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挨拶回り


王都


来るのは半年ぶりになる。

最初に訪れた時よりはやはり活気があるように見える。

元実家は、いつかもわからないうちに更地になっていた。


大通りをまっすぐ進み、正面に現れる大きな建物。

城は相変わらず、正面に警備兵。


「よろしく頼むぞ、メリノス。」

「本物だと信じた上でその扱いはどうかと思うのよねあたし。」


そう言いながらも魔法を唱える。すると体は透明になり、外部からは見えなくなってしまったようだ。

当然このままではお互いも見えないので、あらかじめ渡されていたメガネをかける。


「本当に大丈夫なんだろうな...」


不安になりながらも警備兵の間を歩く。本当に見えていないようだ。


そのまま王座へと向かう。普通の王ならいつもいつも王座にいるわけではないだろうが、今日がたまたまなのか、それともいつもなのか...、王座に腰掛ける若い青年を見つけた。


「久しいね。リクト。」


そう言ってメリノスが透明化を解いた。


「!!!!!」


途端に臨戦態勢になる警備兵

だがそれをよそに、玉座の青年は大きく反応を見せた


「メリノス...!!」

「なにっ....!?」


途端にどよめく人々。

あの話は本当だったのかと口を揃えて言った。


「今までどうしてたんだ...!僕は世界を救うってことしか聞いてなかったから...王様になるなんて思ってもいなかったのに...」

「それはごめんなさいね。あたしもまさか王家がここまで落ちぶれてるとは思わなかったの。」


駆け寄ってくる勇者と、一方で少し冷たさを感じるメリノス。

少し不思議な光景だった。


周りを見渡せば、警備兵の他に前王の姿も確認できた。そして、かつて父だった人も。

おそらくあそこにいる少女はリリサだろう。まだ面影がある。


「とにかく君が来てくれてよかった。これからも僕を助けてくれるだろう....?」

「...」

「...えっと...そちらは...?」

「今度ともに世界を救う者さ。」

「...え?」


途端に自分に視線が集まるのを感じた。自然と体が強張る。


「世界を救うなら僕がいくよ。それで十分だろう...?」

「いや、君じゃ無理だ。」

「なんでそんなことを言うのさ。僕は一瞬で魔王軍をやっつけるほど強くなったんだよ?」


蚊帳の外、でありながらもどこか負の感情をこもった目でチラリと見られる。

その目をどこか無感情に見つめる自分がいた。


どこか、あまりにも、弱い。


自分はこんな物に全てを奪われたのか。

部屋の奥半分に奪われたものを確認しながらそう思った。


その視線に、父であった者は気が付いたらしい。


「お前...、アルマ...、」

「え...?」


その声にかつての幼馴染も反応を見せた。


「アルマって...隣に住んでたあの...?」


その声に勇者は再びこちらに目を向ける


「リリサの幼馴染...そうか君のことか。」

「俺の事でも聞いてたのか?」


「あぁ...聞いていたとも...」


すこしの沈黙の後そう答えた勇者はどこか悔しさを滲ませていたようだった。


「あ、アルマ...!もしどこかに旅に出ると言うなら私も連れて行って!」

「リリサ...!!?君まで僕を...!?」


どこか必死さを思わせる声だった。

よく見れば王の正室であるリリサの服はそれを思わせない程に質素な者だった。


「でもリリサは勇者のお嫁さんになったって聞いたよ。」

「それは...、」


そこに割って入ったのはメリノスだった。


「話を戻していいかしら。」

「「...」」


「先程言ったように、この者を新たな勇者として、貴方が元いた世界に連れて行きます。私はしばらくこちらの世界には帰らないのでそのつもりで。今日はその報告に来ただけよ。」


「あぁ...我が神よ...、神が世界に不在となれば、誰がこの世を導いてくださるのでしょう...」


沈黙を貫いていた元王が急に縋り付く。


「せめて、神がいない間に民衆をまとめる力を私に授けてはくださいませんか...」

「勇者に任せるといいわ。もっとも、既に関係はボロボロのようだけどね。」


アルマとメリノス以外の全員が俯く。あまりしたいと思わないような出来事があったようだ。タイミングを見てメリノスに聞こう。


「ではごきげんよう。」


そう言ってその場で転移の魔術を唱えると、眩い光が体を纏う。そのまま地面に吸い込まれるような感覚と同時に意識が遠ざかっていく。その瞬間、何かがその光に飛び込んできたように思えたが、そんなことを考える余裕もなく意識は途絶えた。

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