第3話 2人の出会い
チャイムが鳴る。全ての授業の終わりの音。
夕暮れまではまだまだ長く、太陽が校舎を照りつける放課後に、僕はいつもと同じように美術室に向かってゆっくりと歩いている。もちろん耳には音楽の無いイヤホン。
窓の外には学校を出て行く生徒達が見える。町に遊びに行くのか、家で勉強か。
それともバイトでもあるのか。
全然興味はないけど、何となく眺める。
急いで自転車をこいでいる女子。かごに入ったかばんが今にも飛び出しそうだ。
楽しそうに話しながら校門の外へと歩いていく3人の男子。
校門のそばにちょっとした人だかりができていて、その中心にはさわやかな笑顔の女子がいた。
ああいう人たちの輪に、僕が笑顔で入ることなんて一生ないだろう……なんて考えている自分にちょっと嫌気。
校庭の方に目をやれば、部活の練習に熱中しているやつらが見える。
炎天下で汗を流しフラフラになりながらもボールを投げたり蹴ったり打ったり……。
何が楽しいんだか。バカなだけなのか。
そんなことを考えボーっと歩いていたら、突然僕の肩に誰かがぶつかってきた。
トラブルはごめんだと、サッと目線を伏せた僕。
でもその男子生徒は電柱にでもぶつかった様に全く気にすることもなく、
そのまま走ってどこかへ行ってしまった。
安心してほっと一息つくが、直後に自分の情けなさに嘆いてしまう。
そんな気持ちをかき消そうと、すこし早足で美術室へと向かう。
途中、ある声を感じた僕は急いで顔と体を壁に向ける。
イヤホンで籠ってはいるけど、意識してしまうとどうしても会話が耳に入ってくる。
これはまじ嫌になる。
でもイヤホンをつけていると相手からは話しかけてこないし、こっちも何を聞いてもひたすら聞こえないふり。
「今日は人物画とかやってみない?」
「えー、モデルどうすんだよー!」
「そうそう、めんどーだし風景画でいいじゃん」
思った通り他の美術部員のやつらだ。
やめとけやめとけ。お前らに人物画なんて無理だよ。
無駄話続けながら、廊下の向こうへと消えていった……。
それを確認した僕は更に急いで目的の場所に移動する。
たぶん気づかれてなかった……はず。
ちらっと見られたような気もするけど……。
まあいい、どうせ向こうも僕に関わろうとはしないし。
美術部員だけじゃない。僕に話しかけてくるやつなんてこの学校にはいない。
それでも僕は、この部屋に入るまでイヤホンを外さない。万が一の保険みたいなもの。
やっと美術室に到着した僕。
窓や扉の小窓はすりガラスになっていて、中に誰かいても気づかない。
それでも僕は、躊躇なく扉を開き中へと入っていく。
誰もいない空っぽの教室は少し埃っぽくて、床や壁にこべりついた絵の具のにおいが鼻につく。
その中でも、扉から一番奥、窓際の角にある汚く雑に積まれた沢山のキャンバスが目立つ場所。ここが僕の本当の居場所で、僕だけの空間。
僕は安心した気持ちでイヤホンを外す。それができる唯一の場所。
もちろん他にも所属部員はいる。だけどいつも外に絵を描きに行くから、僕にとってはいないのと同じだ。
別に部室でも絵はかけるんだけど、僕がここにくるからみんな画材だけもって外に出る。
何となく気まずいんだろう。でも僕にとってはとてもありがたい。
美術の先生もそんな僕を察してか、あまりここに来ることはない。
真横にある棚の上には角ばったり丸かったり、絵の練習用に使う色んな花瓶が置いてある。
僕はその中から適当に良さげなものを取る。
今日はガラスの透明な花瓶にしよう。それを僕専用スペースの傍にある机の上に置く。
