やってきた世界
眩しくて目を覚ます。
見慣れない真っ白な天井。
かけられていた布団を手で剥がす。
その布団もどこか知っているものとは質感が違う。見たこともないような鮮やかな青。
周りを見渡すと何でできているのかわからない本棚
机と、おそらく椅子と思われる奇妙なもの。脚が一本のようで、いくつにも分かれ、分かれた先で丸い靴のような物を履いている。
「ここが...、もう一つの世界ってやつ....?」
理解できないものが多いということを理解してそう結論に至った。
「目が覚めた?」
見知った声。見知った姿。
「メリノスか。無事着いた感じ?」
「えぇ、無事着いた。ここはこちらでのあたしの拠点ってところよ。」
「不思議に思ってたんだけど、あんた何百年も前の初代国王だよな?なんで普通に生きてんの?」
「まぁその話は追々話すとして...、今はちょっとこれを見て。」
そう言って黒く細長い板を、これまた黒く薄っぺらい板に向ける
するとそこには動く小さな人たちが浮かび上がった。
「なにこれ...!?魔法!?」
「魔法がないって言ったでしょ。これはまぁ...化学...わかりやすく言えば雷魔法を応用して、あれこれした技術ってところよ。」
「魔法ないって今言ってたじゃん。」
「とにかくこれは魔法じゃないの!」
魔法でない、だがしかしとてつもない力。それがある世界、という事か。
「とりあえず内容を聞いて。」
『次のニュースです。本日の黒角の目撃情報にに着いてお伝えします。』
どうやら言葉は通じるようだ。見たこともない文字。聞いたこともない言葉だが、何故か頭に内容が伝わってくる。
『本日の正午までの目撃情報は31件。うち22件は東京都内に集中しています。近辺へお出かけの際は最新の注意を払いー...』
何か厄介なものが姿を表している、という事か。
「これが元魔王軍。こっちでの肉体は与えられず、人が描いた姿を借りているわ。」
「描いた姿?どういう事だ。」
その疑問を投げかける間もなく、メリノスは本棚から一冊の本を取り出し、こちらによこした。
「この世界で漫画と言われる、空想上の物語があるの。少し読んでみて。」
そう言われ、本に目を落とす。色鮮やかな表面の絵。半信半疑で開くと、自分が知っている本とは違い、余白が多く、さまざまな絵が描かれている。
おそらく、これは人の絵...?なのだろう。目があり、口がある。そう言われてみればさまざまな表情があり、さまざまな人物が描かれている。
「この中の姿を借りてこちらの世界で存在しているのが元魔王軍の亡霊よ。」
「なんとなく状況はわかった。俺の変身魔法に少し原理が似ている気がする。だから俺が呼ばれたってわけね。」
「まぁ今はそう思ってくれていいわ。」
一通りペラペラとめくり本を閉じる。
「で?これに対する解決策を俺に考えろって?」
「えぇ。」
「何かいい案とか、少しでも思いついてたりしないの?」
「向こうが姿を借りてるなら、その性質も少しは関係するのだろうし、その姿の弱点となりうる何かの力を手に入れられれば或いは...とは思ってるわ。」
まぁ理にかなっていると言えばそうか。
「でもこの世界に魔法がないなら、俺も変身魔法は使えない。第一、俺の変身魔法は姿を写し取るものであって、能力をコピーするものじゃないぞ。」
「でも羽が生えたモンスターの姿に変身すれば空も飛べるし、体内の臓器も変わるのだから火も吐けるようになるでしょ?」
「試したことはないけど...たぶん...、」
「マナがないとは言え、貴方の体内で生成される魔力自体がなくなったわけじゃないわ。」
「え、そうなの?」
試しに変身魔法を使用してみると、たしかに体内から魔力を感じる、だが、やはり自分の魔力だけでは足りないのか、完全な返信は遂げられず、右腕の先だけがモンスターのものへと変わっただけに過ぎなかった。
「やりようによっては...でも不完全だな。」
「まぁとりあえず、貴方が今するべきなのは、この世界の知識を蓄えることね。」
目の前にドンっと置かれた大量の漫画。
「とにかくこれを読み漁って。必要なら追加も買ってくる。机の上にあるパソコンも後で使い方を教えるわ。」
「魔法の勉強してた時よりもやること多い気がするんだけど...。」
少し気が滅入りながら、アルマは目の前にある漫画に手を伸ばした。