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甦りはアンデッドで  作者: 敏之助
魂生の間
6/10

思考の迷宮

 

 サクラは和利の魂の塊にゆっくりと、ちかづ・・・

「・・・・・・・・・・・・・あれっ??」

 右手でげんこつを作り、自分の頭を軽くたたいて、舌をだして、苦笑いしながら、

「てへっ、時間かけすぎちゃいましたかねって・・・。そんなことしてる場合ではありませんわ!どうして、なんでですの!?。どうして、なんで、何が原因で、思考の麻痺状態ではなく、思考の休眠状態に陥っているのですか!!」


 思考の休眠状態。この状態がどのようなことになるのかサクラは知っていた。この混生の間で極稀に発生する魂の崩壊現象。休眠状態から目覚めなければ、思考の仮死状態となり、その後、自らの意思で目覚めない限り、魂の崩壊・消滅につながる。原因も不明であれば、対処方法もないようで、この状態になった魂は、この世界のもの達でも、魂自ら(みずか)が目覚めるのを待つか、消えていくのをただ見ているだけだった。

『どうのこうの言ってる場合じゃないですわね。これは諦めた方がいいかもしれませんわ。せっかく、下僕として使うには良い素材を見つけたのに・・・。』


 サクラ(ユキ)は一つ深呼吸をして、目元や口元を引き締めた。

『何を先ほどから私は迷っているのです。これにすると決めた時から、後戻りは出来ないと覚悟したはずです。それに、術式を使ったことで私の存在がバレるのも時間の問題。諦めて次の下僕を探す時間もないはずです。何か、』


 右頬に右手の人差し指をあてて少し顔を傾けて考えている。

『ユキという名前に強烈な何かがあるのか、それとも、私が二つの名前を持つことに強烈な何かがあるのかどちらかでしょうね。』


 考えが上手く纏まらないのか、目を閉じて、右頬に当てた人差し指をゆっくり頬から離したり、くっつけたりを繰り返しながら、

『和さんは生前は男性。それにユキという名前に強い拒絶反応がありました。やはりユキという名前に何かがあると思います。そこを突けば落とせそうな気はするのですが・・・』


 しばらく考えていたが、指の動きが頬に当てたところで止まり、

『これ以上考えても仕方ありません。とりあえず、最初の方針のユキという名前で潜ってみて、もし効果がなければ、二つの名前に切り替えて対処するとしましょう。それでもダメなら・・・。臨機応変に対応するしかないですか・・・。』


 一抹の不安と迷いはあるが、それを払拭するために、サクラ(ユキ)は声をだした。

「行きます!」


 サクラは(ユキ)は、右手の手の平をゆっくりと和利の魂の前に伸ばしていく。あと数ミリで魂に触れるところで、突然、

「バチッ」という音とともに、手が弾かれた。

「えっ?」

 驚いた表情のサクラ(ユキ)だが、もう一度試してみるが、同じように弾かれた。


 サクラ(ユキ)は驚きと困惑の表情で、魂を見つめ、

『私、今、拒絶されました?。そんな・・・。有り得ない・・・。』

 空中で浮いているサクラ(ユキ)だが、立ったままの姿勢を維持できず、その場に座りこんでしまった。正座の両足を外側に向けて、おしりをペタンを付けた姿。俗に言う、女の子座り。


 何もできず、ただぼーっと和利の魂を見つめているサクラ(ユキ)。

「ごめんなさい。私が・・・。私が未熟者だから・・・。私に迷いがあったから・・・。」

 悔しそうに唇を噛みしめながら、魂を見つめていて、ふと何かに気が付いた。

「・・・・・そういえば、なんでしょう。桜のイメージが少し強くなっている気がします・・・。」


 サクラ(ユキ)は姿勢を正し、正座した状態で、膝の上に両手を揃えて置き、少し頭を魂側に近づけ、前のめりの恰好で、目を閉じて集中した。

「やはり、桜のイメージが雪のイメージより少し強くなってます。もしかして、拒絶されたのは、私が間違っていたから・・・。それを教えたかったからですか?・・・」

 なんとなく最後は質問形式になってしまったが、ゆっくりと目を開けて魂を見つめるサクラ(ユキ)、そして、その質問に答えるかのように、魂がほんの僅か揺らいだようにサクラは見えた。


