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チョコミントクッキーができた


自室にいると、扉をノックされた。

メイドのサラが部屋に入ってくる「ギルバート殿下がお呼びですので、広間まで起こしください」



ギルはとりあえず作ってみると私に宣言したあと、料理長を呼んでミントの葉とチョコレートとクッキーの材料を用意するように指示を出した。



「チョコミントクッキーを作るの? チョコはチョコチップにして欲しいわ!」



この世界のチョコには味などの変化もないが、チョコチップなどの亜種といえばいいのか、そういったものもなかった。仕方ないじゃないか。料理をしない人間の食べ物に対する語彙力と知識のなさなんてこんなものだろう。開き直りである。

それにしても、チョコはあるのに他がないって、ちょっと不思議だ。

誰も新しい味を作ろうとか、チョコ味の何かを作ろうとかしなかったのかな…うちの料理長をみる感じ私のような何かいきなり思いついた人間に対して拒否感は感じられないし、今もギルと一緒に新しいものを生み出すことにわくわくした表情が見えるので、私がこれから前世の記憶を生かしてこれを作ってといったら作ってくれるだろうと思う。


…問題は私がそれを正しく伝えられるだけの知識がないことだけだ。

例えばチョコチップひとつにしても「ええと、いつも食べるチョコは一口サイズとかになってるでしょう? あれを砕いて小さくしたものよ。小さくっていってもグリーンピースくらいかしらね。クッキーの中にそれをいれると、生地のさくさく感のなかにチョコレートの食感がまざって楽しめるのよ」と私のなかでは当たり前にある知識を説明するのに大変頭を使った。


チョコチップはまだいい。要は既存のチョコレートというものの大きさを変えてくれというだけなのだから。



これが例えば、私がラーメンが食べたいと思ったときに上手く伝えられるかといったら全く別だと思う。



所詮実家に暮らしていたため家事も覚えず、仕事上での書類整理やPC操作などはそこそこ出来るが、人付き合いがうまいわけでもない、26までオタクをして生きていただけの日本人女性だったのだ。

知識チートなんてものは夢のまた夢。あんなものは趣味にアロマを作っていました!とか、料理作りが趣味でしたとか、そういう選ばれし転生者のみが出来るものなのだ。


前世の私は、オタクの二次創作即売会のキャライメージアクセに憧れて、羊毛フェルトやレジンでアクセサリー作りなどに手を出したことはあるが、熱しやすく冷めやすい性格と、絶望的に不器用だった手先のおかげで売るとかそういうレベルには逆立ちしてもなれなかった。つまり、そういうことなのだ。



そんなことを考えながらぼんやりと厨房の隅にある椅子に座ってミントの葉を細かく刻むギルを眺めていた。王子なのにずいぶんと包丁を握る手つきが慣れている。

最初に厨房にギルがやってきたときの料理長なんて恐縮しきりで、もし王子殿下に怪我でもさせたらと顔面蒼白だったものだが、今となってはもはや弟子でも見るような目つきでギルの作業を横目にチョコを砕いている。


あ、ギルがこっちにやってきた。ミントの葉を持っている……

「ふぎゃっ?!」


は、鼻にミントの葉っぱを押し付けられた…! ミント特有のスーっとした香りが広がる。


「何をしょげているんだ。お前がこういったときに全く戦力にならないことなんて今さらだろ?」


「べ、別にしょげてたわけじゃない…」


しょげていたわけではない…と思う。自分って役に立たないなあ、と改めて思っただけで。

あ、これがしょげてるってことなのかな?


ギルはいつも私の気持ちに私本人より先に気づく。

ミントの匂いで少しだけ頭と気持ちが冴えた気がする。



「そんなに暇だったら部屋に戻ってろ」



…はい。役立たずは部屋におとなしく戻ってます。







そんなわけで冒頭。

広間とは、家族で食事をする部屋のことを指している。


ギルとのお茶会は2週間に一回、王城と公爵家の交互に会場を変えて行っている。まぁその他にもお妃教育のために登城する際にタイミングがあえば会うし、剣の稽古では一緒の先生に習っているため実際は週に2、3回会うことがあるのだがそれは置いておいて。

4週に一回、つまり約1月に一回はギルは公爵家にきて、お茶会をして、たまに昼食、早く来るときには朝食なんかを食べてくる。


この国の成人は18歳で、私たちはまだ12歳児であるため、基本的に日が傾く前に解散になる。

だから行動はすべて日があるうちなのだ。

毎月のように広間で食事をするギルはすでに自分の家のようかのように自由に歩き回るし、うちの使用人もそんなギルを好きにさせている。



広間まで移動する間にぼんやりと考える。


前世の記憶は、一気に私の脳内に現れるわけではなく、何かの拍子に紐づいて思い出していく。


例えば先ほどラーメンが食べたいな、と思った私の頭のなかに、ラーメンって何だっけ?という疑問がまず沸き、ラーメンってこういうものだという前世の知識が出てきて、あの時食べたラーメンが美味しかったなあ…といった具合だ。

こう説明するとまるで自分の中に別人がはいってきたように思うが、どちらかというと精度の低いウィ○という感じがする。



「チートがしたいわけじゃないけど…それでもやっぱり、思い出したら欲しくなっちゃうもんなぁ」


「何またぶつぶつ言ってるんだ。遅いぞ」



ギルが広間の扉を開けて早く中に入るように私を促す。

エスコートというより、早くしろという意味で腰に腕を回されて歩く。



広間の大きな机の上に並んでいたのは、まさしくチョコミントクッキーだった。



「…えっ??! すっごい見た目だけでもうすでに私の思ってたチョコチップクッキーのミント味が再現率100%…さすがギルと料理長…!!」


大きめのお皿が2つ並んでいて、クッキー生地に砕いたチョコとミントを練りこみ薄緑色のクッキー

と、チョコを生地に練りこんだからか茶色の生地のクッキーがそれぞれの器に盛られていた。



「俺と料理長で作って味見してみたところ、さっきリズが言っていたような食感の違うスッとした味のするクッキーが出来た。とりあえずこの薄緑のほうがリズの求めていたものなんじゃないかと思う。食べてみてくれないか?」



クッキーをつまむ手が少し震えていた。

思いつきで言ったことなのに、ここまで私のつたない説明で作ってくれた迅速な対応と確かな腕に感謝の気持ちしかわかない。


さくっとしたクッキーと、パリッとしたチョコの食感。

それに加えてミントの爽やかな清涼感。


求めていたものがそこにあった。


ギルの両手を掴んでシェイクする。

「ギル!! 貴方最高よ!! これよこれ! チョコミントよ!!」


料理長には感謝のハグをしようと飛び掛ったところでギルに止められた。

淑女の首根っこ掴むなんて真摯とは言いがたいですよギル君。いまめちゃめちゃテンションが高いので笑って許すけど。


何ならギルにも感謝のハグをしよう。この素晴らしいものをこの異世界に生み出してくれたギルに最大の感謝を!!!


ぎゅっと抱きついて頬にキスをしたらギルが呻いて倒れた。

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