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不得意な場所

 他者と旅を共にする冒険者はパーティを組むのが常識らしい。


 経験値の共有化、パーティボーナスといった様々な利点があるそうだ。


 さっそくヘルプの案内通りモアとパーティを組んでみた。


 俺の視界の左上には、俺とモアの名前・レベル・ステータスが簡易表示されている。


 魔物を倒した経験がないと言っていたモアだったがレベルは15と俺より高い。


 下層区画での経験がモアのレベルをここまで上げたのだろう。なにも不思議な話ではない。


 当面の目標は俺とモアのレベル上げだ。他国の来訪者も仲間を集い行動に移している頃だろう。


 まずは拠点か。与えられた部屋を拠点にする事も出来るだろうがどうも監視されているようで落ち着けない。


 街に出て宿屋の一室を確保するのが先決だろう。


 宿屋の位置は以前コボルトの素材を売る際に確認してある。迷うことなく目的の場所へとたどり着く。


「宿屋のご利用は初めてでいらっしゃいますか? では、ギルドカードの提出をお願いします」


 王都は様々な国の人間、亜人が出入りしている。件数自体はそこまで多くはないが流血騒ぎを起こす者も中にはいる。そんな時に役立つのがこのギルドカードだ。


 要は身分証のようなもので、各国の入国や施設を利用する際に提出が義務付けられている。


 問題を起こせばギルドカードにペナルティが与えられる。ペナルティが一定数貯まるとギルドカードを一時的に剥奪され、数ヶ月から数年間の強制労働を強いられる。この制度は多国間で用いられているため世界共通の認識だ。


 こんな制度がある以上、下手に騒ぎを起こそうとする者は余程の物好きか後先を考えない愚か者だけだろう。


 また、ギルドカードにはもう一つの用途がある。ランクの存在だ。


 アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ……。と順に階級が上がっていく。


 特定の階級でしか入る事の出来ないダンジョンや施設なんかも存在するらしい。


 平民が持つギルドカードは、アイアンのランクに位置する。


 駆け出しの冒険者であればブロンズだ。これは冒険者登録の申請を行う際にブロンズへと昇格するためでもある。


 以降の階級に関しては、実績に伴って変化していくらしい。


 俺とモアは冒険者登録がまだ済んでいないので、アイアンのランクだ。


 また冒険者登録は各国の街に存在するギルド連合会にて登録の申請が行える。


 このギルドカードという制度だが色々思うところがある。


 そもそも来訪者の俺に身分も何もあったものじゃない。モアもそうだ。下層区画へ堕ちる際に一度剥奪されている。だが俺との旅で必要になる事は目に見えていたので、モアの分も王に頼んで再発行して貰ったのだ。


 その際に王に言われた事がある。


「その少女のギルドカードの発行は可能だ。だが、無条件と言う訳にはいかんのだ。一度剥奪されている以上、再発行が行えるのは理想郷の住人が下層区画の人間を購入した場合に限る」