窓際につけられた机には日の光があたり、ガラスの花瓶を透き通るように輝かせている。
次に花瓶棚の周りに散らばっているスケッチブックの中から比較的綺麗なものを探す。
でも殆どに花瓶が描かいてあって、白紙のページがなかなか見つからない。
1冊2冊とページをめくり続けても描かれているのは花瓶、花瓶、ただそれだけ。
その後も何枚か花瓶をめくって、やっと何も描かれていない所を見つける。
それを持って僕は窓を正面に、花瓶の置かれた机の椅子に座りデッサンを始める。
まずは輪郭を取る。真っ白なページにゆっくりと丁寧に鉛筆を滑らす。
花瓶は時間がたっても、ずっと花瓶のままだから好きだ。
何も変わらず、そのままの形で描ける。
目の前の本物と見比べながら、ゆっくりゆっくり。その形を画用紙の上に浮かび上がらせる。
花瓶の輪郭を描き終えた頃には、昼の太陽に少し赤みがかかっていた。
何の変哲も無い、自分で見ても上手くも下手でもないその絵をじっと眺める。
ガラスの花瓶。
ただの花瓶。
何か物足りないな…。
そう感じた僕は少し考えた後、あることをひらめく。
棚の上の適当な花瓶を手に持ち、急ぎ足で教室を出ようと扉を開ける。
「うぉっ! びっくりした」
美術部の顧問の先生が扉の前で少しのけぞった体制で立っていた。
たぶん扉を開けようと手をかけたら、先に扉の方が開いたから相当驚いたんだろう。
まあ僕の方もかなり驚いて目を見開き声が漏れそうになったんだけど……。
なんとかうつむいて誤魔化す。……誤魔化せたはず。
「日向か……。驚かせるなよ……。ん〜。そういや夏の美術コンクールの作品出してないの日向だけだぞ。先生のためにも早めに提出しろよな~。あと戸締りもちゃんとしといてくれよ~」
少し早口でそう言い捨てて、先生はどこかへ消えていった。
自分の用を伝えるだけ伝えてさっさと退散……先生も僕と2人っきりで教室にいる勇気はないみたいだ。
美術コンクール……。どうでもいい。
そもそも自分の絵を誰かに見せる気なんてないし。
どうせ自分の仕事を早く片づけたいだけなのに、先生のためとか……大げさだし。
それに誰かのために絵を描くなんてもってのほか。
絶対出さない。別に何も問題ないし。このまま自然消滅するのを待っていればいい。
更には鍵の番まで任せるダメ教師。
なにより自分の行動を中断させられたことにイライラする。
とりあえず気持ちを無理矢理にでも切り替えよう…。
僕はため息と重い足取りで、教室から洗面所へと向かう。
蛇口をひねり、持っていた花瓶の半分くらいに水をいれて、美術室に持ち帰る。
その花瓶に入った水を、デッサンモデルのガラスの花瓶にゆっくりと注ぐ。
溢れないように慎重に。
半分ぐらい入ったところで注ぐのを止めて、まだ水の残った花瓶を元の棚に戻す。
ガラスの瓶の水面は凪の様に、窓の向こうの校庭やその隣のプールを映し出していた。
僕は目を細めて、その夕日に彩られた風景を眺める。
皆帰宅したのか人影は無い学校内と、遠くまで人一人見えない田舎町。
水彩画のような美しさだった。
まさに僕だけの世界だ。理想の世界。
僕は、そんな世界を描いてみたい。
風景画……。今なら描けるかも知れない。
スケッチブックと鉛筆を床に置き、壁に立てかけられた古いイーゼルを窓際に設置する。
そして乱雑の山からキャンパスを引っ張りだし、イーゼルに立てる。
床に散らばった筆と絵の具を拾い上げ、
全ての色を画用紙に埋もれていたパレットに絞り出す。
棚に置いていた水入りの瓶を足下に移動させ、その中に筆を乱暴に突っ込み、水で湿らせる。
水彩画なんてほとんど描いたことがない。見様見真似だ。