 それは一瞬のことだった。他にこの現場に別の何かがいたとしても、その揺らぎには気づけなかっただろう。だが、サクラは気づいた。そして迷いはなかった。

「和さん、私、もう迷いません。今度こそ行きます。」


 覚悟を決めたサクラの行動は素早かった。ポニーテールの髪を振りほどき、背中まで伸びる髪を軽く手櫛で整え、光に包まれたかと思うと、最初に和利と会った時の姿、白と薄いピンクの洋服に包まれていた。先ほどと同じように魂に手を伸ばすが、今度は弾かれることなく触れることができた。触れた状態で、サクラは目を閉じ、自分の意識だけを和利の魂の中へ送り込むようにイメージをした。


 ゆっくりと目を開けたサクラ。周りは白一色。靄に包まれた世界。

「予想していたより、靄が濃くなっていますわ。」

 靄の中を闇雲に動くようなことはしない。目を閉じ、両手を組んで、口元に当てていた。まるで祈りをささげているかのうように、小さくささやいた。

「和さん、聞こえますか?。サクラです。サクラが参りました。」


 その声は小さいが、靄の中でもしっかりと響き渡った。しばらくそのまま待ってみたが、返事はなかった。二度、三度と呼び掛けてみたが、返事はない。


 サクラはゆっくりと目を開け、一度魂から、手を離す。

『まだ届かないのでしょうか。やはりあれを使うしかありませんか。』

『イメージとしては、伝えたい言葉を包み、その包み全体に力を乗せて。』

 再び、ゆっくりと目を閉じ、祈るように、だが、先ほどとは違い、サクラから、淡い光が出ている。

「和さん、サクラです。私の声、届いていますか?。」


 俺は、何をしているんだろうか。いや、何をしていたんだろうか。いや、もうどうでもいい。何も考えたくないと思った時、突然、視界にいい年こいたおっさんが、薄暗い部屋の隅で体育座りでうつむいている姿が飛び込んできた。視界はゆっくりとそのオッサンに近づいていく。なんとなくだが、この後の展開は予測できた。

『多分、あれは俺だ。俺を俺が見ている。よくあるホラーの映像だよな。逃げることは不可。近づいていくしかない。そして、恐らく最後は、不気味な笑顔で襲ってくるんだろうな。』


 予測通り、近づきたくはないが、視界は問答無用で近づいていく。うつむいていた頭がゆっくりと上がると、首だけが俺に向いてきた。顔もはっきりとわかる。目は閉じているが間違いなく俺だ。予測通りなので、思わず苦笑いしたくなってしまった。

 突然目が開き、理解できない言葉で叫ぶと、四つん這いになり、両脇腹から、足とも、手ともとれるものが1本づつ生えて、物凄いスピードで迫ってくる。背中にはご丁寧に黒光りの羽らしきものまでついている。まるで、Gのように・・・。


 そこで我に返った。微妙に疲れがある。

『今のは、予知夢みないなもんか?。あれが、審問の扉を通過したあとの俺の姿なのか。流石に最後は予測の斜め上だったな。』

 なんとなく覚悟はしていた。自分の人生振り返ってみると、こうなるであろうことは想像できていた。

想像通りの展開だったので、

『くそっ。』

一言、吐き捨てるようにつぶやいていた。


 それでも、そうならないであろうという希望もあった。虫になるのであれば、わざわざあの爺さんがそんな話をするはずがない。虫になる可能性が高いと判ったら逃げるさ。逃げれるかどうかは別だが、それこそ審問の扉でも使ってでも。わざわざ逃げられて面倒なことになるぐらいなら、最初から話したりはしないだろう。だから、俺は虫にならだろうという思いもあった。

『まさか裏をかいて、安心させておいて、実は・・・。そこまで読んで話たとか・・・。まさかな。いや、あの爺さんなら・・・するか。』

 納得できてしまった。漂う敗北感。Gに対して失礼なことを思ってしまった。死にたいと。死んでるから、死ねないとは思うが・・・。


 Gにも命がある。懸命に生きているんだと思ってやりたい。思ってやりたいが、どうしても割り切れない。一度なってしまえば、こんなことで悩まないだろう。だが、その一度目に気持ちの整理がつかない。