 要するに、モアを連れて行くなら議会に金を納めろと王は言ってるのだ。


 王は言葉を選んでるかもしれないがそもそも奴隷に人権を与えるような物好きはいない。


 奴隷の購入は議会を通す必要がないのはわかっている。今回のケースに限り金が必要だと言っているのだ。


 金額は一律、金貨48枚らしい。俺には王から貰った金貨50枚がある。差し引いても金貨2枚は手元に残る。十分だろう。最初から多すぎた。


 王から貰った金ではあるがモアを金で買ったようで気分は頗る悪いが。


 店主に俺とモアのギルドカードを手渡す。


「確認できました。ご提出ありがとうございます。お部屋の希望は御座いますか」


「ベッドが2つある部屋を頼みたい」


 俺の服の袖を引き、一つでいいと言うモアのことは無視する。


「一泊、銀貨4枚になります。連泊される場合は、受付の者にお渡し下さい」


 案内された部屋は、王城の一室には遥かに劣るが狭さ故に落ち着く広さだった。内装も清掃が行き届いているのか清潔に保たれている。


「そうだ、これ渡してなかったな。モアのギルドカードだ。使い方はわかるか?」


「わたしのギルドカード……。下層区画に落とされる時に取られちゃったのに。どうしてりょういちが持ってるの?」


「俺との旅にそれがないと困るだろう? 王に言って発行してもらったんだよ」


「そうなんだ……」


 色々思うこともあるだろう、要はこのカードさえあれば国に人権が認められていると同義だからな。


 そもそもの話、剥奪されるのが変な話なんだがな。


「モア、しばらくはここを拠点にする。今日のうちに必要な物を揃えにまた表へ行くが、着いてくるか?」


「りょういちに迷惑がかからないなら一緒に行きたい」


 迷惑? 何に対してだ? まぁいい。色々連れ回して疲れさせるのも悪いと思って聞いたが来てもらった方が都合がいい。装備の事もあるしな。


 モアを連れ、再び街へとやって来た。メインストリートと呼ばれる場所は多くの人で賑わっていた。食事にはまだ早いので先に装備品を扱う店を探すべく歩を進める。


「りょういち、わたしここに居てもいいの?」


 モアから突拍子もない、問が飛んできた。


「どういう意味だ? 誰もお前を咎める奴なんて居ないだろ」


 発言して気付いた。下層区画時代にこの場所へ来る事はご法度だったのか。


「ここの住人はわたし達をよく思ってない。それに、人としての扱いをしないよ?」


 迷惑ってのはそういう意味か。私達っていうのは下層区画の住民の事だよな。


「モア、お前を悪く思う奴はここには居ないよ。それにギルドカード持ってるだろう?」


「うん……」


 以前何かあったのかもしれないな。長居させるのも申し訳ないがこればっかりは慣れてもらうしかないな。


 そんな事を思っていると、香ばしいというか懐かしいか、そんな匂いが漂ってきた。匂いの元へ向かうと、どうやら団子が売られているようだ。


 ちょうどいい、モアに食べさせてやるか。少しは元気になるだろう。モアの食事をする姿は何度か見たがとても美味しそうに頬張るからな。というよりも、団子がある事に驚いた。俺が食いたい。


「すまん、6本くれ」


 銀貨1枚を差し出し、既に焼き上がっていた物を紙袋に入れ手渡される。俺とモアで3本ずつだ。


「おう、お嬢ちゃん可愛いな! おまけだ、これも持っていきな!」


 モアは店主からお菓子らしき物を貰っていた。


「え……あ、ありがとうございます」


「ほれ、団子だ。食ったことあるか」


「あるけど、わたしが食事する必要がないのは知ってるよね」


「ああ。知ってるよ。血も吸わなくていいのもな。なんだ、モアはいらないのか? なら俺がモアの分も食べるか」


「……たべる」


 ちっちゃい口で頬張るその姿は、どこからどう見ても年相応の女の子だった。


「りょういち、もちもちで美味しいね」


 街に出てから暗い表情をしていたモアだったがこの時、はじめて笑顔を見せた。


 それからというものの。


「お嬢ちゃんかわいいね! 買い物のお手伝いかい? えらいね~! これ持っていきな!」


 あちこちで、声を掛けられ今では俺とモアの両手いっぱいに食材がある始末だ。


 もはや、買い物後に見えるがまだこれからなんだよな。一度宿に戻るか。


 宿に戻り荷物を置いてから、当初の目的の店に一直線に向かう。


 どうやら俺が訪れた店は、武器や防具なんかが一緒に販売されている店らしい。


 別々で扱う店もあるようだが特にこだわりもないし、会計もいっぺんに済ませられるならこの場所で正解だったかもしれない。


 店内のそこら中に武器や防具等の装備品が展示されている。


 見て回っても正直わからん。店主に聞くのが一番手っ取り早いか。


「おーい、誰かいるか? 俺とこいつの装備を買いに来たんだが、見繕ってくれないか」


 店主とは思えない、屈強な冒険者寄りの巨体な男が店の奥から現れる。


「らっしゃい。おう、あんちゃんと、嬢ちゃんの装備だな。予算はどのくらいだ」


 予算か……。王に貰った金はモアのギルドカードの発行でほとんど使ってしまった。手元には残りの金貨2枚と魔物退治で得た銀貨が少しだけだ。何があるかわからん、出費は抑えたほうがいい。少し吹っかけてみるか。


