チョコミントの作り方って知ってます?私は知らない
さてさて、厨房に着きました!
それにしても、第二王子と令嬢がいきなり厨房に現れて、作りたいものがあるからちょっと厨房の隅を貸して!と言ったらスムーズに厨房の一角と、エプロンなどを用意してくれる手際のよさ、さすが我が公爵家の人員だわ…私の突然の思いつきによる突撃訪問に慣れすぎている……。
まあ過去にもいきなり「今日のおやつのマフィンが美味しかったから私も作り方が知りたいわ」と押しかけたり「ギルと一緒にクッキーを作りたい。だってギル手先が器用だからきっと私が作るより美味しくなるわ」「俺がメインで作ることは決定してるのか…」といって押しかけたりしたことがあるからだと思うんだけど。
…前世の記憶が戻った今では少し冷静に自分のことを俯瞰してみることができるように思うんだけど、自分、結構ご令嬢として規格外では?
この世界のご令嬢は普段、お茶会を開いたり、刺繍をしたり、本を読んだりして過ごしているらしい。
ところがどっこい、自分といえばギルとは定期的にお茶会をしているけど、絶望的に女の子と話しが合わないため女の子の友達がおらずギルと(時々王城で王妃様と)以外ではお茶会をしたことがなく、手先が不器用なため刺繍の才能なしの太鼓判を押されてしまい、本はお妃教育の一環で勉強を色々しているおかげで結構読むのだけど、それもギルと同じものを読むため(そう、意外とよく言われるし自分でもそう思うんだけど、私は結構教科書の文字を覚えるのは得意なのだ)令嬢の教育とはまた違うものになっているし、乗馬が好きだし剣もギルと一緒に習っているためかなり身体を動かすのが得意なほうだ。
お母様には「年々わたくしの若いころに顔や体つきがそっくりになっていくのに、どうして中身はそんな風になってしまったのでしょう…わたくしが産んだのは男の子ではないのですよ」と嘆かれ、お父様には「そんなお前でも殿下や王家の方々は比較的好意的に受け止めてくださっている。本当に有難いことだ…いいか、お前がお前のままでいられるのは殿下のおかげなのだから、婚約破棄などされぬように」と釘を刺される。
言いたいことは分かるけど…その貴族らしからぬはっきりばっさり物を言うところは両親に似たんだよ!とだけ返しておいた。
話しがそれてしまったので元に戻そう。
そう、厨房に着いたのだ。
そしていよいよ、チョコミントを作りたいと思います!
「チョコミントが食べたいので、ギル、知恵と力を貸してください」
ギルと一緒に厨房を借りたのは一度や二度ではない。さすがに王城では厨房に行くことはないみたいなんだけど、最初にクッキーを一緒に作ってからギルは料理を作る楽しさに芽生えたらしくてそれから度々私に振り回された体をとって公爵家の厨房に来ては何か料理を覚えている。
私? 主にサポート(ギルの袖をまくったり、味見をしたり)がメインでこんなに厨房に通ってるのに料理作りに芽生えてませんね。
まあ普通のご令嬢は厨房になんか行かないんだけど。もっと言ったら、普通は王族を厨房に入り浸らせたらいけないと思うんだけど、そこはギルの柔軟に受け止めてくれる感性なのか、普通に料理作るの楽しいだけなのか、厨房の料理人ともども受け入れてくれてるから良いことだと思っておこう。
「そのチョコミントっていうのがリズの作りたいって言ってたやつなのか? 前世の記憶が関係してるっていう」
「そうそう。前世ではね、チョコって一口に言ってもいろんな味があったんだよ。その中で一番私はチョコミント味が好きだったの」
この世界にはチョコはある。あるけれど、それは品質や味、どれをとっても遠く私の記憶のチョコには及ばない。日本のチョコの味を思い出した今、本気で思う。滑らかさが足りないんだよぉ…
そしていつかチョコミントだけでなく、いろんな味も開発したい。チョコミントの次はダークチョコかな。ギルはそんなに甘いもの好まないし。
「チョコミント…てことは必要なのはチョコレートとミント…か? 他に何が必要なんだ?」
「うーん、知らない」
「は?」
いやぁ、とへらへらした笑いを見せる。ギルの眉間にしわが寄った。いかんいかん、この笑い方をすると王妃様は扇を広げてにっこりと美しくて背筋が凍るような笑顔になるんだった。これは王妃様流の「それはいけません」のポーズだ。
緩んだ表情筋を締める。
折角可愛い顔をしているのだから可愛い表情とポーズを覚えなさい、あざとさは武器です。と王妃様から色々仕込まれているうちの一つ「困ったなあ」の顔をする。
リズ の あざといかお !
ギル は こうげきりょく が さがった !
私は知っている。ギルはこういう顔に弱い。今もちょっと「うっ」と言って私から目線をそらした。
いくら可愛い顔とはいえ、私のこういういかにも作ったあざとい顔に引っかかるギルは、将来悪女とかそういうのに引っかからないかいささか心配ではある。
「えっと、私は前世の記憶を思い出したんだけど、前世の私もお料理をするほうではなくて、チョコミントにチョコとミントが必要なのはわかるし、外見も味も、たくさん食べてきたから分かるんだけど、肝心の作り方は知らないの。だって作ったことも作ろうと思ったこともなくって」
ギルの ため息 こうげき !
リズは 100 の ダメージ !
「…まあ、いいよ。最初に俺を巻き込んだ時点でなんとなく分かってた。で?最終的にどんな形になったらいいんだ?」
この切り替えの早さは、付き合いの長さなだけあるなあと思う。
「最終的に…チョコチップのミントアイスなんかが出来ると理想だけど、この世界に冷蔵庫とか魔法とかないもんね。アイスは諦める。でもチョコミントが出来たらきっと夏の暑い日にぴったりのスイーツとして大人気になること間違いなしなのよ! チョコのなかにミント味のソースとして入れて甘さの中にひんやりしたチョコレートというのもすきなんだけど、やっぱり王道なのはチョコチップとミントの組み合わせになるのかしら……ミントの薄緑色にチョコが爽やかに映えてそれはもう素敵なのよ。ああ、料理に対して知識のない自分が悔しい…!」
一通りチョコミント味の素晴らしさを語った自分をみるギルの目は、なんなんだ急にこいつは。と雄弁に語っていた。
仕方ないじゃない。前世の記憶を思い出してから、性格はほとんど変わってなかったと思うけど、プラスして前世のオタク魂がやってきたんだもの。
好きなものに対して語るときは早口で瞳孔が開いててまくし立てる感じになっちゃうのって、仕方なくない?
「…まあいい。なんとなく分かった。とりあえず料理長と俺で作ってみるから、お前は待機してろ」
さすがギル!
こんな説明だけでとりあえず取り掛かってくれるらしい。
頼りになるのは前世の記憶ではなく、目の前の何でも付き合ってくれる悪友様である。