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チョコミント好きは知っている。チョコミントが全ての人間に受け入れられる味ではないということを

私はにこにこだった。


あまりにご機嫌すぎて、普段だったら執事が「お嬢様、食べすぎですよ」と諌めてくれるところを執事もメイドも、ついでに私の最後のストッパーであるギルでさえも私がばくばくとギルと料理長の作ったチョコミントクッキーを胃に収めて行く様子を眺めているだけだった。


いかんいかん。いつもだったら誰かしらが止めてくれるのに、逆にこんなに許されてしまうと自分で思わず食べ過ぎてはいけないという自制心が沸く。これが…成長……??


んなわけあるか。

阿呆な自分のボケに自分で突っ込む。



「みんなも食べましょうよ! すっごく美味しいわよ。だってギルと料理長が作ったものだもの。ほら、ギルも食べて食べて!!」


「まあ、確かに俺が作ったものなんだから美味しいよな。それに、普通のチョコを入れただけのクッキーとは違って口のなかが涼やかに感じるな。これがミントとチョコの組み合わせか…」


本来なら一緒の卓で給仕以外のことをする立場ではないとかいつもの小言を右から左に流すと、いつものことだし仕方ないという顔でテーブルまで近づいてきて、メイドのサラや執事もおずおずとクッキーを口に入れる。普通なら”甘い”というだけのクッキーのいつもとは違った食感と味に二人とも目を瞠る。


「これは確かに新しい味ですね…。涼やかという表現も分かります。お菓子というものは甘いというだけではない、というだけで新しい発見ですね」


うちの執事長である彼は、実家が大商人の家らしくこういった新しいものには目が無い。

そんな彼がどうしてうちの執事長をしているのかといえば、商家である実家を継ぐのは長男であるお兄さんの役目だったので、仕入れ担当としてだけでは自分はこの狭い世の中で埋もれてしまう、と感じて何を思ったのか我が公爵家の門を叩いた。いや実際は何かの伝手があっての紹介だったとは思うんだけど、そこのところの詳しい話はわからない。ともかく、うちのお父様がその後彼を従僕に大抜擢。そこから出世、出世の執事長…という名のお父様の右腕だ。


名前をカイン・ラルドという。私の前世の年齢と同じ26歳。独身。こんなに出世してしかも顔も仕事が出来るスマートなエリートってこういう顔ですよね! と笑ってしまいたくなるようなくらいのイケメン。ゆるい七三ぽく分けられた前髪も、なぜかいつも少し乱れていて、黒い髪と黒い瞳と併せてこれが大人の色気の力か……とカインの顔を直視すると見慣れているはずの私でさえも赤面してしまう何かがある。…べ、別にただ好みってだけじゃないかって? その通りです! 正直いうと、記憶を取りもどす前のただのお子様だったリズの初恋もカインだった。どこまでも私の魂に刻まれた嗜好と思考が同じすぎるね!!



「これは…正直に申し上げますとわたしには少し辛いな、と感じますが…ですが口の中がすっきりとする感覚がいたします」


メイドのサラは私の専属だ。ギルの婚約者になったのと同じ時期に私の元に配属された。

リーブル家という伯爵の位を持つ家の長姉だ。家は弟が継ぐ予定だが、伯爵家といっても両親ともに悲しい事故で亡くなってしまい、叔父夫婦が代わりに代理の伯爵として領地経営をするもこちらも悲しいことに叔父には経営の才能がなかったようで、あまり家の財政状況が思わしくなくなってしまった6年前、弟とまだ幼い妹のいる彼女はメイドとして屋敷に勤めだした。

今ではうちの財産援助の力も少しあり、リーブル伯爵領は立直しあと2、3年もすれば弟君が伯爵家を正式に継ぐようになるとのことだ。

彼女はそれまでメイドとして働くのか、それとももう弟君を支えるために領地へ戻ったほうが良いのではないかと問いかける私に対して彼女は「お嬢様がギルバート殿下に嫁がれるその日までは、お側にいさせてください。いいえ、本音を言いますと嫁がれたその後も連れていって欲しいのです」といつもクールに仕事をこなす(公爵家使用人の間での彼女の通称は氷のメイドだそうだ)彼女の初めてのデレに思わず「いい人が出来たり弟君の力になるというのなら引き止められないと思って聞いただけなの…あなたさえ良ければ私はいつまでも傍に居て欲しいわ!」と力強く言ってしまった。今思えばあのとき感じた感情はそう、胸キュンだ。


サラの言葉に私は眉間にしわを寄せた。

勿論、正直に感想をくれたことに対する怒りなんかではない。


「そうよねえ…新しい味といえばそうなんだけど、チョコミントっていう味は賛否両論好みが分かれちゃうものなのよねえ」


そう、私のようにメーカーがこぞって出しているアイスやらクッキーやらケーキやら果ては飲み物までのありとあらゆるチョコミント味を買っては食し、チョコ度がどうの、ミント度がこうのと言ってハマる人間がいる一方で、ハミガキ粉じゃん…?これの何が美味しいのかさっぱり分からないという意見もあることは今までの経験でしっかり分かっている。


チョコミン党の人間は、自らがチョコミント好きであることと、チョコミント好きのためにあのチョコミントが美味しいという情報を共有・拡散して広めることは積極的に行うが、チョコミントを相容れられない人には全くこれらを一切受け入れて貰えないということは知っているので、気軽に職場の隣の席の人に「チョコ食べます? チョコミント味ですけど」なんて勧められないのだ。

きのこたけのこ戦争と似ていると思う。自らの派閥を気軽に明かせないし、相手に強要するなんてもってのほかなのだ。



「まあ、刺激があるからな…でもリズはこの味を広めたいんだろ?」


「うん…私が美味しいチョコミントが食べたいっていうのが一番にあるにはあるんだけど、正直に言うと、このチョコミントが好きな仲間を増やしてチョコミントっていう味を周知させたらとてもいいなあと思うの…でも好みが分かれる味だから人に勧めずらいというか……」


「どんなお菓子だって、料理だって、味覚は人それぞれなんだから全員が全員受け入れられないなんてことはないだろ。実際俺もカインも料理長もこの味は美味しいと思ってる。とりあえず母上にこれを勧めてみて、もし母上が気に入ったら母上の開くお茶会でお披露目させてもらえばいいんじゃないか?」


ギルのお母様、王妃様の味覚は比較的ギルと似ている。

ということは王妃様にこれを受け入れてもらえるかもしれない。王妃様は美しくて優しくて、お妃教育のときはちょっと怖くて厳しくて、でもそんな王妃様とこの味を共有出来たら嬉しい。


「ありがとうギル! 今度の王妃様とのお茶会のときにこれを持っていけるよう、もう少しレパートリーを増やしてみるわ!」


ギルが少し口の端を上げて私の頭を撫でる。

ちょっと前くらいからギルはこうして度々私の頭を撫でたりするようになった。私の見立てでは、2年前にギルに妹姫が産まれたから、妹を可愛がっているときの癖が私相手にも出てきたのではと思っている。

それを以前サラに言ったら、ひどく出来の悪い子をみるような目でため息をつかれた。


じゃあギルはどういう気持ちで頭を撫でているっていうのだろう。


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