「特に上限はないな。この店で一番高い物だとどれくらいするんだ」


「今あるもので嬢ちゃんのを揃えると、銀貨40枚前後だな」


 俺のも揃えるとして、二人で金貨1枚にもならないか。高い水準の物でも何とかなりそうだ。


「そうか、なら俺とこいつの装備を頼む」


「悪いな。ちょうどあんちゃんが装備出来るような物を切らせててな。オーダーメイドで良ければ受けれるんだが、それでもいいか」


「そうなのか。なら俺の分は後日にしてもらって、今日のところはモアのを頼む」


「こんな可愛い嬢ちゃんを俺が図るのもいけねえな。ちょっと待ってろ、おーい! 採寸手伝ってくれ」


 そんな店主の声に呼ばれ店の奥から、俺と同じぐらいの年齢の女性が出てくる。


「まーた、お客さんの前で大声出して。いらっしゃいませ。驚かせてごめんなさい。あなたね? 採寸するから、こっちまで来てもらえる?」


 そう言い、試着室の様な場所にモアを連れて行った。


「ずいぶん可愛らしいお嬢ちゃんだが、あんちゃんの妹か」


「ああ、そんなところだ」


「にしては、似てねぇな。俺も人のことは言えねーが、あんちゃん目つき悪いって言われないか」


 この世界では、はじめてだがもう何度も言われた聞き慣れた言葉だった。こればっかりは生まれつきだからどうしようもない。


「妹が可愛い分、悪いところは全部俺に来たのかもしれないな」


「はっ おもしれえこと言うじゃねえか! 人は見た目じゃねーからな。肝心なのは中身よ、中身!」


 この店主、良いこと言うな! お得意様になっちゃいそうだ。俺も相当ちょろいな。


「さっきの女性は、娘か」


「ああ、俺の一人娘さ。妻が早くから逝っちまってなぁ。家事なんかは全部やってくれてる。なんだ、気があるのか」


「何でそうなるんだよ……。雇ってる従業員にしては、店主に対して遠慮がないなーって思っただけだ」


「そういう事か。もしあんちゃんが嫁にくれ! なんて言うものなら俺の鉄拳が黙ってないからな! 大切な客だ、殴るような真似はしたくないだろうよ?」


「安心しろ。そんな気は一切ない。これからも大切な客として懇切丁寧に扱ってくれ」


「はは、あんちゃんおもしれーな。予算に上限を設けないのを見ると、あんちゃんと嬢ちゃんは、何処かの貴族の出か?」


 来訪者の俺が下層区画に居たモアを妹として連れ回っているのも変な話か。ここは話を合わせとくか。


「ああ、そうだ。晴れて年齢も二十に達するからな。その記念にってところだな」


「なんだ、娘と同じ年か。自分の時間は与えてるんだけどなぁ。休みも禄に取りやしない。あんちゃんの時間のある時でいい、声でもかけてやってくれ」


「おいおい、さっきと言ってる事が違わないか? 殴られたくはないぞ」


「ああ? もちろん手を出したら容赦しねーぞ!」


 そんな話を店主としていると、モアと娘が試着室から戻ってくる。


「はい、おーわり。モアちゃん、お疲れ様!」


「りょういち……うう……」


 どうしたモア! 酷く疲れた顔をしてるぞ!