 死んだはずなのに、なんでこんなに苦しくて、寂しくて、(つら)くて、悲しい思いをしなければいけない。助けてほしい。助けてもらえなくても、この苦しみ、悲しみ、寂しさを誰かに聞いてもらいたい。そして、声を出して泣きたい。泣き喚けば、きっと覚悟もできるだろうと・・・。


 どこかからか、何かのうめき声のような音が複数回、聞こえた気がした。もう、これ以上は、勘弁して欲しかった。得体の知れない何かが近づいているのだろうか。もしかしたら、魂を食う化け物みたいなのがいるのかもしれない。いっそ、そいつに食われて、この苦しみ、悲しみから解放されたいと思うまで追い詰められていた。


 再び声が聞こえた。

「和さん、サクラです。私の声、届いていますか?。」

 しかし、頭?、心?、気持ち?の整理が出来ていなかった為、言葉の意味を理解しきれなかった。

「お願い、和さん、返事して・・・」


 心や体に染み渡る(あったらそう感じたであろう)優しく澄んだサクラの声。自分を包み込むサクラの声。

「・・・サクラ・・・」と小さくかろうじてつぶやくことができた。だが、その声はサクラには届かないだろうと俺は思っていたが・・・。

「和さん。そうです。サクラです。心配したんですよ・・・。でも、よかった。」

 俺の声がサクラに聞こえたことに驚いた。小さくつぶやいただけだったから・・・。


「サクラ、俺の声が聞こえたのか。」

 半信半疑ながら、質問してみた。

「はっきりと聞こえました。今、私の意識は和さんの魂の中にあるのですから・・・」

「はぁ?俺の中にいる?。どうやって・・・」

 思わず、聞き返してしまった。

「どうやったかは秘密です。それに、秘密のある女って魅力的でしょ。それとも、そんな女性はお嫌いでしたか?」


 意地悪そうな質問だが、声に悪意はなく、楽しませようとしている感じさえした。

「サクラは女性というより、女の子、それもどこぞのお嬢様って感じがするよ。」

「あらっ、ありがとうございます。私のこと、少しは気に入っていただけたと思っていいのかしら」

 おそらく社交辞令で言っているのだろう。

「いや、いくらなんでも、こんなおっさんに気に入られても困るだろう。」

「和さんは、恋愛に年齢は障害になるとお思いかしら?」

 完全に一本しかも先手まで取られてしまい、返す言葉もなかった。


 サクラも俺が返事に困っている様子を察知したようで、話題を変えてきた。

「ところで、和さん、先ほどは何を悩んでしまったのですか?」

 サクラとしも、この話題に触れるべきかどうか迷った。このまま放置して、もし同じことが起きた場合、今の状況に戻れるのかと考えた結果、この問題を片づけるべきと判断した。


 俺はサクラの質問に、

「あれ?。なんで悩んでたっけ?。何を話してた?。サクラ。」

 どうしても思い出せないので、サクラに尋ねた。

「名前についてお話しておりました。」

「そうだった。名前だ。サクラとユキ。そうそう、それで・・・」

 俺が、再び考え込む前にサクラが呼び掛けてきた。


 サクラもここがターニングポイントと捉えていた。このまま、考え込ませたら同じことの繰り返しになると。

「和さん、私の話を聞いてくれます?。」

 しかし、再び思考の迷宮に入りそうになっている和利にサクラの声は届かない。サクラは語気を強め、

「和さん!!」

「ん?!、サクラ、どうした。」

 思考の迷宮に入り込む前にとどまらせることに成功し、ほっとしたサクラは、

「私の話を聞いてくださいませんか。」

 俺も、自分だけでは解答を見いだせないと判断して、サクラの話を聞くことにした。

「和さんの世界では、姿、形がかわれば、呼び名が変わるものってありませんでしたか?。」

「姿、形で名前の変わるものねぇ。」

 俺はしばし考えることに集中していた。


 サクラは意識を集中して、その様子を注意深く見守っていた。

『大丈夫のようですわね。油断は禁物ですが、こんな質問で、先ほどと同じようなことは起こらないでしょう。今は和さんの意識下にいますから、万一の時でもすぐに対応は可能ですし。』


 サクラの心配をよそに、俺は考えていた。

『名前が変わる・・・PCの中には基板や部品、でも、部品が集まってPCになるから、ちょっと違うか。車、事故で廃車。いや、なんか違うし、家電品なら、TVとか、冷蔵庫、電子レンジとか、壊れて粗大ゴミ。ん~。やっぱり違うよな。冷蔵庫の中なら食品とか・・・。』

