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甦りはアンデッドで  作者: 敏之助
魂生の間
4/10

狙われた案内担当

 魂生の間を飛び回っている案内担当がいた。

「ヤバッ、どの魂だっけ?」と、ヤバッと言っている割には、焦っている様子はなく、背中の羽をパタパタさせながら、魂を一つ一つ見てはため息をついている。

『そもそも、案内担当総監の婆さんの説教長いのよね。さらに今回の魂については、普通の審問官ではなくて、大審問官の爺が担当だから、審問の時間が長くなるからって説教まで長くしなくてもいいじゃんか。』

 

 ふてくされた顔をしながら、魂を覗いているが、覗いている時は可愛らしい笑顔で愛想を振りまいている。ただ、覗き込むのをやめると、ふてくされた顔に戻っていた。

『ま、今回は私も悪かったんだけどさ、ちょっと魂を間違って、別の魂を審問の扉に入れちゃったぐらいで、あんなに怒んなくてもいいじゃん。誰も間違えたくて間違ったわけじゃないだしさぁ。』


 少し疲れたのだろうか。羽をパタパタさせてはいるが、ホバリング状態で考え込んでいる。どうやら目的の魂を見つけられないようだ。

『悪意なんてないし。だいたい、他の案内担当は魂の見分け方ができるって聞いたけど、わたしは出来ないから一つ一つ確認しないといけないから時間もかかるわけだし、いつもギリギリというか、間に合わない事が多いけど、それはそれで、総監(あのばあさん)目くじらたてて説教するし・・・。そりゃ焦って間違うミスぐらいするって・・・』


 いや、それとこれとは話が違うとは、当の本人は思っていない。そのうえ、何かを悟ったように、

『そう、私はわかったの。これは人事の配置ミス、この配置ミスさえなければ、魂の取り違えによる重大事故は発生しなかった。これは、私のミスではなく、人事、もしくはさらに上の責任者のミスだと私は声を大にして言いたい!!』


 完全に開き直りモードに入ってしまっているように見える。ミスを他人のせいにして、自分を正当化する考えは一番危険だと言える。それに自身も言っている通り、これは重大事故案件である。人として生まれ変わるはずの魂を、取り間違えたことで、虫として生まれ変わらせてしまったのである。総監が怒って当然といえば当然なのだが。


 当の本人にはその時は反省している様子をみせたが、実のところ反省はあまりしていないようだ。その証拠として今も、

『マニュアルだって、改定、改定で、全く整理されていないし、研修だって中途半端。そもそも、私の希望は案内担当ではなく、受付担当だったし。希望していたわけではなかったのに、意思の疎通が魂とできるから、って理由だけで案内担当にされたのにも納得できないし。』 文句のばかりである。マニュアル・・・どんなことが書かれているのかだろうか。


 それでも、罪悪感はあるようで、

『あっ、でも、あの魂には悪いことしちゃったよね。早く人として生まれ変われるといいな。』


 なんとなくではあるが、気分も落ち着いたようで、次の魂に移動しながら、

『次からはきちんと確認しようっと。』と小さく呟いた。


 受付担当のサラリーマン妖精のようなスーツ姿ではなく、カジュアルな恰好、話し方からすると女の子っぽい感じを漂わせている。この空間のもに性別があるのかは不明だが・・・。


 転生のフロアを飛びながら、過去の失敗を繰り返さないように仕事を続けているが、目的のものが見つからないらしい。そして、再びの愚痴。


『無駄に広いのよね。このフロア。見つからなかった時の言い訳として、動物の間か虫の間に紛れ込んでしまって、見つけられませんでしたってのもありかな?』

そう思ったが、両手で髪の毛をかきむしりながら、

『ああっ、あの堅物(ばあさん)にはそんな言い訳通用しないよね。きっと。』

そして、上を向いて叫んだ。

「あああぁぁぁぁ、もう、どこにいんのよぉぉぉぉ、ぜぇ~たい、私には、この仕事向いてないよう~~~~!」


 案内担当の遥か上空で見つめているものがいた。

案内担当のように、背中に羽が生えているわけではないが、宙に浮かんでいる。

漆黒のドレスに身を包んでいる。

『あの案内担当が、あの魂の担当なのですね。クスッ。』

小さく笑っている。

『あなたの心の声、なにも保護をかけていなにのですね。それとも、ここでは保護する必要がないのかしら。全て読み取れていますよ。失敗して怒られたようですが・・・。あなたの言う通り、この仕事は向いてないようですね。』


 そして可哀そうな目で見つめながら、

『これもわたくしの悲願成就のため、恨みはありませんが、再びその総監とやらに怒られ、いや、あなたを案内担当にした人事担当を恨んでくださいね。』


 そうつぶやくと、目を閉じ集中し、

『まず、魔法は使わない方がよさそうね。この世界には魔法は存在していませんから、そうそう感知はされないでしょうけど、感知するものがいないとは言い切れませんから、魔術式を組みましょう。』

 

