうなので、つい張り切っちゃったわ」
「ムサシ」は大笑いしながら、あたしを指差す。
「だけどおまえ、このままじゃあ収まらないだろう。表に出ろっ! あたしから逃げおおせられたら、そのまま逃がしてやるよ」
隣で「トスイ」が肩をすくめる。
「このままじゃ収まらないのは『ムサシ』さんの方でしょう」
◇◇◇
ともあれ、相手方が逃げるチャンスをくれるというのに逃げない手はない。
外に出るなり、あたしは駆け出す。前回は不意を突かれたが今度はそうはいかない。この速さを見ろ。あたしには「速さ」の加護がって、おっ?
なっ、何だっ、この爆風はっ? 体が持ち上げられそうになるっ、くそっ、うわっ、持ち上げられるっ!
くっ、くそっ、持ち上げられてしまったものは仕方ない。意識と態勢を維持し、爆風が収まった時、スムーズに着地して、そのまま逃走…… だっ、だめだっ! 気が遠くなるっ!
◇◇◇
気がついた時はベッドの上だった。
なっ。さすがに驚いた。何だ、この清潔なベッドと明るい部屋は? 前回とえらい違いじゃないか。手枷足枷もついてないぞっ!
「あら、目が覚めた? 今回は随分よく寝てたねえ」
そんなあたしに声をかけたのは「トスイ」だった。あたしはすぐ疑問を口にした。
「何なんだ、この扱いは? あたしは捕虜だろっ? こんな清潔なベッドに手枷足枷もつけずに寝せとくとはっ!」