「あっ、食い物か!!」

 思わず、叫んでしまったような気がした。

「なにか、見つかりましたか?」

 叫んだ気ではなく、叫んでいたのだろう。サクラの嬉しそうな声が聞こえた。

「サクラのおかげで、思いついたよ。食べ物だ。食べ物だと名前が変わるんだよ。」


 俺は自分の思いついた考えを話した。

「例えば、牛という動物、生き物がいるんだ。それを食肉として加工すると牛肉という名前に変わるんだ。さらに、食べるために人間は調理をするんだ。調理をすると、ステーキとか焼肉とかに名前が変わるんだよ。」


 ここまで話して、ふとサクラに意味が伝わっているのか不安になってしまった。ただの肉と食肉の違いや加工と調理の違いとか。だが、さらに事細かく説明する必要はないようだった。

「確かに、姿、形が変われば名前が変わっていますね。食べるとおいしいんですか?」

 どうやら、意味は理解できてないとしても、俺の言いたいこと、伝えたいことは理解してくれているようだ。

「上手いよ。肉の種類で味は変わることはあるが、ほとんどの人間が好きだろう。で、食べると消化されて、う〇ちになるんだが・・・」


 ここで俺は行き詰ってしまい、無言となった。

「和さん?大丈夫ですか。」

 サクラも心配して声を掛けてきた。

「大丈夫だけど。だけどさ、サクラがユキになったり、ユキがサクラになることはあるが、う〇ちは元に戻れない。戻れないから・・・」

「和さん・・・」

 声のトーンを一つ落としてサクラが呼び掛けるが、

「サクラは、ユキになったり、サクラに戻ったりすることが出来るけど、う〇ちは、戻れない・・・。う〇ちは、サクラやユキになれな」

「和さん!!」


 怒った口調でサクラが呼び掛けてきた。

「和さん、それ私に対して失礼です!!。」

「いや、あくまでも例えであって、別にサクラやユキが」

最後まで言わさないように、サクラが会話を途中でぶった切る。

「例えでも嫌なものは嫌なんです。それ以上続けるのなら、私の、私による、私の制裁で、和さんには消えて頂きます!。」


どこぞの国のなんとか宣言みたいな感じで言っているが、内容は恐ろしい。

()え〜よ。」

「フフフッ、私を怒らせたら怖いですわよ。」

サクラの声にも笑みが含まれていたことに少し安心した。

「和さん、私思いついたんですけど、水を思い浮かべてみてください。」

「水?」

唐突なことだったので、聞き返してしまったが、

「そうです。水です。水はどうなりますか?」

抽象的な内容なので、ピンとこない。

「水ねぇ。どうなるって・・・。水を飲んだら」

「だから飲まないでくださいって。飲んだら、同じ答えになってしまいます。」

サクラの叫び声が聞こえてきた。

「いやいや、水分補給は大切だよ。水を飲まないと脱水症状起こすだろう。そうなると危険な状態になってだな。場合によっては、死」

「そんな説明は、今求めていませんって。それに、今度はそっちにいっちゃうんですか?。もっと他にありますでしょう。温度の変化とか・・・。」

またしても、最後まで言わさず、途中でぶった切るサクラ。

「水、温度の変化・・・。」


しばし考えたのち、ようやく気が付いた。

「そうか、水を冷やすと氷になる。溶ければ、元の水になる。姿、形が変われば呼び名が変わる。サクラもユキも同じだが、姿で呼び名が変わるだけということか。」

「そうです。たったそれだけなのに、随分と遠回りした気がしますわ。」

「ごめん。なんかすっきりしたよ。」

和利の声を確認したサクラは、自分の周りの靄が少しづつ晴れてきていることを確認した。が、サクラの表情は厳しい顔のままである。

『とりえず、危険な状態は脱出できたようです。が、正直、原因は別にありますわ。多分、和さんも納得できているような返事ではありませんでしたからね。やはり、奥底にある何かを調べないと、(しもべ)として、使い物にはなりませんか・・・。』


サクラは一つ和利にお願いをするこにした。



いつもお読みいただきありがとうございます。

5話の中盤となります。次回で本来の5話が完結します。

次回更新は、12月11日となります。

今後もよろしくお願いいたします。


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