朱色を筆に乗せ、白いキャンバスのうえに色を走らせる。
夕暮れの色。
キャンバスの真ん中、横にひとつ。
……なんで。
キャンパスの真ん中、楯にひとつ。
違う……。
もう一度、今度は目一杯たくさん朱色を筆に乗せ、キャンバスの上に塗り重ねる。
白はどんどんと夕暮れ色に塗られていく。
次第に筆は乾燥していき、色はかさかさに途切れていく。
それでも色を重ね続ける。
体全部を使って、無心に、塗り重ねて行く。
気づくと、ぼろぼろの筆を息を切らせて握っている僕がいた。
目の前には……ただ朱色に塗られたキャンバス。
足りない……。
色がまだ……。
僕は筆に緑色を乗せた。
山々の色。塗り重ねる。
でも、自然あふれる山を表現するには緑が濃すぎた。
暗く、じめっとした山が出来上がる。
……違うんだ、まだ足りないんだ。
今度は青色を筆に乗せる
町の色だ……。
これさえ、これさえ足せば……僕が見ている世界が描ける。
僕はキャンバスに青色を塗り広げた。
ただそれは、とても町とは呼べない色だった。
暗い青がただそこにあるだけ。
そしてキャンパスを見渡す。
空と、山と、町が重なったそこには、真っ黒の空間ができていた。
……汚い。
感想はただ一言で終わった。
僕が考える……僕が見ている世界とは全然違う。
窓の外に映し出される世界は、こんなにも輝いているのに。
僕はそれを少しも描くことが出来ない。目の前にあるのに手に入れることは出来ない。
僕は抑えきれない苛立ちに任せてパレットを床に投げつける。
空っぽの教室に音が響く。
汚れた床に、更に汚れが重ねられる。
衝撃で倒れた花瓶からは水がこぼれ、足元に散らばった絵の具が滲んでいく。
ドロドロに色で混ざった床は……今の僕みたいだ。
結局何も出来ない。
心の中でグチグチ言うだけいって、一人じゃ何も出来きやしない。
僕は何のために絵を描いている? 分からない……。意味が無い……。
絵なんて描いたって何も変わらない……。知ってたはずなのに……。
そうだよ、僕なんて……。
汚れに汚れて……、本当の自分を隠して……、誰にも知られずに……。
誰にも知られることなんてないんだ……。この先ずっと。
……。
音が聞こえた。
どこかで水の跳ねる音がした。
僕は目をこすり、俯いた頭を上に持ち上げる。
窓際にの机に置いていたガラスの花瓶。
中の水が揺れている。
……その中で、人が泳いでいる。
そして、その人は水の中に消えていった。
いよいよ僕も幻覚を見るほど心がやられてしまったのか……。
いや、そんなわけない。
花瓶の中じゃなく窓の外だ。花瓶の向こうに映ったプールに誰かが飛び込んだんだ。
僕は窓をあけて身を乗り出してプールの方に目を細めた。
激しく、静かに波たつ水面。
その中から、一人の女子生徒が勢いよく顔を出した。
女子生徒は仰向けに浮かび、着たままのセーラー服と水に揺らいでいた。
僕は女子生徒の悲しげなその瞳に吸い込まれたかのように、
視線を外すことが出来なかった。時間が止まったみたいに。
そして夕日に染まるプールの中で空を眺めている彼女は……。
すごく、美しかった。
いったい誰なんだろう。
この学校の生徒はそう多くない。大体の顔は知っているはずだったけど……。
こんな綺麗な人は見たことない。
彼女の短い黒髪には光が揺れまどい、彼女のか細い体は水に抱かれている。
そして、水面に透ける柔らかな手足は白く輝いている。
水の上に咲いた花のように。
僕は目の前の幻想に心を奪われてしまった。
気づいたときには、僕の体はすでに動いていた。