「モアちゃん見た目によらず、私よりも大きいんだもん! ちょっと個人的に気になってね? いろいろと……」


 そういう事か。俺も男の子だ。ちょっとは想像しちゃうぞ。


「モアちゃんに合うサイズの防具はこれかな。お父さん、武器の事はちゃんと聞いてるの?」


「あ、わりい。その話をするの忘れてた。こいつがアンネの事を気になるとか言うからな」


「またそうやって、お客さん困らせて! お父さんがごめんなさいね」


 本当に仲の良い親子なんだな。


「わりいわりい、武器なんだがな。嬢ちゃんの適正武器って何になるんだ?」


 適正武器――。要はモアの装備可能な武器は何かって事か。


 ステータス欄でモアの詳細を見てみる。短剣と表示されているがそれ以外でも装備できるのだろうか。


「短剣だな。それ以外は、装備出来なかったりするのか?」


「いや、そういった事はないが適正武器以外の装備はペナルティがある。うちで扱ってるのだとそうだな。嬢ちゃんの適性が短剣ならこの剣をちょっと持ってみてくれ」


 店主に差し出されたのは、モアが持つにはあまりにも大きい大剣だ。


「お、重たい……」


「その様子じゃ振り回せそうにもないな」


 単純に武器の重さって感じもするが。


「嬢ちゃんぐらいの背格好でも適正武器が大剣であれば、問題なく振り回せるからな」


 なるほど。適正武器以外の装備は出来なくはないが重さのペナルティが課せられるってことか。


「短剣なら最近入ったのがあったな。少し値は張るが質はいいぞ。ちょっと待ってろ」


 そう言い、店の奥へと取りに戻る。


「あった、あった。これだ。ラボトカイセ山脈で取れる鉱物で作られた短剣だ」


 ラボトカイセ山脈。王から貰った地図にあったな。確か北に位置するとてつもなく大きな山脈地帯だ。


 店主からモアへと短剣が渡される。


「モア、どうだ? しっくり来るか?」


「私が持っていたのよりしっかりしてるし、それに軽いかな?」


 以前モアが持ち歩いていたナイフは、所々錆びついて切れ味も悪そうだったからな。


「そうか、ならそれにしよう。武器はこの短剣でいい」


「ウチとしては高いものが売れるからいいんだが、他に見なくていいのか?」


「うん。これでいい。けど、お金……大丈夫なの?」


「お前が気にすることじゃないさ。それに、その短剣気に入ったんだろ?」


「そうだけど……」


「ってことで、オヤジ、それでいい。合わせていくらになる」


「嬢ちゃんの武器と防具だけで、金貨1枚になるが。出せるのか」


「ああ、問題ない」


 最初提示してきた、銀貨40枚から考えるとさっきの変哲もない大剣が銀貨10枚前後だったからな。防具だけで銀貨30枚か。


 そうなると、この短剣は銀貨70枚相当って訳だ。相場なんてものはわからないが、騙されたとしても勉強代として思えばいい。


 懐から金貨を出し、店主へと差し出す。


「あんちゃん。少しは人を疑う事を覚えたほうが良い。その短剣、確かに質は良いが銀貨70枚もする程の代物じゃない」


「黙ってれば、相場に疎い俺を騙せただろ」


「これでも商売だ。時にはそういう事もするさ。だがな、あんちゃんと嬢ちゃんを俺が気に入ったんだ。試すような事して悪かったな」


 実際には、この短剣の価値は銀貨30枚らしい。防具と合わせて60枚が相場との事だ。 


「その金貨は返さなくて良い、オヤジの話が本当なら40枚は浮くんだろ? それで俺の装備を揃えといてくれればいいさ」


「はっ、そうかよ。揃えたら連絡を入れる」


 アンネに俺とモアが暮らす宿屋の場所を伝え店を後にする。


 オヤジの店から帰る途中、俯きがちのモアが俺の顔色を伺うように二度、三度見上げてくる。


「ん? なんか俺の顔についてるか」


「りょういち、全部お金出させちゃってるけど、わたし返せるお金なんてないよ」


「モアにはこれから魔物との戦いで頑張ってもらうからな、気にするな」


「そう……。りょういちの足手まといにならないようにわたし頑張るね」


「ああ、頑張れ。その意気だぞ」


 実際はモアの方がレベルが高いので俺のほうが足を引っ張ることになりそうな気もするが。


 ────────────────────

 ‐ステータス‐


 レベル:15

 余剰スキルポイント:150


 名前:モア・クリンクヴァル

 種族:吸血鬼(元ヒューマン)


 ・魔法一覧

 全属性に適正があります。

 スクロールの使用にて、習得可能です。


 ・スキル

 詠唱短縮

 食事不要

 吸血衝動 ※何らかの影響で無効化されています。

 気配察知

 危機察知

 幸運

 ───────────────────


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