 ―― まずは、あの案内担当の足止めるための幻術の術式を構築、対象に組込、実行 ――

 

 すると案内担当の移動が止まった。だが、魂を覗き込む動きは止まっていないし、背中の羽はパタパタ動いている。おそらく、移動して魂をチェックしているように幻術で見せられているのだろう。


 その様子をみて、

『幻術の魔術式はあまり得意じゃないんだけど、どうやら上手くいったようですね。では、次に 認識阻害の術式で、周りから見えないようにしましょう。』


 ―― 効果範囲と認識阻害の術式を構築、対象からの範囲を指定し組込、実行 ――

 

 目には見ることができないが、案内担当の四方、約5mを取り囲む目に見えない四角い箱が作成された。術式を実行したものには見えているのだろう。上手くできたようで納得した顔で見つめていた。


 しかし、すぐに考え込んでいた。

『このままでもよさそうですが、私の幻術術式は完全ではありませんので、見せられている相手が疑問を持つと破られてしまうかもしれません。例の魂の複製を置くとしても、なにか手を打つ必要がありそうですわね。』

 

 あの案内担当が疑問を持つようなことが起こるだろうかという疑問もあるが、万一に備えて念には念をいれておく必要があると判断したのだろう。そして、なにかを思いついたように、ニヤッと笑みを浮かべ、

『複製に会話ができるようにして、案内担当の不満を聞いてあげましょう。否定の言葉ではなく、同調する言葉を入れてあげれば、案内担当が話に夢中になることで、幻術の強度も増すでしょう。』


 ―― 魂の複製作成の術式を構築、組込、実行、会話の術式を構築、複製に組込、実行 ――

 ―― 最後に、複製を認識阻害の範囲内へ転移の術式を構築、組込、実行 ――


 すべての魔術式の実行が終わり、案内担当の様子を見ながら、

『私からのプレゼント受け取ってくださいね。全てが終わった時、再び怒られるでしょうから、その前にその偽の魂にしっかりと不満を聞いてもらってくださいね。スッキリ出来ることを祈っています。』そう言い、視線を案内担当から、先ほどの魂へと移した。


 『さぁ。ここからが本番ですわね。あなたに気に入っていただかないことには、私の悲願成就も達成できませんから、あなたの深淵、覗かせていただきますわ。ここで長いこと待った甲斐がありました。その間マニュアルで勉強もしましたから、その成果を今発揮しましょう。』

 

 最後の部分は自分に言い聞かせるように呟いて、さらに目的の魂に集中しようとした前に、もう一度、案内担当を見ると、追加で術式を組込ことにした。


 ―― 複製した魂へ 会話の応用の術式を構築、組込、実行 ――


 『これで、あなたは、あの魂の虜になるでしょう。優しく、慰めてくれる言葉を追加したのだから。』 優しい笑みでつぶやいてその場から去った。


 先ほどの場所から、少し左側へ移動したところで、停止し、遥下を見つめている。どうやら、目的のものを見つけたようである。

『長いこと待ちました。やっと私の僕となるものを見つけることが出来ましたし、術式を使ってしまった以上、長いは禁物、さっさと捕獲して、この魂の世界に行くとこにしましょう。』


 ゆっくりと目を閉じてると、意識を集中させ、

『まずはあなたの好みを教えていただきましょう。』

集中している表情がだんだんと険しくなっている。小さいが声も出ているようだ。

「う~~ん。なんでしょうね。上手く読み取れませんわね。」


 いったん、目も開いて考えている。

『あれ、この魂ではなかったのかしら。でも、これがこの空間に現れた時の前の世界での言動は間違いなくありますので、間違ってはいないはずですが。今までいくつも覗いてみましたが、こんな読み取りにくい魂はなかったですわ。』


 しばらく考えてから、

『先ほど、魔術式も使ってしまいましたら、もう後戻りはできませんし、ここは魔力も加えて集中してみましょう。何か見えるかもしれません。』

先ほどより、集中力を一段と高めているようである。

『色のイメージですか・・・。淡いピンクと白で桜、そして純白で雪。この二つが非常に強いですね。あと、色のイメージしかわかりませんが、薄紫と白、紅色と黄色、微弱ですが、薄い青と白ですか。』


 目を開けて右人差し指を右頬に当てて、

「結局、それ以上は何もわかりませんでしたわね。まずは、淡いピンクと白で桜というイメージで攻めてみましょう。」

 突然、そのものが光に包まれ、黒のドレス姿から、別のものに変わり、目的のものに降下し始めた。が、何かに気づいた。

「そうそう、背中の羽、忘れるところでした。」

そういうと、突然背中に羽が生えて、パタパタ動いている。どうやら、魔法で作り出しだようだ。

「では、改めて参りましょう。」


 



いつもお読みいただきありがとうございます。

いつになったら、アンデッドとして甦るのか、作者でもわからなくなりました。


さて、次回ですが、長文になってしまっているので、分割します。

投稿予定日は、11月14日となります。

よろしくお願いいたします。


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