イーゼルを押しのけ、足元に置いてあったスッケッチブックを手に広げる。
床にこびり付いた絵の具を筆で拾い上げ、花瓶から零れ出た水で色を溶かす。
そしてその筆で、白い画用紙に彼女の世界を描いていく。
ただ、ありのままに。
僕の感じたままに、筆を動かす。
水の中の彼女。キャンバスの中の彼女。
僕は彼女から一瞬も目を離すこと無く、ただ描き続けた。
夢のような世界に。何も考えず。無心に……。
「ひゃっ……!」
突然聞こえた小さな悲鳴に僕の筆も止まる。
プールの中で静止する彼女と、それを見つめる僕。
今、目が合っている。
彼女……恥ずかしさからなのか、引きつった笑顔をしている……。
そして彼女は慌てた様子でプールサイドまで泳ぎ、そして更衣室へと消えていった。
呆然とその様子を眺めていた僕だが、サーッと全身が冷めたような感覚に襲われる。
ここで我に返った僕は全身の力が抜け、へたり込んでしまった。
脳が必死で動いているのが分かる。
や、やってしまった。
完全に覗きじゃないか……。
女子が泳いでいる所を……。
しかも、それを絵にかいて……。
しかもしかも、それを相手に見られてしまった……!
状況を整理すればするほど、ものすごい罪の意識が湧いて出てきた。
それに耐えきれず、水を吸ってすっかりふやけてしまった彼女の絵をスケッチブックから慌てて引きちぎって、その画用紙と共に教室を飛び出そうと扉を開ける。
でも、扉の先には直視しなくてはいけない現実が待ち構えていた。
ずぶ濡れた制服から水を零している女子生徒が僕の逃げ道を阻んでいた。
再び時間が止まる。
僕を見下ろす彼女の顔には笑みが浮かんではいるが、
瞳の奥は微塵も笑いなんてないように感じた。
そんな目に睨まれた僕は情けない声を一瞬叫んでその場でへたり込んでしまう。
僕はそのままの体制で、なるべく女子生徒から離れるために少しずつ後ずさりで逃げる。
彼女は無言でその場で立って、僕をじっと見つめる。
ゆっくりと、少しずつ彼女から距離を置こうとするが、僕の後ろの机がそれを邪魔する。
やめろ、来ないでくれ。
僕の思いもむなしく、彼女は勢い良く迫り来て、その不自然な笑みを僕の情けない顔に近づけた。
「私のこと……見てたでしょ」
すごく綺麗な声で。
ガラスの様に透明で、それでいてはっきりと通る美しい高音が、僕を責める。
……そんなことを考えている場合じゃない。
彼女の視線に耐えかねた僕は、いつものように顔をうつぶせる。
「ずっと見てたの?」
そして僕は震えた声で小さく言葉を発したが、なんと言ったのかは自分でも分からない。
「ここ……美術室……?」
僕から視線を外した彼女は、ぐるりと部屋の中を見渡し呟く。
そして、僕の手元の絵に目を止める。全体こそ見えなかったが、明らかに人の顔が描かれていることが分かる。僕は慌てて絵を裏側に向けて見えないように隠す。
「まさか……私のこと描いてた!?」
彼女が尻上がりに叫ぶ。
それと同時に、僕は例の絵を絶対見せたくない、見られてはいけないと、
必死の思いで抜けた腰を持ち上げ走り出した。
だけど相当焦っていたみたいで、僕は外へは出ずに教室の奥に逃げていた。
逃げるにはもう窓から飛び降りるしかない……。バカだ……頭悪すぎる。
もう一度、今度は教室の外に逃げるために僕は体を振り向けたが、
その瞬間に僕は床に押し倒されしまった。
気づくと、僕の体の上には彼女がのしかかっている状態だ。
情けない姿の僕をとらえ続ける彼女の瞳。
髪から落ちる水が、一滴一滴、僕の顔を濡らす。
そしてスカートの内側からは、僕の腰にかけて水が移っていくのが伝わる。
「さあ、それを渡して」
小さく呟いた彼女。
落ち着いた声、だけど同時にかなりの動揺も感じ取れる。
でも見せるわけにはいかない。
僕は無言のまま彼女から目を逸らす。
「なんで何も言わないの」
彼女は握られた絵に手を伸ばす。僕は渡すまいと握る力を強めた。
最初こそは絵を受け取ろうとするぐらいの感覚だったのだろう。
抵抗する僕に、彼女の手の力も増してくる。
「なんで……!」
彼女の力は、両手に抱え込んだ僕の絵をむりやり奪い取ろうとする程までになっていた。
プールでの繊細な彼女からは想像できない強引さ。
必死に抵抗する僕。いくら僕が非力といえど、男と女。力負けはしない、と思った矢先だ。
僕の目に飛び込んできたものが僕の力を奪ってしまう。
彼女の胸元。水に濡れた制服がべっとりと張り付いて、
小さな膨らみを包んでいる薄い水色の下着を透かしていた。
そして、僕が動揺している隙に彼女は絵を奪い取ってしまった。
彼女は僕にニッと笑顔を見せる。
彼女はそのまま、ふやけた画用紙を広げて中に描かれた自分の姿を見る。
終わった。
一番見られたくないものを一番見られたくない人に見られてしまっている。
つい魔が差して。いい絵が描けると思って。君が綺麗だったから……。
僕は色んな言い訳を必死に考えるあまり、相当焦ってあたふたしていた。
絵の中身を見た彼女の顔から笑顔が消えていく。
それとともに僕の焦りも最高潮に達していた。
「違う……」
そんな中、彼女のつぶやいた一言が僕の動きを止める。
正直怒鳴られるか、最悪殴られるとも思ったけど……。
画用紙に遮られて彼女の顔こそは見えなかったけど、その肩は微かに震えているのが分かった。
僕は、そのまま何も言えずにただ固まっていることしかできなかった。
そして彼女は画用紙を握り締めた手を震わせて
「こんな顔してない……」
そう彼女は言った。
彼女は僕の腰から立ち上がり、直ぐに僕に背を向け教室の扉に向かった。
その間は顔を俯かせていて表情は一切見ることが出来なかった。
くしゃくしゃの画用紙を握ったままで彼女は言った。
「これ、捨てとくから……」
とても冷たい声が、僕の心に重く響く。
やっぱり僕は、僕のせいで他人を傷つけてしまったことを改めて感じた。
そして、彼女は顔を僕の方へと振り向ける。
「もう勝手に、人のこと描かないで」
予想外だった。
彼女が僕に放った言葉じゃなくて。
……彼女の表情に。
僕に言った彼女の表情は、怒りの顔でもなく、悲しみの顔でもなく……。
とてもさわやかな、笑顔だった。
でも……その彼女の目には、涙が浮かんでいたように見えた。
プールの水と勘違いしたのかもしれない。
……。
訳が分からなかった。
そして彼女は教室を出て行った。
夕日もすっかり落ちていき、少しずつ闇に包まれる教室に取り残される僕。
不意に鳴る学校のチャイム。
それに僕は驚き体を起き上がらせる。
何だったんだ一体……。
立ち上がり、体についた埃を払い落していると違和感に気づく。
背中が妙に湿っぽい。
その違和感を確認しようと、背中に顔をよじらせた僕は酷いショックを受ける。
ぐちゃぐちゃになった絵の具が背中にべっとりと、白いシャツが見るも無残になっていた。
どうやらパレット代わりにしていた床の上で倒されていたらしい。
最悪だ……。窓に手をつき深いため息を吐き出す僕。
その目線の先にチラッと見えた窓。さっきの彼女が自転車に乗って校門から出て行く姿。
自転車のカゴには、カバンに挟まれたくしゃくしゃの画用紙が見えた。
マジ……なんなんだよ。
僕はもう一度深いため息をつく。
チャイムが鳴る。